俺の言葉を聞いて、純矢がかすかに首を縦に振る。
「悠が従兄弟と会うっていうから、残念だなって、忙しいんだなって思ってたんだよ。おれも」
「……うん」
俯いて影になっているせいで純矢の表情はよく見えない。
だけれど、言葉の響きは彼の話そうとしているものが良い内容のことでないと物語っている。
純矢の隣にいる涼成はなにも言わないけれど、その表情は暗いままだ。
ばくばくばく、と緊張から心臓が収縮を繰り返す。
ごくりと唾を飲み込んだ音がやけに大きく聞こえた。
「でもおれさあ、昨日見たんだよ」
ずっと俯いていた純矢が顔を上げて、その鋭い視線が俺とぶつかった。
「悠、昨日の放課後に、佐伯さんと一緒にいたよな」
さっきまでと同じくらいの声量だったはずなのに、その言葉は俺の脳みそに直接響いた。
ぐわん、と頭を殴られたような衝撃が襲う。
純矢も、涼成も、俺も、誰ひとりとして口を開かない。
再びおろされた沈黙は棘を含んでいるようで、さっきよりもつらい。
糸が張りめぐらされて、少しでも動いたら怪我でもしそうな空気。
教室や廊下から聞こえてくる笑いや話し声の声量が、さっきよりも大きくなったような錯覚を受ける。
まっすぐにこちらを見てくる純矢が、逃げるなよ、と言っているような気がして視線を逸らすことができない。
「――――悠」
ずっと黙っていた涼成が、久しぶりに口を開いた。
いつも単純明快な彼がこんな重い声を出せたことに驚く。
視線をそちらに向けると涼成は眉を寄せた難しそうな表情をしている。
純矢のような明らかな怒りは感じない。
だけれど、なんとも形容し難い感情が見て取れた。
悲しみ、ショックだという気持ち、悔しさ、そして不安。
それらが複雑に絡み合い、ぐちゃぐちゃの糸くずみたい。
「俺はさ、悠のこといいやつだと思ってる。知り合ってまだ数ヶ月だけどさ」
「……うん」
涼成の声色は、ピリッと張った空気の糸を和らげようとしているように思える。
微かに口角を引き上げながら。
ゆっくりと間をあけて、聞きやすい落ち着いたトーンで。
「だからさ、悠が嘘ついた理由も、そんなに悪いことじゃないんだろうなーって思うよ。というか、俺が思いたいだけ」
だけどな、と涼成が言葉を続けて言う。
「でもやっぱり、分からねえ嘘つかれたら、傷つくからさ」
「…………うん。ごめん」
二人に向かってきっちりと頭を下げた。
だけれど、この謝罪はきっとなににもならない。
俺がどれだけ反省したとしても、それは、涼成たちが抱えるモヤモヤとは別の問題なのだろうということが、なんとなくわかる。
そして、俺の疎外感の解決にもならない。
放課後まで俺はふたりと一度も話さなかった。
「悠が従兄弟と会うっていうから、残念だなって、忙しいんだなって思ってたんだよ。おれも」
「……うん」
俯いて影になっているせいで純矢の表情はよく見えない。
だけれど、言葉の響きは彼の話そうとしているものが良い内容のことでないと物語っている。
純矢の隣にいる涼成はなにも言わないけれど、その表情は暗いままだ。
ばくばくばく、と緊張から心臓が収縮を繰り返す。
ごくりと唾を飲み込んだ音がやけに大きく聞こえた。
「でもおれさあ、昨日見たんだよ」
ずっと俯いていた純矢が顔を上げて、その鋭い視線が俺とぶつかった。
「悠、昨日の放課後に、佐伯さんと一緒にいたよな」
さっきまでと同じくらいの声量だったはずなのに、その言葉は俺の脳みそに直接響いた。
ぐわん、と頭を殴られたような衝撃が襲う。
純矢も、涼成も、俺も、誰ひとりとして口を開かない。
再びおろされた沈黙は棘を含んでいるようで、さっきよりもつらい。
糸が張りめぐらされて、少しでも動いたら怪我でもしそうな空気。
教室や廊下から聞こえてくる笑いや話し声の声量が、さっきよりも大きくなったような錯覚を受ける。
まっすぐにこちらを見てくる純矢が、逃げるなよ、と言っているような気がして視線を逸らすことができない。
「――――悠」
ずっと黙っていた涼成が、久しぶりに口を開いた。
いつも単純明快な彼がこんな重い声を出せたことに驚く。
視線をそちらに向けると涼成は眉を寄せた難しそうな表情をしている。
純矢のような明らかな怒りは感じない。
だけれど、なんとも形容し難い感情が見て取れた。
悲しみ、ショックだという気持ち、悔しさ、そして不安。
それらが複雑に絡み合い、ぐちゃぐちゃの糸くずみたい。
「俺はさ、悠のこといいやつだと思ってる。知り合ってまだ数ヶ月だけどさ」
「……うん」
涼成の声色は、ピリッと張った空気の糸を和らげようとしているように思える。
微かに口角を引き上げながら。
ゆっくりと間をあけて、聞きやすい落ち着いたトーンで。
「だからさ、悠が嘘ついた理由も、そんなに悪いことじゃないんだろうなーって思うよ。というか、俺が思いたいだけ」
だけどな、と涼成が言葉を続けて言う。
「でもやっぱり、分からねえ嘘つかれたら、傷つくからさ」
「…………うん。ごめん」
二人に向かってきっちりと頭を下げた。
だけれど、この謝罪はきっとなににもならない。
俺がどれだけ反省したとしても、それは、涼成たちが抱えるモヤモヤとは別の問題なのだろうということが、なんとなくわかる。
そして、俺の疎外感の解決にもならない。
放課後まで俺はふたりと一度も話さなかった。