花蓮は弓道部に入っている。

今日も部活のため、土曜でも学校に来ていた。

「ふぅ…」

何本か的に当てた後、休憩に入った。

水を飲んでいると、少し離れたところで女子生徒二人が話しているのが聞こえてきた。

「ほんとなの?」

「ほんとだって、みた人いるんだから。橋の幽霊」

(幽霊?)


部活が終わり、校舎から出た。

「花蓮」

後ろから誰かに呼ばれた。

振りかえると、紫音が立っていた。

「部活だったのか?」

「うん。紫音も?」

「あぁ。そういえば、この前クラスの奴らが言ってたんだけど、橋の幽霊の噂、知ってるか?」

「うん。部活で話してる人がいた。この先にある橋でしょ?」

しばらく行ったところに、噂の橋がある。

「昔、心中した恋人同士の男女だって言ってたな」

橋から、下にある湖に飛び込んだそうだ。

「ここ、だよね?」

噂の橋に着いた。

「普通の橋に見えるけどな」

「あ、あそこに誰かいる」

花蓮が視線を向けた先に女性がしゃがみ込んでいた。

「大丈夫ですか?」

花蓮が駆け寄って声をかける。

「…んで、なんで私を捨てたの…」

「え?」

いきなり、花蓮の腕を掴んできた。

「花蓮!」

紫音が手を伸ばすが、あと少しのところで届かなかった。

水音がして、花蓮が湖に落ちた。

「助けて…」

紫音の身体が震えた。

『紫音…助けて』

次の瞬間、紫音は湖に飛び込んだ。

花蓮の手を掴む。

二人で水面から顔を出した。

花蓮が咳き込んだ。

「大丈夫か?」

花蓮が頷く。

紫音は花蓮と河原の方にあがった。

水面から、何か出てくる音がした。

さっきの女が姿を現した。

「あなたはまた、私を一人にするのね…」

女の体は黒い霧に包まれていた。

「あれって…」

「邪気だ」

「あの世で一緒になろうと言ったのに…あなたは生き残って、他の人と結婚してしまった…許さない!」

紫音は刀を出した。

黒い邪気が二人めがけて飛んでくる。

紫音はそれを切った。

「あいつの周りの邪気をどうにかしねぇと」


「大丈夫、周りの邪気は私がなんとかするから、紫音はあの人ことをお願い」

花蓮が弓を取り出した。

「わかった!」

紫音が女に近づく。

花蓮は周りの邪気を射抜いた。

「お前たちも、私と同じ目にあわせてやる!」

「なんでなんの関係もない私たちがあなたの自己満足に付き合わなきゃいけないの?」

女が花蓮を見た。

「自分が辛い思いをしたからって他人を巻き込まないで!」

花蓮がまた邪気を射抜いた。

周りに邪気がなくなった。

紫音が女に切り掛かる。

「ギャー!」

女の断末魔が響いて、消えた。

「祓えたのか?」

「たぶん。邪気の気配はしないから」

紫音が刀をしまった。

「ところで、水、大丈夫だったの?」

「何が?」

「小さい頃に川で溺れたって言ってたよね?それで、双子の弟も亡くなったって…」

紫音はそれ以来、水が苦手になっていた。

「あ、ほんとだ。少しは怖くなくなったのかも」


「そう?ならいいけど」