その後の競技のことは正直よく覚えていない。
 あいつの出場する種目を見ないといけないのにと思っても、どうしても目の前の競技に集中できなかった。

 しまったな、見逃したかもしれないなと考えながら、プログラムは最後のリレー種目になっていた。
 でもまぁ、いいか。
 あの尚樹くんのダンスを見ただけでも、今の俺には破壊力は十分だった。

 リレー種目には、クラスの中で一番仲のいい友達が出場することになっていたので、応援のために気持ちを切り替える。
 入場門から入場してくる選手の中から友達を探そうとする。
 そのとき、友達ではなくて、別の人間を見つけてしまい、俺は息が止まったかのような感覚に襲われた。
 嘘だろ・・・。
 尚樹くんもリレー選手としてそこにいた。

 リレー種目は男女混合で、第1走者が1年女子から始まり、男女交互に選手が配置され、アンカー走者は3年男子になっている。女子はグラウンドの半周、男子はグラウンドを1周するルールだ。
 俺の友達と尚樹くんは、第2走者だった。

 俺の心の準備が全然整わないうちに、第1走者がスタートする。
 うちのクラスの第1走者の女子は陸上部だし、仲のいい友達も陸上部だ。
 つまり、リレー種目は基本的に陸上部の人間が出場して、他はバスケ部やバレー部など体育会系の部活の人間が活躍する場なのだ。
 それなのに、それなのに!
 あいつは何を考えているんだ?
 お前は演劇部だろ!
 俺は彼に対して、怒りにも似た感情が湧いていた。
 同時に、キレキレのダンスを踊っていた尚樹くんを思い出してしまう。
 まさかね。
 違うと思いたい。

 第2走者にバトンが渡される。
 俺は友達の名前を叫んだ。
 暫定1位は友達だった。
 うちのクラスの第1走者が2位にかなりの距離をつけて1位に立っていたらしく、第2走者もうちのクラスが1位で通過すると思われた。

 嫌な予感は当たるものだ。

 友達の後ろから、猛烈なスピードで追いついてくる人物は尚樹くんだった。
 ぐいぐいと疾走感のある走りに目が離せなかった。
 そして、ラスト4分の1周を残して彼は俺の友達を完全に追い抜き、1位で第3走者にバトンを渡した。

 走り終わった尚樹くんが、チームの仲間に弾けるような笑顔でピースサインをしていた姿がくっきりと俺の脳裏に焼き付いていた。

 後はもう、覚えていなかった。
 リレーの結果はうちのチームが2位で、またもや尚樹くんのチームが1位だった。
 総合優勝も彼のチームだったことは覚えているけど、忘れたいと思った。

 あまりにも尚樹くんに関して不意打ちが多すぎて、俺は体育祭の次の日に設定されていた振り替え休日に、高熱を出して1日中寝込む羽目になった。
 その日、彼からの「じゅり」に対する連絡は全て無視した。