📖
「これが本物の金かどうか見て欲しいんです。それで本物だったら、これがいくらぐらいになるのか教えて欲しいんです」
「ふむ。なるほどな」
ヒダカ老人はもう一度それを手に取った。そして手の平で転がして重さを測った。
「ふーむ。重さからするとやはり本物のようじゃな」
それから立ち上がり、壁ぞいに並んだ棚の一つに向かった。その引き出しのいくつかを開け、やがて天秤を見つけて戻ってきた。
それは手の平ほどの大きさで、二つの小さな皿がついていた。
わたしは興味津々でその様子を見守った。
📖
「正確に測ってみんとな。まずはこの針を中央に合わせる。ここをちゃんと確認するんだぞ。ごまかされることがあるんじゃ」
わたしは心のメモ帳にそれを書き込んだ。ヒダカ老人がさりげなく、売りに行く時の注意を教えてくれているのが分かったからだ。
ヒダカ老人は片方の皿に金の粒を三つ置いた。カタンと天秤が傾いた。それからもう一つの皿にピンセットを使って薄い分銅を載せていった。いくつか載せていき、いくつかを取り除き、やがて天秤は完全に釣り合った。
「3.8グラム。ふむ。結構あるな。これも自分の目で確認するんじゃ。そして新聞だ。大体このあたりに金の相場の値段が出ておる。この時に注意するのは新聞の日付だ。たまに相場が安かった時の古い新聞を使う奴がおるからな」
📖
なるほど……わたしにとってそれは初めて知る世界のことだった。
それにしても大金を持つというのは大変なことなのだと改めて思った。
「今は相場が上がっておるからな、これなら大体四万円というところだな」
それを聞いてわたしはイスから落ちかけた。
「ヨ、ヨン、マン、エン!」
わたしの顔から血の気が引いた。
おそろしい大金を手にしてしまった!
📖
わたしはヒダカ老人に礼を言った。右手にはお土産にもらったお菓子の袋もちゃんと握り締めていた。
「そうそう、それから最後に……」部屋を出ようとしたところで、ヒダカ老人が付け加えた。
「……手数料をちゃんと確認しておくんだぞ。まぁ普通は素人相手に、そこまではやらないもんだが、とにかく最後まで気を抜かないことだ」
「わかりました。あの、いろいろとありがとうございました」
「なんのなんの。困ったことがあったらまたおいで」
頭を下げて部屋を出ると、すぐにでも家に飛んで帰りたい気分だった。だがまだ掃除が残っている。わたしは急いで残りの窓ガラスを拭いた。かなりの枚数だったけど、ヒダカ老人が悪い人ではないと分かって、いつもほどつらい気分にはならなかった。
📖
そしていつもの交代の時間。
ちなみにこの時にはもうコトラは一緒に来ていなかった。コトラには食堂の仕事があったからだ。もう付きっきりで面倒を見なければならない歳ではなかった。
「ヒダカの爺さんと話せたか?」とケンちゃん。
「ああ。思ったよりいい人だったよ。それよりあれ、やっぱり本物みたいだ」
「いくらぐらいになるか聞けたか?」
「ああ、四万円だってさ」
「ヨ、ヨン。マン。エン!」
ケンの反応はわたしと全く同じだった。そして急に不安になったのか、周りをきょろきょろと見回した。この会話を誰かに聞かれでもしたら大変だからだ。
📖
「大丈夫、僕たちとヒダカさんしか知らない」
「ヒダカ……さん? さん、って言ったか?」
「ああ、あの人、そんなに悪い人じゃないみたいだよ」
「そうかなぁ、レンジ、お前騙されてるんじゃないのか?」
「そんな事ないよ。まぁ今日のことは夜にでも話すよ」
そして夜が来て、ケンとコトラが揃ったところでわたしは今日の出来事を話した。食事はあいかわらず質素だったけれど、その日はデザートにお腹いっぱい甘いものを食べた。もちろんヒダカ老人からもらったお菓子だ。それだけでもヒダカ老人の評価はグンと上がった。
そしてわたしとのやり取りを聞くと、二人とも老人を誤解していたことを悪いと認めるようになった。それはもちろんわたしも同じ気持ちだった。
📖
第一印象が当てになるとは限らない。
誤解があっても、分かり合えることもあるのだ。
なにごとも決めつけてかかるのはよくないということだ。
「これが本物の金かどうか見て欲しいんです。それで本物だったら、これがいくらぐらいになるのか教えて欲しいんです」
「ふむ。なるほどな」
ヒダカ老人はもう一度それを手に取った。そして手の平で転がして重さを測った。
「ふーむ。重さからするとやはり本物のようじゃな」
