「神様。改名したいです」
天界でそう申し出ると、神様の透き通った目があたしを捉えた。
【……唐突だな。なんでまた、急に】
「色々思うところがあるんですよ、あたしにも。今回は事情が複雑でしたし」
【情が湧いたか? 彼に】
ずばりと核心を突かれて、あたしは苦笑いする。
「神様も大概でしょう。人たらしでしたから、彼」
人たらしなのは彼の母親も同様で、実を言うとあたしは其方にも相当引っ張られたのだが、神様には教えてやらないことにする。小さい子供扱いはもう流石にうんざりだ。
【まぁ、な。分からなくもない】
でも、と神様が続ける。
死神(タナトス)・リオンがきちんと仕事をしてくれて助かったよ。上に堕天させられるところだった】
「神様って、神様だけど中間管理職なの何でなんですか?」
【神にも色々あるのだ】
神様が笑ってはぐらかした。
【して、死神(タナトス)・リオン。改名の話だが】
「愛に音と書いて、愛音(あいね)花村(はなむら)愛音(あいね)如何(いかが)でしょう」
【……誰と誰から引っ張ってきたかが丸分かりなのだが】
はは、とあたしは声を上げて笑う。
「良いじゃないですか。欲張りなんですよ、あたし」
神様もそれを聞いて、珍しく笑った。
【分かった。では、死神(タナトス)・アイネ、次はどこへ行こうか】
名前を変えた以上、もうあの町には居られない。これもまた、死神の宿命だ。
「そうですねぇ」
耳の奥に、同時に聴くことは叶わなかったふたつの笑い声が反響する。
ふと振り返ると、手を繋いで楽しそうに駆けていく彼と彼女が、遥か遠くに見えた──気がした。