「あの...葉月さん、本当に僕も行っていいんですか?」
「良くなかったら呼んでない。」
「そうですよね...」
春馬さんはそれっきり話さなくなった。私の言い方が強かったかなとチラリと横顔を見ると、緊張しているのか表情が硬かった。それもそうか。私が一番大好きな人のお墓に、今から行くのだから。
時を遡る事一か月前。あの夜、海で出会った男の人は名前を春馬と名乗った。春馬さんも、一番好きだった人を亡くしていた。
春馬さんの好きだった人の死は私とは違って、自死だったみたいだ。元々、生きる事に興味がなかった人みたいで、どうせ歳取って死んでいくのなら今死んでもいいやって考える人だったみたいだ。
「僕は彼女の事を救えなかったんです。生きたいって思わせるって約束したのに。」
そう言って悲しそうに笑う春馬さんの顔を、私は一生忘れないだろう。
春馬さんは彼女に一年以内に行きたいって思える、死のうなんて二度と考えない楽しい事をしてあげるという約束をして付き合ったみたいだ。だけどその約束を果たせなかった。何をしても彼女は心から笑ってはくれなかったと話した。
その話を出会った次の日。カフェでお互いの生い立ちを簡単に話していた時にどでかいのを話された私は、どう反応したらいいのかわからなかった。
「それなのに私に一目惚れなんて言っていいの?」
私に一目惚れと告白してきた時は誰とも付き合った事ないのだろうと思ったが、まさか彼女が居て、亡くなっているとは思わなかった。また星野君からの手紙を読み返さなければ。
「僕自身も、彼女以外に好きになる人なんて出会えないと思ってました。」
「だけど昨日、海で葉月さんの事を見て。不謹慎なんですけど彼女が生き返ったと思ったんです。それで気づいたら告ってました。」
「じゃあ私はその彼女さんの代わりって事?」
「いや、そんな事ないです!僕は確かに、最初は彼女に似てると思って告ってました。だけど今、少し話しただけで胸を張って好きだと告白できるほど好きです。今だって抱き締めたくて仕方ないです。」
「わかった、わかったから。一旦外出よっか。」
周りの目を気にせず堂々と言われ、他のお客さんからの視線が痛かった私は、お金を払って春馬さんを引っ張ってすぐお店を出た。
「僕の分、いくらでしたっけ。払います。」
「このぐらい大丈夫。多分、私の方が稼いでるから。」
「ありがとうございます...」
春馬さんは今、アルバイトを掛け持ちしながら暮らしているらしい。年齢は私より五つも上なのに、安定した職についていないのにも理由があった。
彼女さんが全国の公園に、小さい子供が好きそうなおもちゃを埋めたからだ。それを全部回収する為に元々働いていた事務職を辞め、探し歩いたらしい。費用は彼女さんの両親が出してくれたみたいだ。娘が申し訳ない事したって。
「最初、彼女がどうしてそんな事したのかわからなかったんです。だけど最後の公園でおもちゃを掘り起こした時、手紙も一緒に入ってて。その手紙におもちゃを全国に埋めた理由が書いてあったんです。」
彼女さんがおもちゃを全国に埋めたのは、春馬さんが自分のあとを追わせない為だったみたいだ。それと、死にたくないって思わせるぐらい楽しい事をするなら、これぐらいしないとダメだよとも書いてあったみたいだ。
彼女さんが亡くなった時はあとを追う気でいたらしい。だけどその宝探しのおかげで、春馬さんはその気持ちが紛れたと話した。
「葉月さんは好きだった人が亡くなった後、あとを追おうと思わなかったんですか?」
カフェから出てぶらぶら歩いていると、春馬さんが聞いてきた。
「私は思わなかったかな。その時は自分のせいで星野君を殺したと思ってたから、あとを追うなんて事まで考えられなかった。今思えば、その手もあったね。そしたらすぐ星野君に謝れて、付き合えたのに。」
「僕から話を広げといてなんですけど、今更あとを追わないでくださいね!?僕、好きになった人みんな失うの嫌ですよ。」
