操られて争う事がどれだけ悲惨で、どれだけ悲しい事であろう。
足がもげれば、両手を使い前進をさせられる。どれだけ血をながしても、痛みすら感じる事はない。マナが尽きても、強制的に魔法を使わされる。肉体が半壊しても、攻撃の手を止める事は出来ない。粉微塵になるまで戦わされる様は、地獄の亡者すら生ぬるく感じるだろう。
戦場には狂気が宿る。だが誇りを持ち、国の為、民の為に戦うならば、倒れたとて悔いは残るまい。操られた兵達は狂気以前に、意志も闘志も感じさせない。ただ人を殺す道具、戦い続ける機械、それに何の意味が有り、何を得られるのだろう。
果て無き悪夢は、ただ一柱の愉悦のみによって続けられる。未来もなく、救いもない。命の尊厳は失われ、全てが塵芥に変わるまで、終わる事は無い。
☆ ☆ ☆
「全く。悪趣味にも程が有るよ」
「まさか、帝国兵同士で戦わせるなんてな」
「流石に誤算だったね。こんな事になるなら、私達だけでも先行すれば良かった」
「言っても始まらねぇよ。それより、攻めてる奴等を何とかする方が先だ」
如何に内乱と言えども、ここまでの惨状にはなるまい。何せ、一定数の死傷者が出た時点で、兵を引くのが極一般的な戦争であろう。小競り合い程度なら、死傷者の数はより減るだろう。
しかし、この戦場は死ぬ事さえ許されない。
城壁を登ろうとしている兵は、魔法によって地に叩き落される。そして、体のいずれかが壊れる事になる。それでも、よじ登る事を止めない。
魔法を使って攻撃している兵は、倒れる事を許されない。頭はふらついている、限界がとうに訪れているのは見るも明らかだ。しかし、魔法を撃つのを止めようとはしない。
表情を失った。兵達が傷つき倒れても、また起き上がって戦いへと戻る。それは正しく地獄の光景と読んで相応しかった。
既に一刻の猶予も無かった。死兵より非道な凄惨から兵達を救う為には、迅速な行動が必要だった。ペスカは声を荒げて、号令をかける。
「各隊前進!」
ペスカの号令と共に、帝都を囲む領軍に向かい前進する。ペスカは戦車から半分ほど体を出し、指示を出し続けた。
「トール隊ロケットランチャー班、構え! 城門の領軍に向けて、撃て!」
一斉にロケット弾が約五十発が発射され、城門を攻撃していた領軍に降り注ぐ。弾頭が兵士に当たる寸前に光を放つ。
光は連鎖する様に周囲を取り囲み始め、城門を攻撃していた領軍を包み込む。光が消えると、攻撃をしていた領軍は一斉に倒れ始めた。
「トール隊ロケットランチャー班は次弾装填急げ! メルフィー隊、右城壁に取り着いている奴らを狙え! てー!」
城門から右寄りの方角で、城壁をよじ登ろうとしている領軍に向かい、約五十発のロケット弾が発射される。再び着弾と同時に光が連鎖し広がり、領軍を包む。光が消えると、兵達は崩れ落ちる様に倒れていた。
背後からの攻撃に気付いたのか、城壁に向かい投擲を続けていた領軍が振り返り、ペスカ達に向かい前進してくる。
「トール隊アサルトライフル班、前へ。引き付けてから……。今! てー!」
アサルトライフル班がロケットランチャー班の前方に進み、構えて狙いを定める。剣を抜き前進して来る領軍に向かい、ペスカの合図でライフル弾の雨が降る。そして領軍は次々と崩れ落ちていった。
「全軍、右へ前進!」
ペスカの号令で、倒れる領軍を迂回し右方に前進する。ペスカ達の動きに引き付けられた様に、別の領軍が帝都から向かって来る。
「シルビア隊前へ! しっかり引き付けろ!」
向かってきた部隊は、遠方から魔法を多用して攻撃してくる。だが射程が遠すぎる為、放たれた魔法はシルビア隊に届かず消えうせる。
牽制にしては陳腐な攻撃に、意図は無いのだろう。充分に引き付けて、シルビア隊がライフルの一斉射撃を行う。領軍は、瞬く間に全員倒れ伏した。
ペスカは一度、帝都の城壁に目を向ける。帝都城壁では、帝国軍の兵士が右往左往している。突然始まった謎の攻撃により、領軍が倒れ始めたのだ。混乱しているのは、見て取れる。
「ペスカ。城の兵士達は、洗脳されてないのか?」
「あの様子だと、もしかしたらね」
「それなら、まだ救いがあるかも知れねぇ」
「トール! 伝令を城門に送って。話が通じる様なら、こちらの状況を教えてあげて」
「了解しました。ペスカ殿」
トールは急ぎ、城門へ伝令の兵を数人走らせる。それと同時にシグルドから、声がかかる。
