その次の日から、俺は三十八度を超える発熱と倦怠感によって、学校を休むこととなった。

 母は仕事が忙しいのか、今日も昼ごはんを用意してすぐに慌ただしく仕事へ向かった。
 父は県外への出張でしばらくは帰らない。

 病院へは行っていないけれど、これは風邪ではないのだと、なんとなくは分かる。

 涼成と純矢、そして佐伯とどう顔を合わせればいいのか、どう仲直りをすべきなのか。
 それを、家に帰ってからずっと考えて考えて考えて、考えすぎたことで頭がパンクしたのだろう。

 その証拠に、発熱から三日しか経っていないのに、体調はすっかり全回復している。
 今朝測った体温も、平熱の範囲内だった。


「今頃昼休みかな……」


 時計に目をやりながら呟く。
 家には俺ひとり。
 がらんとした家は、やっぱり苦手だ。

 誰も座っていないソファに、誰も立っていないキッチン。
 電気はついているのにどことなく灰色が漂っているように見える。

 学校へ行っているときは帰りたいと思うけれど、ひとりでいるのもなかなかつらい。
 テレビに録画してためていたアニメは昨日と一昨日で消費してしまったし、漫画を読む気分でもない。勉強なんて論外だ。
 佐伯から借りたミステリ小説も未だリュックの中。なんだか読む気になれない。

 外から聞こえる車の音や昆虫の鳴き声が遠くて、どことなくもどかしい気持ちにさせられる。


「ちょっと、外出してみるか」


 警察とかに見つかったら面倒だけれど、よっぽど運がない限り遭遇なんてしないだろう。
 そのあたりの知識はないけれどちょっと気分転換に外へ出るだけだ。

 クローゼットから白無地のTシャツと黒のセミワイドパンツを引っ張り出す。
 知り合いに会うリスクもないし、軽めの服装でもいいだろう。

 服を着替えてから黒のショルダーバッグに水分やスマホを入れ、靴に足を通す。
 だらだら寝てばかりだったからか、この一連の動きだけでも体が「疲れた」と叫んでいる。

 玄関のドアを押し開けると同時に真昼の日差しが広がり、視界が一瞬白に染まった。

 二日ぶりに外の空気を吸った。
 全身に日光を浴びたのも、思えばそのとき以来にもなる。

 しばらく瞼を閉じて太陽の光のあたたかさに浸る。
 心の奥の無意識に力を入れていた部分が、ゆっくりと解けていくような安心感。


「――よし、じゃあ、そろそろ行くか」


 目を開けてぐんと伸びをしてから、自転車にまたがる。
 行き先は、もちろんいつもの河川敷。

 ペダルを逆向きに蹴ってぐるりと一回転させてから、ぐいっと踏み込む。
 ゆっくりと前進した自転車は、河川敷の方を向いている。

 大事をとって学校を休むことになったけれど、外へ出歩いたらただのズル休みだ。
 なのに、ワクワクしている自分がいるのは一体なぜなのだろう。

 自転車を走らせながら思う。

 きっと、この行動をとったのは俺の本音だ。