あっという間に八月になり、夏祭りの日になった。

真白は、首飾りをつけていた。

『ほんとにこれに呼びかければきてくれるの?』

『ああ、お前がどこにいようと見つけ出せる』


この首飾りに向かって名前を呼べば、琥珀、朱里、瑞樹が現れるようだ。

本当はついてくるつもりだったのだが、人の姿では彼らは目立つので屋敷で留守番してもらっていた。

「真白?」

後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、隼人が立っていた。

「まだみんな来てないみたいだな」

「うん」

「浴衣、着たんだ」

椿の花があしらわれた浴衣と、椿の髪飾りをしていた。

「生徒会長がよかったらって貸してくれたの。お母さんのものなんだって」

「似合ってるよ」

目を細めて、優しい声で言ってくれた。

「あ、ありがとう」

真白は微かに顔が熱くなるのを感じた。

その時、二人のスマホが鳴った。

「要たち、少し遅れるって」

「春香も、少し遅れるってメッセージきた」

今年は特別盛大にやるので、混んでいるのかもしれない。

「先に回ってるか」

「そうだね」


夜空には大きな満月が浮かんでいる。

「今日はあの世の奴らもいるから気をつけて」

満月や友引、不吉な数字などが重なっていると、あの世の住人たちの力が高まるらしい。

真白は、普通の人間とそういうものたちの区別があまりつかなかった。

小さい頃は、気づかずに霊と遊んでいたことがあったらしい。

「あ、わたあめ」

真白はわたあめの屋台で足を止めた。

「食べたい?」

隼人が聞いてくる。

真白は頷いた。

「ひとつください」

隼人がわたあめを買った。

「はい」

わたあめを真白に差し出した。

「でも、隼人が買ったんだし、隼人が食べて」

「俺が真白に買いたくて買ったんだ」

「…ありがとう」

隼人がお面を売っている屋台に行った。

「俺はこれでいいや」

狐のお面を買った。



「真白たち、もう着いてるかな?」

春香は周りをキョロキョロしながら歩いていた。

「あ…」

りんご飴の屋台の前に高嶺がいた。

じっとりんご飴を見ている。

「高嶺先生」

春香が声をかけると、顔を上げた。

「本条」

「りんご飴、お好きなんですか?」

「別に…」

「すみません。一つください」

春香は、りんご飴を一つ買った。

「どうぞ、先生」

春香がりんご飴を渡そうとすると、高嶺は首を振った。

「お前が買ったものだろう。大体、生徒から何かを買ってもらうなんて…」

「いいんですよ。先生に食べて欲しいんです」


高嶺は迷っていたが、ため息をついた。

春香が持っていたりんご飴を一口かじった。

「あま…」

春香は、ポカンとしている。

「小さい頃食べた時は、もっと感動したんだけどな。大人になって、味覚が変わったのか?でもおいしい。ご馳走様。あとは、お前が食べろ」

そう言って歩いて行った。

春香は手を残されたりんご飴を見つめていた。

「本条さん?」

後ろから声をかけられて振り向いた。

「生徒会長」

振り向くと湊がいた。

隣には、友人らしき人もいる。

「ご友人ですか?」

春香が湊の隣にいる少年を見た。

お面をつけていて、顔は見えない。

「夏祭りいくかどうか聞いたら行くって言うから一緒にきたんだ。あんまり喋らないけど、悪いやつじゃないから」

少年が軽く頭を下げた。