「ペスカ様、領軍が左右から向かってきています」
ペスカが確認すると、城門を中心に左側から一つ、その反対側から三つの領軍が向かって来ていた。
「お兄ちゃん。城門側から向かって来る領軍に魔攻砲を向けて! 弾丸なしでもいけそう?」
「あぁ、瞑想の成果を見せてやる!」
「よし、てー!」
戦車の砲門から発射された冬也の魔法は、大きく弧を描き城門の右側から向かって来る領軍に着弾し光を放つ。
「次もいけるぞ、ペスカ!」
「よし、てー!」
続く二射目も、見事に着弾し光を放つ。最初の光と交じり合い連鎖の様に広がり、三つの領軍を包んでいく。バタバタと倒れていく兵達を見れば、効果が充分なのは瞭然であろう。
続いてペスカは、トール隊に指示を送る。狙うのは城門の左側から向かってくる領軍である。
「ナイス、お兄ちゃん。 トール隊ロケットランチャー班! 目標、右の領軍! てー!」
ペスカの号令で、ロケット弾が発射される。ロケット弾が放った光は領軍を包み、兵達を救っていった。
この時点で、城門周辺には攻撃を加える領軍の姿がいなくなる。帝都防衛側戦力にとっては、最大のチャンスが訪れた。ただ、帝国の防衛側が邪神の洗脳を受けていなければの話しではあるが。
「ペスカ様、ご覧ください。帝国軍が城門から出て来ました」
シグルドの言葉で、ペスカは再び城門へ視線を向ける。城門が開き、大隊が出撃して来るのが見える。帝国の大隊はペスカ側に向かわず、倒れている領軍の安否確認を行っている様だった。
「ペスカ殿。どうやら、帝都の軍は精神汚染を受けていない様だ」
「よかった。どうやら伝令も間に合ったようだね」
「倒れている領軍は如何致しますか?」
「そっちは、帝国軍に任せよう」
「所でトール。今はどれだけの領軍が集まってる感じ?」
「これまで、八つの領軍を沈黙させました」
「これから到着しそうな軍は?」
「我が国には、辺境領が十ほど有ります。それらの軍がこれから侵攻してくる可能性が有るかと」
「面倒だな。まだ、相当の数が洗脳されたままかよ」
「取り合えずトールは、帝国軍に合流して、周囲の警戒に当たって」
「俺達はどうすんだ?」
「取り合えず、ドローンを飛ばして様子を見るよ」
足がもげれば、両手を使い前進をさせられる。どれだけ血をながしても、痛みすら感じる事はない。マナが尽きても、強制的に魔法を使わされる。肉体が半壊しても、攻撃の手を止める事は出来ない。粉微塵になるまで戦わされる様は、地獄の亡者すら生ぬるく感じるだろう。
戦場には狂気が宿る。だが誇りを持ち、国の為、民の為に戦うならば、倒れたとて悔いは残るまい。操られた兵達は狂気以前に、意志も闘志も感じさせない。ただ人を殺す道具、戦い続ける機械、それに何の意味が有り、何を得られるのだろう。
果て無き悪夢は、ただ一柱の愉悦のみによって続けられる。未来もなく、救いもない。命の尊厳は失われ、全てが塵芥に変わるまで、終わる事は無い。
☆ ☆ ☆
「全く。悪趣味にも程が有るよ」
「まさか、帝国兵同士で戦わせるなんてな」
「流石に誤算だったね。こんな事になるなら、私達だけでも先行すれば良かった」
「言っても始まらねぇよ。それより、攻めてる奴等を何とかする方が先だ」
如何に内乱と言えども、ここまでの惨状にはなるまい。何せ、一定数の死傷者が出た時点で、兵を引くのが極一般的な戦争であろう。小競り合い程度なら、死傷者の数はより減るだろう。
しかし、この戦場は死ぬ事さえ許されない。
城壁を登ろうとしている兵は、魔法によって地に叩き落される。そして、体のいずれかが壊れる事になる。それでも、よじ登る事を止めない。
魔法を使って攻撃している兵は、倒れる事を許されない。頭はふらついている、限界がとうに訪れているのは見るも明らかだ。しかし、魔法を撃つのを止めようとはしない。
表情を失った。兵達が傷つき倒れても、また起き上がって戦いへと戻る。それは正しく地獄の光景と読んで相応しかった。
既に一刻の猶予も無かった。死兵より非道な凄惨から兵達を救う為には、迅速な行動が必要だった。ペスカは声を荒げて、号令をかける。
「各隊前進!」
ペスカの号令と共に、帝都を囲む領軍に向かい前進する。ペスカは戦車から半分ほど体を出し、指示を出し続けた。
「トール隊ロケットランチャー班、構え! 城門の領軍に向けて、撃て!」