「大丈夫だよ。私ほら、そこそこ名が売れてるからさ、死んだら色々と面倒じゃん。だから死なない。」
「そうですか。葉月さんが有名人でよかったです。まぁ、僕は知らなかったんですけど。」
「あー、そういうこと言うんだ。今から星野君のあとを追ってもいいんだよ?」
「ダメです、やめてください。ごめんなさい。」
慌てる春馬さんが面白くて笑った。この感じ、星野君と一緒に居た時と似てる。
「僕、葉月さんの好きだった方のお墓に行ってみたいです。」
「急に何言ってんの?」
唐突に言われ、そうつっこむしかなかった。
春馬さんは慌てながら早口で説明した。
「だって、挨拶したいじゃないですか。葉月さんは僕の彼女のお墓に行きたいとか思わないんですか?」
「私は別に、春馬さんの彼女さんの所に行きたいとか思わないんだけど。」
「なんか、僕が変な事言った人みたいじゃないですか。」
「現に変なこと言ってるし。」
「あんまりいじめないでください...」
しょんぼりしている春馬さんも面白くてまた笑った。
本当に年上とは思えないし、話していてしんどくない。いつもの私なら年上の人には敬語を使うのだが、春馬さんに関しては使わず、太陽とか夏音と話すみたいに話せる。春馬さんいわく、そういう話し方も彼女と似ていると言っていた。だからお互いウィンウィンの関係なのだ。
「いいよ、星野君のお墓参り行こっか。」
「いいんですか!?」
「うん。でもまだ仕事が忙しいから、最短でも一ヶ月後にはなるよ。それでもいい?」
「いいです、待ちます。その間、僕もちゃんとした職探します。」
「なら私が落ち着いたら連絡するね。」
「わかりました。お身体に気をつけて。」
「ありがとう。」
と、まあこんな感じで星野君のお墓に二人で行く事になったのだ。元々、映画が公開されたら報告しに来ようとは思っていたからちょうど良かった。
「ここだよ。」
「ここが、葉月さんの好きだった方のお墓なんですね。」
少し息を切らせながら春馬さんはお墓の前にしゃがんだ。私もその隣にしゃがんだ。
「星野君、この方が春馬さん。」
「初めまして、春馬と言います。」
お墓に向かって紹介する。返事はないが。
「私、これから星野君に話す事沢山あるから時間かかるかも。」
「全然大丈夫です。僕はその横顔を見とくんで。」
「星野君、やっぱりこの人と付き合うの辞めといた方がいいよね?」
「ごめんなさい、そんな事言わないでください。ちゃんと付き合う事は視野に入れといてください。」
「ふふ」
ねぇ、星野君。私、この人と居ると最近毎日が楽しいんだ。そうだなぁ、星野君と一緒に居た時ぐらいかな。
本当は私が幸せになる資格なんてないよね。でも、一番好きなのは星野君だから。これ以上好きになる人は居ない。春馬さんの事を好きになったとしても、星野君以上にはならない。だから安心して。
映画も予定してたとおりに公開して、結構な興行収入なんだよ。私達の青春の一ページが、色んな人の手によって見てもらえるなんて、凄いことだし嬉しいよね。
星野君が居たから、今の私があるんだよ。ありがとう。
大好きだよ、悠君。
目を開けると、私の横顔を見てると言っていた春馬さんも目を瞑っていた。私が見ている事には気づいていない。
「あれ、私の横顔見てなかったんだ。」
私がからかうと、春馬さんはやっと目を開けた。
「見るわけないじゃないですか!ここに葉月さんの一番好きな人が居るんですよ!?」
「春馬さんならやりそうだなーって。私に一目惚れって言ってきたぐらいだし。」
「何も言い返せない...」
本気で悔しそうにしている春馬さんが面白くて声を出して笑った。どうしてこの人は一挙一動面白いのだろう。
「ねぇ、春馬さん。一か月前の告白の返事、今してもいい?」
ひとしきり笑い、笑いが冷めた頃に春馬さんに聞いた。春馬さんはまた慌てた。
「え、あ、僕的にはいいですけど、一番好きな人の前で言っていいんですか?」
