「それじゃ、少し俺の手伝いをしてくれないか?」


春香と慧は、図書室にやってきた。

「さっき、生徒たちにアリスの本を持ってきて欲しいと言われてな」

棚には、『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』、『時計の国のアリス』が置いてあった。

「不思議の国のアリスだけじゃなかったんですね」

「鏡の国と時計の国は、続編だな」

その三冊を抱えて、次は衣服の本が置いてあるところに向かった。

「ついでに何冊か借りていこう」

パラパラページをめくった。

すると、ウェディングドレスの写真がのっていた。

「先生は、結婚とかしないんですか?」

春香は、それとなく聞いた。

「そうだな。いまのところは考えてないな」

「じゃあ、好きな人とかはいましたか?」

「…そうだな。いたが、その人とは絶対に付き合えないってわかってたからな」

慧は悲しそうな顔をした。

「その人、俺が好きになった時にはもう結婚してたから」

「…そうなんですか」

「戻るか」

長い廊下を歩く。

「先生…」

「どうした?」

前にいた慧に春香は呼びかけた。

「…私が先生のこと好きって言ったら、困りますか?」


その日は、夕方まで準備がかかった。

「そろそろ帰らないと」

他の生徒たちが次々に帰り始めた。

「私たちも帰ろう」

結奈は、真白と要に声をかけた。

「そうだね」

三人で校舎から出た。

九月の下旬になったので、少し肌寒くなった。

「寒いねー」

結奈が手に息をかけながら言った。

「あれ…なんだろう?」

真白が遠くを指差した。

青白いものがユラユラと揺れている。

「なんだあれ?」

要が目を凝らして見た。

すると、こっちに向かってきた。

それは青白く光る火だった。

「きゃっ」

結奈が短く悲鳴をあげる。

「なんなの!これ」

あっという間に、青い火の玉に囲まれてしまった。

「式神!」

要が人型の紙を使った式神を呼び出した。

しかし、青い炎で焼かれてしまった。

「ちっ!」

真白は、前に琥珀たちから待たされた首飾りのことを思い出した。

これに向かって名前を呼べば、きてくれるはずだ。

「琥珀!」

すると白い煙の中から琥珀が現れた。

「なんだ?」

「お願い!この火の玉を消して!」

琥珀は、青い火の玉を見た。

「これは、鬼火だな。消すより出てきてもらおう。蘇芳、そこにいるのだろう?」

青い火の玉の勢いが一層強くなり、蘇芳が現れた。

「ひさしぶりだな。琥珀」

怪しい笑みを浮かべている。

「蘇芳…!」

「少しおどかしただけなのに、その子はかなり怯えているね」

見ると結奈が耳を塞いで座り込んでいた。

「結奈!」

真白と要が駆け寄った。

「貴様、相変わらず悪趣味だな」

琥珀が睨みつけた。

「琥珀、君はその子の力を認めているのか?見たところ、彩葉の生まれ変わりには間違いないが、彩葉より力が弱いように感じる」