君と二度目の恋をする

今日で七月になった。

制服は夏服に変わり、いよいよ夏本番という雰囲気だ。

(この前廊下ですれ違った人、誰だったんだろう?)

不思議な雰囲気の人だった。

後ろから肩をポン、と叩かれた。

「おはよう真白」

「あ、おはよう。結奈」

真白の後ろには結奈が立っていた。

名前で読んでいるのは、初めて会った時に名前で呼んで欲しいと言われたからだ。

「新しい家、慣れた?」

もうすぐあの屋敷に来てから一カ月が経とうとしていた。

「うん。だいぶ」

「そっか。よかった」


結奈は、桜咲家の所有するアパートに住んでいる。

要と紫音は一人暮らしをしているらしい。

「私と花蓮、天音の三人は一緒に暮らしてるの」

「そうなんだ。賑やかで楽しそうだね」
 
「うん。家の事情で今は家族とは離れて暮らしてるから」

家庭の事情はどこの家でもある。

一見幸せに見える家庭でも何か問題を抱えていることは少なくない。

「じゃあ私、三組だから。またね」

真白が席に着くと同時にチャイムが鳴った。

かなりギリギリだったらしい。

高嶺が教室に入ってきた。

「今日は転校生を紹介する」

(転校生?)

夏休みに入る直前で転校してくるのは、かなり珍しい。

「入れ」

高嶺がドアの方に声をかけると、ドアが開いて、一人の男子生徒が入ってきた。

高嶺が黒板に名前を書く。

黒崎隼人(くろさきはやと)

(え⁉︎)

真白はその名前を知っていた。

彼は、真白の幼馴染だった。

「黒崎、自己紹介してくれ」

高嶺が隼人を見て言った。

「黒崎隼人です。よろしくお願いします」

そう言って頭を下げた。

「席は…神崎の隣が空いてるな。黒崎、あそこの先に座ってくれ」

「はい」

隼人が要の隣に座った。

「では、ホームルームを始める」


「真白」

図書室で本を探していたら、隼人が声をかけてきた。

「隼人…久しぶり」

隼人が隣に座った。

「十年ぶりかな」

「うん、私が六歳の時に引っ越したから」

隼人とは十年ぶりの再会だった。

「なんで急にこっちにきたの?」

「親が海外出張でいないんだ。向こうには頼れる人もあまりいないから、知り合いがいるこの街にきたんだ」

こっちにそう言う人がいるなら安心だろう。

「家はどの辺りにあるの?」

「えっと、桜咲家にお世話になるんだ」

「え?」

予想外の名前に驚いた。

「隼人、生徒会長と知り合いだったの?」

「そういえば、ここの生徒会長なんだっけ?湊さん。それと、要たちのことも知ってる」

「なんで?」

「それは…」

隼人が言いかけた時、床を黒いものが歩いていた。

「あっ」

邪気だ。

真白は思わずこえをあげた。

「散れ」

隼人が言うと、邪気は消滅した。

「え…隼人にも見えるの?」

「うん。俺も退魔師だから」

「もしかして、最後の一人って…」

「要から聞いてなかったんだ。六人目は俺だよ」

「えぇ⁉︎」


廊下を春香は走っていた。

「部活に遅れちゃう!」

曲がり角で誰かとぶつかった。

「いてっ!」

「きゃっごめんなさい!」

ぶつかったのは、生徒会長の湊だった。