河川敷に隣接している道路に出ると、いつもの高架橋が見えてくる。
 視界は、ほとんどが空の青、川に反射した白、葉っぱの緑。つまり夏色でいっぱいだ。

 高架下に到着すると、今日もやっぱり誰もいない。
 こんなにいい場所なのに、夏場だからだろうか。確かに、この暑い空気のなかで、わざわざ外に出てぼーっとしている俺がおかしいのかもしれない。と、急に思えてきた。
 そういえば佐伯も「物好きだね」みたいなことを言っていた。


「暑さ感知センサーが壊れてるのは、俺もだったりして」


 いや笑えねー。
 影の中に移動して、途中の自販機で買った天然水を喉に流し込む。それだけで全身に新鮮な水分がまわって、体のだるさがかなりマシになった。天然水って、リアル回復薬かもしれない。

 バカみたいなことを脳内で呟きつつ、手に持っていた小説をぺらりとひらく。
 約束の時間までにすべて読むのは難しいだろうけれど、それはそれで続入荷したものを購入する楽しみにもなるだろう。

 そう小説の冒頭部分から読もうと目をやったそのとき。


「……あれ、悠くん?」


 後ろのほうから聞こえた声に体がピシリと固まった。
 同時にザクザクと葉っぱを踏む音。確認しなくても、誰なのかなんてその声色で一発でわかる。


「佐伯、時間ってまだ、一時間以上空いてるんじゃ……」
「それはこっちのセリフだよ! 悠くん来るの早すぎない⁉︎」
「いや暇で……」


 百面相みたいに驚いた焦ったを表情に出しつつなぜか怒ってくる佐伯は、今日も感情が忙しそうだ。

 だけれど、この前は最悪の空気で帰ってしまったにもかかわらず、それを感じることなく言葉を交わせたことに正直ほっとした。
 ギスギスしていたらどうしようなどと思っていたけれど、取り越し苦労だったみたいだ。

 そんなことを内心考えながらムッとしたように頬を膨らませながらこちらへ歩いてくる彼女を見ていると、なにかに違和感を覚えた。
 だけれどすぐに、私服か! と気づく。

 佐伯のスタイルの良さがわかるレモン色の長いズボンは、残念ながらファッションにあまり興味のない俺には種類の名前はわからないけれど、足首が隠れるくらいまであって、動きやすそうだという印象だ。気分がシャキッとするような色。
 そこにインされている白のワイシャツは、制服のものとは違ったお洒落なやつに見える。

 いつも子供みたいな言動をする彼女が、服ひとつで大人っぽく見えてしまうから不思議だ。


「あ、悠くん私服だー! レアな姿を見てしまったな、自慢しよう」
「いや誰にだよ」
「うーん、悠くんに?」
「なんだそれ」


 今日の佐伯も、安定して意味がわからない。