それから立ち上がり、壁ぞいに並んだ棚の一つに向かった。その引き出しのいくつかを開け、やがて天秤を見つけて戻ってきた。
それは手の平ほどの大きさで、二つの小さな皿がついていた。
わたしは興味津々でその様子を見守った。
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「正確に測ってみんとな。まずはこの針を中央に合わせる。ここをちゃんと確認するんだぞ。ごまかされることがあるんじゃ」
わたしは心のメモ帳にそれを書き込んだ。ヒダカ老人がさりげなく、売りに行く時の注意を教えてくれているのが分かったからだ。
ヒダカ老人は片方の皿に金の粒を三つ置いた。カタンと天秤が傾いた。それからもう一つの皿にピンセットを使って薄い分銅を載せていった。いくつか載せていき、いくつかを取り除き、やがて天秤は完全に釣り合った。
「3.8グラム。ふむ。結構あるな。これも自分の目で確認するんじゃ。そして新聞だ。大体このあたりに金の相場の値段が出ておる。この時に注意するのは新聞の日付だ。たまに相場が安かった時の古い新聞を使う奴がおるからな」
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なるほど……わたしにとってそれは初めて知る世界のことだった。
それにしても大金を持つというのは大変なことなのだと改めて思った。
「今は相場が上がっておるからな、これなら大体四万円というところだな」
それを聞いてわたしはイスから落ちかけた。
「ヨ、ヨン、マン、エン!」
わたしの顔から血の気が引いた。
おそろしい大金を手にしてしまった!
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わたしはヒダカ老人に礼を言った。右手にはお土産にもらったお菓子の袋もちゃんと握り締めていた。
「そうそう、それから最後に……」部屋を出ようとしたところで、ヒダカ老人が付け加えた。
「……手数料をちゃんと確認しておくんだぞ。まぁ普通は素人相手に、そこまではやらないもんだが、とにかく最後まで気を抜かないことだ」
「わかりました。あの、いろいろとありがとうございました」
「なんのなんの。困ったことがあったらまたおいで」
頭を下げて部屋を出ると、すぐにでも家に飛んで帰りたい気分だった。だがまだ掃除が残っている。わたしは急いで残りの窓ガラスを拭いた。かなりの枚数だったけど、ヒダカ老人が悪い人ではないと分かって、いつもほどつらい気分にはならなかった。
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そしていつもの交代の時間。
ちなみにこの時にはもうコトラは一緒に来ていなかった。コトラには食堂の仕事があったからだ。もう付きっきりで面倒を見なければならない歳ではなかった。
「ヒダカの爺さんと話せたか?」とケンちゃん。
「ああ。思ったよりいい人だったよ。それよりあれ、やっぱり本物みたいだ」
「いくらぐらいになるか聞けたか?」
「ああ、四万円だってさ」
「ヨ、ヨン。マン。エン!」
ケンの反応はわたしと全く同じだった。そして急に不安になったのか、周りをきょろきょろと見回した。この会話を誰かに聞かれでもしたら大変だからだ。
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「大丈夫、僕たちとヒダカさんしか知らない」
「ヒダカ……さん? さん、って言ったか?」
「ああ、あの人、そんなに悪い人じゃないみたいだよ」
「そうかなぁ、レンジ、お前騙されてるんじゃないのか?」
「そんな事ないよ。まぁ今日のことは夜にでも話すよ」
そして夜が来て、ケンとコトラが揃ったところでわたしは今日の出来事を話した。食事はあいかわらず質素だったけれど、その日はデザートにお腹いっぱい甘いものを食べた。もちろんヒダカ老人からもらったお菓子だ。それだけでもヒダカ老人の評価はグンと上がった。
そしてわたしとのやり取りを聞くと、二人とも老人を誤解していたことを悪いと認めるようになった。それはもちろんわたしも同じ気持ちだった。
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第一印象が当てになるとは限らない。
誤解があっても、分かり合えることもあるのだ。
なにごとも決めつけてかかるのはよくないということだ。