一斉にロケット弾が約五十発が発射され、城門を攻撃していた領軍に降り注ぐ。弾頭が兵士に当たる寸前に光を放つ。
光は連鎖する様に周囲を取り囲み始め、城門を攻撃していた領軍を包み込む。光が消えると、攻撃をしていた領軍は一斉に倒れ始めた。
「トール隊ロケットランチャー班は次弾装填急げ! メルフィー隊、右城壁に取り着いている奴らを狙え! てー!」
城門から右寄りの方角で、城壁をよじ登ろうとしている領軍に向かい、約五十発のロケット弾が発射される。再び着弾と同時に光が連鎖し広がり、領軍を包む。光が消えると、兵達は崩れ落ちる様に倒れていた。
背後からの攻撃に気付いたのか、城壁に向かい投擲を続けていた領軍が振り返り、ペスカ達に向かい前進してくる。
「トール隊アサルトライフル班、前へ。引き付けてから……。今! てー!」
アサルトライフル班がロケットランチャー班の前方に進み、構えて狙いを定める。剣を抜き前進して来る領軍に向かい、ペスカの合図でライフル弾の雨が降る。そして領軍は次々と崩れ落ちていった。
「全軍、右へ前進!」
ペスカの号令で、倒れる領軍を迂回し右方に前進する。ペスカ達の動きに引き付けられた様に、別の領軍が帝都から向かって来る。
「シルビア隊前へ! しっかり引き付けろ!」
向かってきた部隊は、遠方から魔法を多用して攻撃してくる。だが射程が遠すぎる為、放たれた魔法はシルビア隊に届かず消えうせる。
牽制にしては陳腐な攻撃に、意図は無いのだろう。充分に引き付けて、シルビア隊がライフルの一斉射撃を行う。領軍は、瞬く間に全員倒れ伏した。
ペスカは一度、帝都の城壁に目を向ける。帝都城壁では、帝国軍の兵士が右往左往している。突然始まった謎の攻撃により、領軍が倒れ始めたのだ。混乱しているのは、見て取れる。
「ペスカ。城の兵士達は、洗脳されてないのか?」
「あの様子だと、もしかしたらね」
「それなら、まだ救いがあるかも知れねぇ」
「トール! 伝令を城門に送って。話が通じる様なら、こちらの状況を教えてあげて」
「了解しました。ペスカ殿」
トールは急ぎ、城門へ伝令の兵を数人走らせる。それと同時にシグルドから、声がかかる。
「ペスカ様、領軍が左右から向かってきています」
ペスカが確認すると、城門を中心に左側から一つ、その反対側から三つの領軍が向かって来ていた。
「お兄ちゃん。城門側から向かって来る領軍に魔攻砲を向けて! 弾丸なしでもいけそう?」
「あぁ、瞑想の成果を見せてやる!」
「よし、てー!」
戦車の砲門から発射された冬也の魔法は、大きく弧を描き城門の右側から向かって来る領軍に着弾し光を放つ。
「次もいけるぞ、ペスカ!」
「よし、てー!」
続く二射目も、見事に着弾し光を放つ。最初の光と交じり合い連鎖の様に広がり、三つの領軍を包んでいく。バタバタと倒れていく兵達を見れば、効果が充分なのは瞭然であろう。
続いてペスカは、トール隊に指示を送る。狙うのは城門の左側から向かってくる領軍である。
「ナイス、お兄ちゃん。 トール隊ロケットランチャー班! 目標、右の領軍! てー!」
ペスカの号令で、ロケット弾が発射される。ロケット弾が放った光は領軍を包み、兵達を救っていった。
この時点で、城門周辺には攻撃を加える領軍の姿がいなくなる。帝都防衛側戦力にとっては、最大のチャンスが訪れた。ただ、帝国の防衛側が邪神の洗脳を受けていなければの話しではあるが。
「ペスカ様、ご覧ください。帝国軍が城門から出て来ました」
シグルドの言葉で、ペスカは再び城門へ視線を向ける。城門が開き、大隊が出撃して来るのが見える。帝国の大隊はペスカ側に向かわず、倒れている領軍の安否確認を行っている様だった。
「ペスカ殿。どうやら、帝都の軍は精神汚染を受けていない様だ」
「よかった。どうやら伝令も間に合ったようだね」
「倒れている領軍は如何致しますか?」
「そっちは、帝国軍に任せよう」
「所でトール。今はどれだけの領軍が集まってる感じ?」
「これまで、八つの領軍を沈黙させました」
「これから到着しそうな軍は?」
「我が国には、辺境領が十ほど有ります。それらの軍がこれから侵攻してくる可能性が有るかと」
「面倒だな。まだ、相当の数が洗脳されたままかよ」
「取り合えずトールは、帝国軍に合流して、周囲の警戒に当たって」
「俺達はどうすんだ?」
「取り合えず、ドローンを飛ばして様子を見るよ」