――――ヴー……ヴー……。

 自室のベッドに寝転がり、木目の天井をぼーっと見上げていると、枕元に置いていたスマホが着信を知らせた。

 あっという間に一日が経過していて、気づけば土曜日お昼過ぎ。今日もクーラーの効いた部屋でだらだらと快適に過ごしている。

 あのあと家に帰るなり一気に読み切った作岡孝雄先生の新作は、まさに「すごい」の集合体だった。
 展開もセリフも何もかもが心に染みわたって、思い出すたびに感動と興奮が再熱する。心臓がきゅうっと締め付けられるような感覚が、読み終わった後も、何度もぶり返してくる。

 一日経ってもいっこうに終わらない余韻で、なにをする気にもなれない。
 そんな状態でベッドの上で転がっていたけれど、スマホの着信を知らせる振動によって意識がぱんと覚醒した。


「誰だろ……」


 体を起こしてスマホに手を伸ばす。
 両親は今日も相変わらず仕事だけれど、連絡はあまりしてこないタイプだ。
 となると、友人の少ない俺にとって、今連絡が来てもおかしくないひとはかなり絞られる。

 スマホを握るようにして電源を入れる。
 ロック画面に新着メッセージとして表示された、送信主の名前は――佐伯みなみ、だ。


『ねえ、明日の二時って暇かな?』
『悠くんさえよければ、ちょっと話したい』


 彼女には月曜日に登校してから声をかけようと思っていた。

 明日は丸一日予定は入っていない。
 俺が謝罪するならわかるけれど、佐伯が話したいこととは一体なんなのだろう。

 疑問に首を傾げながら返信を送るべくスマホ画面のキーボードに指を滑らせる。
 ばくばく、と心臓が震えているのがわかる。

 ひとつひとつ、文字を打つことがこんなに指が震えるなんて、変な話だ。
 表示された短い言葉を何度か見直してから、ごくりと唾を飲み込み、今打ち込んだメッセージを送信した。


『うん、大丈夫』

『よかった!じゃあ河川敷でね』


 五秒も経たずに返信が戻ってきたことに驚く。
 俺のメッセージに待機でもしていたようなスピードだ。

 スマホを両手に持ったまま、ぽふっと横向きにベッドに倒れ込む。

 明るく感じられた〝よかった!〟の文面に口元が綻ぶ。
 彼女の話したいことがなんなのかはわからないけれど、俺も明日、絶対に伝えよう。

 心に決めて目を閉じる。

 さっきまでミステリ小説のことでいっぱいだった俺の脳内は、今は佐伯のことで染まりきっている。