「佐伯、今、告白……」


 呆然とした頭に浮かんだそんな疑問は、一瞬で消えてしまった。


「楽しいでしょ! 辛気臭い空気は、吹き飛ばす!」


 悠くんの水鉄砲もあるよ、と近くにあった袋をこちらによこして川に水を補填しに駆け出していく。

 確かに、キラキラした笑顔の彼女はすごく楽しそうだ。
 濡れることを奇跡的に免れた小説を置いて、俺も立ち上がる。

 水鉄砲を手に陽だまりの中に出ると、暑い日差しが照りつけてきた。

 さっきぶっかけられた水のせいで、なんだかモワモワする。
 だけれどそれすらも楽しい。

 そう考えてしまう俺は、きっと佐伯に染められている。


「水鉄砲なんて久しぶりだなあ」


 水を汲みながら言うと、彼女は瞳を揺らしながら「たまにはいいよね!」と笑顔をこちらに向けた。


「やっぱり夏って最高!」


 ばしゃ、と水をこちらへ飛ばしてくる彼女に、俺も応戦する。
 水滴と笑い声が飛び散って、そのたびに頭から濡れていく。

 青空が高すぎて、太陽が眩しすぎて。

 そんななかにいる俺たちも、今だけはそのきらめきに負けていない。


「ねえ悠くん」
「なに」


 水鉄砲をこちらに向けながら、どこまでも爽やかに彼女は笑った。


「好きだよ!」


 その表情に、また心臓がばくんと音をたてた。それはきっと嘘じゃない。


「――そう」
「ちょっ悠くん、急に無表情やめて……っ!」


 笑いを堪えきれず吹き出した佐伯に、俺も表情が崩れる。

 心臓が壊れそうなほどの拍動も、なにもかも全部、佐伯のせいだ。
 今日の河川敷は笑い声に包まれていた。