真白は神崎要に連れられて、屋敷に入った。

「ご苦労様。もう戻っていいよ」

後ろをついてきていた男に向かって言った。

「はい」

男は真っ黒なカラスに姿を変えた。

「え⁉︎」

真白は目の前で起きていることに驚きを隠せなかった。

「今の奴は、俺の式神だよ。一番礼儀正しいから、迎えに行かせたんだ」

しき…がみ…?

突然のことに頭がついていかない。

「真白、君は前世で姫巫女だったんだよ」

姫巫女?

私が?

確かに巫女の格好はしていたが、姫だとは思わなかった。

(じゃあ、いつも見ていたあの夢は…)

真白はよく見ていた夢のことを思い出す。

「俺は君に仕える陰陽師だったんだ」

(やっぱり、だから白夜は神崎くんに似てるんだ)

ようやく腑に落ちた。

「そして俺と恋人だったんだ」

要は、真白の手を握った。

「ようやく会えた。こうしてまた会えて嬉しいよ。真白」

真白の両親は、幸せになると言ってくれた。

(私まさか、この人と結婚とかするわけじゃないよね?)

目の前にいる少年を見つめた。

優しい顔で微笑んでいる。

「今日からここは君の家だよ。好きにしていい」

そう言って、部屋から出て行こうとした。

「待って!あなたはどこに行くの?」

「どこって家に帰るんだけど?」

(ここに一緒に住むわけじゃないんだ)

「あとは、そいつが説明してくれるから」

「え?」

白い煙が出てきた。

煙からは、白い毛に九本の尻尾を生やした狐が現れた。

「お前か。今日からここに住むというのは」

真白は空いた口が塞がらなかった。

「き、狐が喋った…!」

「私はあやかしだ。喋ることもできる」

「そいつに色々聞けば教えてくれるから。明日また迎えにくるよ」

(迎えに来るよって)

目の前には大きな狐がいる。

「あの、その姿どうにかならない?なんか、落ち着かなくて…」

「そうか。では私も、人間の姿に合わせよう」

そう言うと、人間の青年の姿になった。

「すごい…」

「私は、人間に化けることができる。どうだ?これでいいか?」

いいような、よくないような…

真白は複雑な気持ちだった。


「ところで、この屋敷はなんなの?なんでこんな立派な屋敷に私が住めるの?」

「それは、この屋敷は元々お前の母親の所有していたものだからだ。何も聞かされていないのか?」

母は桜咲(さくらざき)家から柏木家に嫁いできていた。

真白はそれぐらいしか知らなかった。

「ほとんど何も…」

「そうか」

狐は、しばらく考え込んだ後、口を開いた。

「お前の母の家系は、術者の家系だった。体が弱かったお前の母は、分家の家に世話になり、生活していたようだ。生活していく中でお前の父親と出会い結婚し、お前が生まれた。お前には、彩葉と同じ魂が宿っていた。桜咲家の本家の人間がお前が十六歳になったら、連れてくるように言ったが、その前にお前の両親は亡くなったようだがな」