8月の魔法


『ねぇ、あいにきてくれない?』

わたしは大好きな人にそうメールを打った。
夏休みに入って1ヶ月経った8月。
お盆の大型連休でみんな家族の元に帰っているだろうか。彼も家族で集まってわいわいしてるのだろうか。
高校生になったし、彼女がいたりして遊んでるのだろうか。
ソファに転がって、メールの画面を眺める。
既読がつかないだろうなと思いながら、2分おきには
メールの画面を見てしまう。すっかり虜だ。
突然メールしたらびっくりするだろうか。
それとも、怖いなぁって思うだろうか。
こんな時にメールして迷惑だって分かってるけど。

「あ、」

既読がついた。
なんて返ってくるんだろう。
不安半分、期待半分でじっと画面を見つめる。

『わかった』

それだけ返ってきた。ちょっとだけ悲しい。
わたしは寝ていた体を起こして鏡の前に立つと前髪を少し整えて、服も整える。
ひさびさに会えるから、すこしだけ胸がどきどきした。

ピーンポーン

鍵なんてあいてるの分かってるはずなのに、インターホンを鳴らす真面目さに笑みが零れる。

「はあーい」

ドアから顔を出すと、緊張した顔の懐かしい彼が立っていた。

「ひさしぶり、月」

声をかけると月はびっくりしたみたいに目を大きく開いてぎこちなく笑った。それはそうだろう。
わたしは安心させるように頬を緩ます。

「大丈夫だから入って」
「じゃあ少しだけ。お邪魔します」

どうぞ、と言ってリビングに入るように促した。

「あ、これ。ちょっとだけど」

月は緊張が解れたのか柔らかく笑うと、わたしに花束とお菓子を渡した。お菓子もお花もわたしの好きなものだった。

「カスミソウ?珍しいね」

白い小花を指さして首を傾げてから、その花の花言葉を思い出してわたしはふんわり笑う。
きっと彼は知らないだろうけど。

「ありがと、飾っとくね」

母がくれた陶器の花瓶に花を生ける。
匂いは感じないけど、小さくて愛らしい匂いがする気がした。

「ちょっとおしゃべりしてく?」
「そのつもり」

月は白い歯を見せてニッと笑った。
わたしは買ってきてくれたお菓子をつまんで、久々のお菓子に満足する。月も横からつまんで、頬張る。
そしてお互いの最近の話をする。
花火大会に行っただとか、テストの順位がやばかっただとか。
過去にタイムトラベルしたみたいだなぁ、と思う。
無意識に彼の横顔を見る。
好きだなぁ。
ああ、そうだ。叶わないし届かない。
そんなことをふと考えてしまって泣きたくなってしまった。
いけない、いけない。

「それにしてもびっくりだなあ」

くわぁ、と欠伸した月が窓から見える星空を横目に呟く。

「なにが?」

わたしは首を傾げる。

「奇跡とか魔法って本当にあるんだって思って」
「奇跡とか魔法?」
「うん」

月はこっちを見て悲しそうに眉を下げた。
空の光が反射して、月の目が透明に見える。
星までも見えるように感じる。
その瞳にわたしは映っていない。
彼からわたしは本当に見えてるのだろうか。

「お盆って本当に星になった人に会えるんだね。今日みたいに。いや、今日だけかな」

そうだわたしは
君の世界に生きてないんだ。
改めて理解しようとすると胸がきゅーと苦しくなる。
奇跡なんて魔法なんて神様なんて。
わたしは口角をあげる。自然な笑みだった、と思う。

「奇跡だとしてもわたしの恋は叶わなかったよ。ずっとあなたに片想いだった。あのね、わたしあなたのこと好きだった。あの日もわたし、あなたに告白しようと思ってたの」

彼は静かに俯いて、深呼吸した。
月はもしかしたら気づいてたのかもしれないけど。
すると月はパッと顔を上げて柔らかく笑った。
それはわたしの大好きな笑顔だった。

「カスミソウの花言葉、これが好きだった君が1番分かってるでしょ。彗」

彼はここにきてはじめてわたしの名前を呼んだ。

「カスミソウの花言葉」

それは、
永遠の愛

ありがとう、彗は嬉しそうに言うと僕の前から消えてしまった。僕は息を一つ吐いく。目が潤う、風が吹く、髪が揺れる。
そしてひとりで呟いた。

「僕も好きだったよ、彗」