「先生、いないね」

そこに千輝が通りかかった。

「あれ?君たちどうしたの?」

「誰ですか?」

天音が尋ねた。

「二学期から高嶺先生のクラスの副担任になった、冴島千輝です。何かあったなら俺が対応するけど」

紫音は怪我をした指を見せた。

「手当てするから座って」

千輝は、消毒をして絆創膏を貼った。

「ありがとうございました」

紫音は頭を下げた。

「どういたしまして。気をつけてね」


紫音と天音は保健室を後にした。

「ねぇさっきの先生…」

「前にあった気がするな」

教室に戻ると、何人かの生徒が試着をしていた。

なぜか、花蓮がメイド服を着ている。

「なんなの、この服…」

「花蓮、その格好どうしたの?」

「どうせなら執事の服とメイド服も作りたいって言い出した子がいて、私が着せられたの」

アリスに執事やメイドは出てこないはずだが。

天音は心の中で思った。

隣を見ると、紫音が花蓮に見惚れていた。

天音は胸がちくりと痛んだ。

「私そろそろ戻らなきゃ。またね」

「あ、あぁ。またな」

「また。天音もあとでね」

「うん」

そう言って、花蓮は教室を出て行った。

紫音は、花蓮が出ていくのを見つめていた。

「紫音って花蓮のこと好きだよね」

天音がそういうと、紫音はびっくりした様子で言った。

「は⁈な、なんで…!」

「バレバレなんだけど」

(私は、紫音が好きなのに…)


花蓮は、持ち場に戻ってきた。

花蓮が担当になったグループは、ゴールした時に配るお菓子を考えるグループだ。

「あ、戻ってきたんだ」

隼人が声をかけてきた。

「景品で配るお菓子なんだけど、クッキーとかパウンドケーキとか小さいものの方がいいよねって案が出てたんだよ」

「たくさん作れるし、いいね」

そう言って花蓮は、隼人を見た。

(やっぱり、似てるなぁ)

『花蓮』

幼馴染の顔が浮かんだ。

隼人のように、少し癖っ毛があった。

「あ!冴島先生!」

生徒の1人が声を上げた。

花蓮と隼人も声のする方を見た。

(あの人ってたしか…)

「あいつ…」

隼人が千輝を睨みつけている。

「あの人、真白たちの副担任になった先生だよね?どこかであった気がするんだけど…」

「あいつは、彩葉の屋敷を襲って、みんなを殺した男だよ」

「え?」


春香は、脚本を考えるグループにいた。

「クイズ形式で進んでいくのはどう?」

「スタンプラリーでもいいかもね」

「でもまずはどう言う話にするのか考えないと」

周りはみんな意見を出しているが、春香はなかなか思いつかなかった。

「本条も何かないか?」

慧が隣にやってきた。

「私、本当は背景を作るグループがよかったんです。でも人気が高くて、このグループでやることになって…知ってる人もいないし…」

春香は、仲がいい友達とはたくさん話すが、知り合いが1人もいないこの場所は居心地が悪かった。