未影と飛影は頭を下げた。

「そんな…」

小さい頃からずっとそばにいた鏡華が亡くなったのは、蒼葉に大きなショックを与えた。


ある日、霧人は従者の3人と共に、兄である寿人の屋敷にやってきた。

「あら、あなたが屋敷に来るなんて珍しいですね」

「これはこれは、義姉上」

歩いてきたのは清華だった。

霧人は頭を下げた。

「あなた、また誰か殺めましたね?」

低い声で言った。

「さすがは義姉上。なんでもお見通しと言うわけですか」

「今度は誰を殺めたのです?」

「新しく嫁いできた、姫巫女の侍女ですよ。姫巫女の名前は鏡華と言ったはず」

清華の顔色が変わった。

「鏡華…?」

「そういえば、あなたと顔がよく似ていましたね。驚くほどに」

その時、清華が霧人の頬を扇子で叩いた。

「あなたは、何度同じことをすれば気が済むのです。ついこないだ、御影の妹を殺めたばかりだと言うのに!人の命を軽くみてはなりません!」

「何をおっしゃるのですか。私はただ使えない使用人を始末しただけですよ」

清華の額にしわがよった。

「それを命を軽くみていると言っているのです!少しは命を大切にしなさい!」

その時、清華の肩に男が手を置いた。

「あ…」

「寿人が探していた。部屋に戻るぞ」

「では義姉上私はこれで」

霧人は頭を下げた。

清華たちが行ったあと、霧人は2人の後ろ姿をみていた。

(あの男、義姉上と兄上に対する態度からして、従者ではないな。何者だ?)


「蒼葉様。失礼いたします」

鏡華が亡くなってから数日たった頃、蒼葉はどんどん衰弱していった。

「お食事は…とられていないようですね」

朝出した時の朝食がそのまま手をつけられていなかった。

「なんで、あなたばかり部屋にくるの?」

「他の使用人たちは忙しいようで、私が代わりに蒼葉様のお世話を任されております。何かご用があれば、なんなりとお申し付けください」

「あなたは、霧人の従者でしょ?霧人についていなくていいの?」

「私は飛影や未影よりも後に屋敷にきましたので、あまり信用されていないのです。元々は霧人様の兄上である、寿人様に仕えていました。私たち3人は、寿人様の命令で霧人様に仕えることになったのです」

蒼葉は驚いた。

初耳だったからだ。

「霧人には、兄がいるの?」

「はい。とても温厚で、お優しい方ですよ」

(霧人とは大違いね…)

「他にご用がなければ失礼いたします」

「待って」

蒼葉が新羅の服の裾を掴んだ。

「一人にしないで」

「蒼葉様?」

新羅が驚いて、蒼葉の肩を掴んだ。

「そばにいて…」

そのまま新羅の体に抱きついてきた。

「もう、こんなところにはいたくない。どこか遠くに行きたい」

「では…私がお連れいたします」

「本当に?」

「ここから、逃げましょう」


その日の夜、蒼葉と新羅は屋敷を逃げ出した。

「どこだ!あいつらはどこにいる!」