彼女との出会いは――といってもクラスメイトだし、もともとよく話すほうというわけでもない。
 ただ、フレンドリーな彼女はなにかと話しかけてくれるというだけ。

 佐伯さんはいわゆるクラスの人気者で、簡単に言えば、無邪気なムードメーカーといったところ。

 優れた容姿に高いコミュニケーション能力を兼ね備え、陽キャと呼ばれるべくして生まれてきたような女子。
 だけれど派手すぎるということもなく、ギャルという感じでもない。

 いつも笑顔で天真爛漫な彼女は好感を持たれやすいタイプだとは思う。
 現に友人も多いし、入学から数ヶ月しか経っていないのに早くもモテている。

 だけれど俺は、佐伯みなみのことが少し苦手だ。
 時は、入学から数週間が経った日に遡る。




「――そうだ悠、掃除終わったらカラオケ行かねえ? 純矢と行くんだけど」


 友人の涼成が箒を片手にのそのそと近づいてきた。
 丸刈り頭で野球部の彼は、今にも箒をバットに見立てて素振りをはじめそうだ。
 カラオケに誘ってくるということは、今日は部活が休みなのだろう。

 掃除が終わったら、といってもまだ始めたばかり。ようやく机を後ろに寄せたという段階だ。
 学校の外からザワザワと聞こえてくる話し声が羨ましい。

 
「カラオケかあ――」
「あ、ゲーセンでもいいよ。純矢はついてるけどなー」
「ひとを付属品みたいにいうな! てかおれはもともとゲーセンがいいんだよ」
「今日はカラオケの気分だから、はいカラオケで決定しましたー」


 大柄な涼成の影からささっと飛び出した純矢が、キッと涼成のことを睨みつけた。
 ハリネズミみたいな髪の毛は今日も元気そうに逆立っている。
 男子にしては身長が低めで瞳も大きい彼は、どこか小学生みたいだ。本人のコンプレックスらしいので、口が裂けても言えないけれど。

 見ての通り仲の良いふたりは中学時代からの親友で、よく遊びに行っているらしい。
 俺は、いうならば後から接着剤でくっつけたような〝付属品〟で、その間に入っていくことは当然遠慮も覚える。
 だから、今日も。


「ごめん、このあと歯医者があるから無理かも。また今度で」


 そうやって笑いながら謝るのが、誰にとってもいいのだろう。
 俺がいない方がカラオケも盛り上がるはずだ。


「あーマジかあ、じゃあ次は絶対来いよー」
「悠とも点数勝負したいしな!」


 そうやって言ってくれるふたりに「俺の歌は有料級だからなー」なんて軽口を叩いてみせる。
 なんだそれ、と笑い混じりな彼らの反論を聞きながら、やっぱりこれがいいと思う。
 これが一番平穏だ。
 平和な解決、そう思った、のに。


「歯医者行くって、言い訳の定番を使ったね!」


 教室にひとりの女子の声が響き、瞬間、パキーンと音を立てて場が凍りついた。