授業がすべて終了したときには疲労困憊で、身体がかつてないほどに重い。
 頭の中も、なんだか一面どす黒い。
 帰りの用意をするのも面倒で、最小限のものをリュックに詰め込み教室をでた。

 外の空気はサウナみたいにモワモワしていて、ただ歩いているだけなのに全身から汗が吹き出してくる。
 昨日の反省から持ってきていたスポーツタオルを広げて額にあてつつ、自転車置き場まで歩を進める。

 昨日と違い、ソーダアイス色の空にはふわふわ石鹸の泡みたいな雲があちこちに漂っている。
 まるっこい雲たちに苛立ちを覚えながら、自転車スタンドのロックを蹴るようにして外した。

 いつもの坂道を駆け降りて、数分で河川敷に到着する。
 高架下の影と日向の境目のすぐ横に腰をおろし、「ふう」とようやく一息ついた。


「涼成と純矢……どうするかな」


 朝以外はずっと話していない。
 そしてその理由は、俺が一方的に避けていたからだ。

 この状態で話したとしても、結局はふたりの怒りがうやむやになって無くなるだけ。

 俺は、本音を話すのが苦手だ。
 自分の中に浮かぶ様々な考えのうち、どれが本音なのかがわからない。
 本心でないことばかり言って、視界にマイナスの感情をできるだけ繁殖させないようにしてきたから。

 だから、こんな薄っぺらいことしか言えない俺が謝ったところで、ふたりは納得なんてできないだろう。


「どうすれば、いいんだよ……」


 はあぁ、と頭ごと視線を下へ向ける。
 影になっている石畳はグレーをさらに深めている。ずっと影だったのか、触るとひんやり冷たい。

 友達ってなに?

 ふと浮かんだ疑問が頭の中の闇をさらにぐるぐるかき混ぜる。
 もしその定義が〝本音で話せる相手〟とかなら、俺は本当にひとりぼっちだ。

 俺は人間関係が下手くそだ。
 疎外感も、孤独感も、気を遣う癖も、全部馬鹿みたい。


「――――お、悠くん今日もいた」


 不意に響いた声は、俺の思考を切り裂いて駆け寄ってくる。
 ザッザッと草を踏む音とともに、今日も爽やかに髪を揺らしながら佐伯が姿を見せる。


「どうせなら自転車に乗せてくれればよかったのにー。歩くの結構キツいんだよ?」


 自転車では下り坂で数分くらいしかかからない道のりも、この暑い日に徒歩でとなると、かなりしんどいだろう。
 そこまでしてこの河川敷へ来る理由もわからないのだが。


「……ふたり乗りとか誰かに見られたら、俺が学校の立場的に死ぬから」
「あ、確かに警察に捕まったって知られたら、からかわれるか」


 納得したように言葉を返されるけれど、それは陽キャサイドのやつの話。