「千春ちゃんは…」

朱莉が答えを迷っていた。

「千春ちゃんは、真白ちゃんが生まれた同じ日に亡くなったのよ。碧さんが体が弱かったこともあって、生まれた時に真白ちゃんは心臓が動いてなかったの。千春ちゃんも体が小さく生まれてね。集中治療室にいたのよ。真白ちゃんが生まれた直後に千春ちゃんが亡くなって、代わりに真白ちゃんの心臓が動き出したの。千早は碧さんに懐いていたから、責めることもできなかったのね」

「そうだったんですか」


「碧さんの旦那さんだった翼さんと千早は兄妹なのは知ってるでしょう?あの二人は元々、施設で暮らしていたの。でもその施設を閉めることになって、別の施設に移されるって時に、桜咲家の当時のご当主が二人を引き取ったらしいわ」


慧は、桜咲家をあとにした。

「ありがとうございました」

「またきてね」

慧は、家に帰りながら考えていた。

(本条は、自分に双子の妹がいたことを聞かされていないのか?)


次の日。

紫音と天音が委員会の仕事で一緒になった。

「ねぇ、紫音。あんた、いつになったら花蓮に告白するの?」

「はぁ⁈なんだよいきなり!」

「もし、ずっと告白しないんだったらさ、私と付き合わない?」

ピタッと紫音の動きが止まった。

「は…?」

「冗談に決まってるでしょ?じゃあ、またね!」

そう言って出て行った。


「結奈…」

ドアの前に結奈がいた。

「天音、紫音に言わなくていいの?」

「え?何が?」

「好きって言わないの?」

天音の表情が硬くなった。

「言わないよ。どうせ振られるもん」

「そっか…」

「一緒に帰ろう」


天音と結奈は、七五三の格好をした親子とすれ違った。

「七五三だね。かわいい」

結奈が女の子を見て言った。

「私はあんまりいい思い出ないから」

「あ、そっか。そうだよね。ごめん…」

「結奈が気にすることないよ」

天音には三歳歳の離れた妹がいた。

天音が十歳の時に妹は七歳を迎えようとしていた。

七五三をするために神社に向かった。

妹は天音に買ってもらった鞠を大事に持って鳥居をくぐった。

バスケをやっていた天音をみて自分もやってみたいと言い出したのでお祝いに鞠をあげた。

だが、その鞠で遊んでいる時に、車に轢かれて亡くなってしまった。

「そこのお嬢さん方」

気がついたら、花屋の前まできていた。

「お花はいかがですか?」

青年が出てきた。

なんとなく嫌な感じがした。

「いえ、今は大丈夫です」

そういって花屋を通り過ぎた。


春香の家では、春香の父が写真をみていた。