彩葉は、物心ついた時にはこの屋敷にいた。

両親の顔は覚えていない。

よく屋敷に来るのは、一人の青年だった。

「彩葉、今日から五人の術者がお前の元にやってくる。仲良くするんだぞ」

やってきたのは、白夜、暁月(あかつき)鈴蘭(すずらん)千歳(ちとせ)翡翠(ひすい)という彩葉と同じ年頃の子供だった。

彩葉は、友達ができたようで嬉しかった。

性格はそれぞれ違っていた。

白夜は、落ち着いた大人っぽい感じの少年だった。

暁月は元気な少年で剣術が得意なようだった。

鈴蘭は、おっとりした女の子らしい子だった。

千歳は、気が強く、暁月とよく言い合いをした。

翡翠は、物静かであまり喋らなかった。

それでも、しばらく一緒に過ごすうちにみんな仲良くなった。

それから半年程たった頃、少年が屋敷の前に倒れていた。

あちこち怪我をしていたので、屋敷に連れていき、看病した。

何日かたった頃、少年が目を覚ました。

「あなた、名前は?」

彩葉が尋ねると、少年は小さな声で言った。

「…夜叉(やしゃ)

夜叉は、最初はなかなか打ち解けなかったが、徐々に心を開いていった。

ある日、屋敷に一匹の狐が現れた。

かなり衰弱している。

見ると、黒い霧が狐にまとわりついていた。

彩葉が狐の体に触れると、黒い霧が消えた。

彩葉には、あやかしの怪我や邪気を祓う力があった。

その狐は九本の尻尾が生えた、九尾の狐だった。

目は綺麗な琥珀色だ。

それをみて、彩葉は九尾の狐に琥珀と名付けた。

そして琥珀は、彩葉と契約し、眷属となった。


それから一カ月ほどたった。

今度は怪我をした狗神が屋敷に現れた。

彩葉は、狗神の傷を治し、朱里と名付けて眷属にした。

数日後、彩葉が池を眺めていると、池の中から蛇が現れた。

この辺りの守神だと言う。

その蛇神は瑞樹と名乗り、彩葉の眷属となった。

それから二年後、人間との戦いで怪我をした鬼神がやってきた。

鬼神は、蘇芳と名乗り、怪我を治してくれたお礼に彩葉の眷属となった。



それから何年かの月日が流れた。

「彩葉様」

彩葉は嬉しそうに振り向いて、白夜に抱きついた。

「白夜、会いたかった」

「私もですよ」

白夜は、愛おしそうに彩葉の髪を撫でた。

そして、彩葉に口付けをした。


「暁月!私にも剣術教えて!」

彩葉は、庭で剣を振っていた暁月に言った。

「しかし…」

暁月は困ったように言った。

「彩葉様がお怪我をされてはいけませんので…」

「大丈夫よ!気をつけるから」

「少しだけですよ」


美しい笛の音が聞こえてきた。

「鈴蘭は笛が上手ね」

「ありがとうございます」

鈴蘭が笑って答えた。


庭にいくと、翡翠が弓矢の練習をしていた。

「すごい」

矢は的の真ん中に刺さった。

「彩葉様」

「今度私にも教えて」

「いいですよ」

夜になり、光の粒が浮かんでいた。

「とっても綺麗ね」

千歳が扇子を使って生み出したものだ。

「綺麗…」

「ほんとですか?嬉しいです」

千歳が嬉しそうにした。


それから何ヶ月かすぎた。

彩葉が部屋で倒れていた。

それを見つけたのは、夜叉だった。

「彩葉様!」

夜叉が駆け寄ると、彩葉の体に呪いがかけられていた。

夜叉は、それを自分の体に移した。

だが、その呪いは死の呪いだった。

それからまた何年かたって、彩葉と白夜の間に子供が生まれた。

娘は、(はな)と名付けられた。

ある日、彩葉が巫女の儀式のために身を清めていた時、何者かによって、屋敷が襲われた。

白夜が駆けつけたが、力が及ばず殺されてしまった。

彩葉は同じ部屋にいた夜叉と華を庇って殺されてしまった。

最期に、彩葉は夜叉にいった。

「華を、お願いね…」

そう言うと、目を閉じた。