花蓮、結奈、天音の三人は、浴衣で走っていた。

「結奈、支度にどんだけ時間かかってんの?」

天音が走りながら言った。

「帯が上手く結べなくて…」

「だったら、呼べばよかったでしょ!」

花蓮が言った。

「ごめん…」

「とにかく急ぐよ!」


同じ頃、紫音が道に迷っていた。

「誰かと一緒にくればよかった…」

人の多さに、流されてよくわからない場所にきてしまった。

「夏祭りの場所からだいぶ離れた気がする…まずいな」

スマホの充電をするのを忘れており、バッテリーがなくなってしまっていたため、連絡手段がない。

「誰かいないか探すか」

「君、もしかして、夏祭りに行くの?」

狸の面をつけた青年が、声をかけてきた。

「はい」

知らない人が声をかけてきたことに驚いたが、紫音は頷いた。

「僕もなんだ。ここからの道を知っているから、連れて行ってあげるよ」

紫音は、歩き出す青年の後をついていった。


見回りを続けていた高嶺は、見知った顔をみつけた。

千輝(ちあき)

(けい)さん、お久しぶりです」

千輝と呼ばれた青年は、にっこりと笑った。

「いつこっちに着いたんだ?」

「今日の昼頃です。夏祭りがあるって聞いたので、みにきたんです」

「そうか。就職はこっちでするのか?」

「はい。地元がここなので、九月から高校の学校に臨時教諭として採用になりました」

「そうか。よかったな」

千輝は、思い出したように言った。

「あの子たちは、元気ですか?」

慧は、頷いた。

「元気だよ。うるさいくらいだ」

「あははっそうですか。会えるのが楽しみです」


「はぁ…やっと着いた」

要はぐったりした顔をしていた。

途中で人の波に流され、やっとのことで夏祭りの会場についたのだ。

「みんなはどこにいるんだ?」

「要」

探そうと思っていたところに、紫音がやってきた。

「紫音、お前も今来たのか?」

「道に迷って、この人に連れてきてもらったんだ」

紫音が振り向くと、そこには誰もいなかった。

「あれ?おかしいな…」

「来れたんだからいいじゃないか。みんなを探すぞ」


「それにしても、なかなか会わないね」

真白と隼人の二人は、他のみんなを探しながら屋台を回っていたが、いまのところ誰とも会っていない。

「あれ、誰かいる」

着物を着た、男女が立っていた。

「行かなきゃ…」

「真白?」

真白がふらふらと歩き出す。

「真白!」

真白は催眠術にでもかかったように、隼人の声が聞こえていないようだった。

その時、強い風が吹いた。

思わず目を瞑ると、真白と着物を着た二人組はいなくなっていた。