一体どれくらいその地獄のような時間が続いていたのか。
 体感では十五分くらいに感じたけれど、実際には一分くらいのことだったのだろうと思う。

 教室にキーンコーンカーンコーン……とチャイムが鳴り響いたとき、俺は思わずヘナヘナとその場に崩れ落ちそうになった。


 HRが終わり教室が段々と賑やかなに包まれていく。
 教室を漂っていた嫌な空気がもう残っていない。

 クラスメイトたちもなんだかんだで優しいし、佐伯の謎行動はいつものことだと切り替えたのだろう。

 そのことにほっと息を吐き出して、次の授業の準備でも、と気持ちを切り替えるように立ち上がる。

 そのときだった。
 「待て待てい!」という騒がしい声が耳朶を打った。

 瞬間、目の前に涼成と純矢が飛び出してくる。
 好奇心を抑えきれないと言うように、ふたり揃って口もとがニヤついている。


「悠、お前佐伯さんと仲良いじゃねえかよ! どうしたどうした」
「え、でも昨日までは普通だったよな」


 ぎゃいぎゃいと騒ぎながら口々に言って「どういうことだよ⁉︎」とふたりはこちらに詰め寄ってくる。


「あー……えぇ……」


 身長差のあるふたりからいっせいに見つめられ、居心地が悪くなってくる。
 どういうことだと言われても、放課後に河川敷へ行っていることはあまり言いたくない。

 返答に困って視線を教室内へと彷徨わせる。

 教室のあちらこちらで見られる友達グループの輪っかたち。
 その中でもひときわ目立つスクールカースト上位グループに目が留まる。
 派手な茶髪の男とか、「キャハハハ」と笑い声を響かせてる女だとか五、六人くらいの集まり。

 そのなかで、佐伯は笑顔を眩しく咲かせている。

 彼女が腰掛けている教卓のまわりは、なぜかそのあたりだけ色が綺麗で華やかに感じる。

 本当に意味がわからない。
 なぜ、空間の色を鮮やかに塗り替えてしまえるようなキラキラ女子が、俺みたいな陰キャ側のやつに絡んでくるのか。


「俺も……わからない」


 涼成たちにぽつりと言葉を返すと、「なんだよそれ」というさっきまでとは違う、感情の読み取れない低い声が聞こえた。
 涼成が純矢をたしなめるようにひじで軽く小突く。
 その彼の表情も、いつにも増して暗いように感じた。

 なんなのか、と思いながらも発言がしづらい空気に押しだまる。
 嫌な沈黙が三人の間を流れた。


「……昨日の放課後さ、おれらでゲーセン行こうぜって悠を誘ったよな」


 沈黙を破くように、ようやく純矢が低い小さい声で言葉をこぼした。
 それでようやく、さっきまでのふたりのハイテンションが無理に作られていたものだと気づく。


「うん、誘われた」


 従兄弟と会うから、などという適当な言い訳を添えて。
 昨日は学校が少し息苦しくて、ひとりになりたくて、だからつい反射的に断ってしまったのを覚えている。

 結局は佐伯と会うことになっていたためひとりではなかったけれど、それはそれで楽しかったとも言えるかもしれない。