食べ切れるかな、とミオは食べる前からお腹をさする。でも、ジークはそんな様子に気づくことなく、嬉々として皆に肉を取り分け皿を配っていく。マメである。そして女性心にはてんで疎いようだ。
 それはやけに赤い肉だった。強いて言えば馬刺しのような。  
(煮込まれて赤くなったのかな? いや、違う。もともとこの色だ)
 なぜなら煮汁はほぼ透明。美味しそうに食べるジークを横目に、えいっと頬張ると意外なほど口の中でほろほろと蕩けた。豚の角煮に近いけれど、脂身はそれより少ない。
 一口目こそ恐る恐る口にしたけれど、あっという間に一切れ食べ終え、もう一切れと手を伸ばす。それを目敏くエドが見つけた。
「それ、美味しいよね。見た目とは違って」
「……見た目と違う」
 エドが残りわずかとなった煮込みをちょいちょいと指差した。
「確かに、あんなに鱗が多く硬そうなのに煮込むと蕩けるような触感になるな」
「うろこ?」
 ドイルが遠い目をし、ミオは瞠目する。
「そうそう、舌をチョロチョロ出す気持ちの悪い顔からは想像でき……」
「いやーー!!」
 ジークの言葉にミオが涙目で耳を塞ぐ。ワナワナと口を震わせ目には涙が溜まる。いったい自分は何を食べたのだとブルブルしていると、騎士三人がクツクツと笑い出した。
「おい、お前達いい加減にしろ『神の気まぐれ』が可哀想だろ」
「いやいや、隊長も乗っかってましたよね?」
「ミオ、大丈夫。これは案外可愛い見た目をしているから」
 そう言われたところで、もう素直に信じないぞとミオはジト目で三人を見る。そこへ追加のエールを持って女将がやってきた。ここは彼女に聞くしかない。
「あの、この肉は何の動物ですか?」 
 聞きたいような、聞きたくないような。それでも、白黒はっきりさせたくて問えば、女将はあっさり「一角兎よ」と教えてくれた。
「兎ですか」
 ほっと胸を撫で下ろす。兎は食べたことがないけれど、海外では割とポピュラーだと聞く。それに日本だって兎を一羽と呼び、四足動物ではないと苦しい言い訳をしながら食べていた時期があった。
「それなら大丈夫。これぐらいの、耳が長くて可愛い動物よね、その魔物版なら怖くないわ」
 余裕余裕と、両手で二十センチちょっとの大きさを示すと、ジークが微妙な顔をする。