「なんですか?」

「本条とは、親戚だったよな?」

「はい。春香は私のいとこです」

高嶺は何か言い淀んでいる。

「先生?」

「…本条に霊感はあるか?」

「え?」

予想外のことを言われた。

「…わかりません」

「そうか、実は昨日の狗神が本条にも見えていたようでな。気になったんだ」

「朝に野犬がどうとか言ってたのはそのせい?高嶺先生、春香といたんですか?」

「ああ、たまたま見回りで教室に行ったら、忘れ物を取りにきた本条がいたんだ」

「そうなんですか」

「わからないのならいいんだ。時間を取って悪かった」

そう言って国語準備室を出て行った。

(春香に朱里の姿が見えていた…?)


湊は、生徒会室で書類を見ていた。

開いていた窓から風が入ってきた。

「あっ」

机に置いてあった書類が、下に落ちてしまった。

湊は急いで下をのぞいた。

「え?何?」

下に人がいたようで驚かせてしまった。


「ごめん。風で飛ばされたんだ」

落ちた書類を拾いに中庭にきた。

「いえ、どうぞ」

床に散らばった書類を女子生徒が拾ってくれていた。

「ありがとう」

湊は書類の束を受け取った。

「君、名前は?」

「本条春香です」

「俺は、桜咲湊。よろしく」

湊が名乗ったあと、春香は驚いた顔をした。

「桜咲?もしかして真白の…」

「君、真白ちゃんの友達?」

「友達っていうか、いとこです」

「あ、あぁ君がそうなんだ。俺も真白ちゃんのいとこなんだ。君と会うのは初めてだよね?それとも、真白ちゃんのご両親のお葬式の時に会ってたのかな」

「父からあなたの家のことを聞きました。真白をよろしくお願いします」

春香は、頭を下げた。

「でも俺はほとんど何もしていないんだ。屋敷に面倒を見てくれる人がいるから、大丈夫だと思うけど」

「そうなんですね」

「これ、拾ってくれてありがとう。本条さん」

お礼を言って、湊は戻って行った。


(あの人、会ったことないはずなのに、どこかであった気がする)

春香は考え事をしながら歩いていた。

階段があることに気づかず、足を踏み外した。

(落ちる…!)

「おいっ!」

誰かに腕を引かれて、落ちずにすんだ。

「高嶺先生…」

腕を掴んでいたのは高嶺だった。

「何してるんだ。危ないだろ」

「すみません」

「大丈夫だったか?」

「はい」

「ならいい。足元に注意して歩け」

そう言い残すと、歩いて行った。


「良かった。遠くまで行かなくて」

湊が生徒会室に戻ると、男子生徒がいた。

白髪で銀色の目をしている。

「きてたのか。もう少しかかるから、先に帰ってていいぞ」