「星野君の前で言った方がいいかなって。」
「葉月さんがそれでいいならいいですよ。僕はどんな答えでも受け止めます。一ヶ月傍に居てくれただけでも嬉しいんですから。」
「これからはずっと居れるよ。」
「そうですよね、もう終わりですよね...って、え!今なんて言いました!?」
「だから、これからはずっと傍に居れるよって言ったの。」
「それってつまり...」
「告白の返事。これからは、恋人としてよろしくお願いします。」
前とは逆で私が手を差し出すと、春馬さんは涙を流しながら手を取った。
「なんで泣くの?」
「嬉しいのと、今の表情が彼女そっくりで。色んな気持ちが混ざって泣いてます。」
「この流れで元カノの名前出す?普通。ちょっと付き合うと決めるの早すぎたかも...」
「そんな事言わないでください!確かに元カノの名前出したのは悪いと思います。葉月さんの返事が嬉しかったです。」
「ふふ、冗談だよ。その彼女さんが一番なのはわかってるから。私も一番は星野君だから。でもだからって大事にはするよ。それでもいい?」
「いいです。こんなに話があって一緒に居て楽しい人、葉月さん以外で会った事ありません。こんな僕ですが、よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
心地よい風が、私達の間をすり抜けて行った。
「良くなかったら呼んでない。」
「そうですよね...」
春馬さんはそれっきり話さなくなった。私の言い方が強かったかなとチラリと横顔を見ると、緊張しているのか表情が硬かった。それもそうか。私が一番大好きな人のお墓に、今から行くのだから。
時を遡る事一か月前。あの夜、海で出会った男の人は名前を春馬と名乗った。春馬さんも、一番好きだった人を亡くしていた。
春馬さんの好きだった人の死は私とは違って、自死だったみたいだ。元々、生きる事に興味がなかった人みたいで、どうせ歳取って死んでいくのなら今死んでもいいやって考える人だったみたいだ。
「僕は彼女の事を救えなかったんです。生きたいって思わせるって約束したのに。」
そう言って悲しそうに笑う春馬さんの顔を、私は一生忘れないだろう。
春馬さんは彼女に一年以内に行きたいって思える、死のうなんて二度と考えない楽しい事をしてあげるという約束をして付き合ったみたいだ。だけどその約束を果たせなかった。何をしても彼女は心から笑ってはくれなかったと話した。
その話を出会った次の日。カフェでお互いの生い立ちを簡単に話していた時にどでかいのを話された私は、どう反応したらいいのかわからなかった。
「それなのに私に一目惚れなんて言っていいの?」
私に一目惚れと告白してきた時は誰とも付き合った事ないのだろうと思ったが、まさか彼女が居て、亡くなっているとは思わなかった。また星野君からの手紙を読み返さなければ。
「僕自身も、彼女以外に好きになる人なんて出会えないと思ってました。」
「だけど昨日、海で葉月さんの事を見て。不謹慎なんですけど彼女が生き返ったと思ったんです。それで気づいたら告ってました。」
「じゃあ私はその彼女さんの代わりって事?」
「いや、そんな事ないです!僕は確かに、最初は彼女に似てると思って告ってました。だけど今、少し話しただけで胸を張って好きだと告白できるほど好きです。今だって抱き締めたくて仕方ないです。」
「わかった、わかったから。一旦外出よっか。」
周りの目を気にせず堂々と言われ、他のお客さんからの視線が痛かった私は、お金を払って春馬さんを引っ張ってすぐお店を出た。
「僕の分、いくらでしたっけ。払います。」
「このぐらい大丈夫。多分、私の方が稼いでるから。」
「ありがとうございます...」
春馬さんは今、アルバイトを掛け持ちしながら暮らしているらしい。年齢は私より五つも上なのに、安定した職についていないのにも理由があった。
彼女さんが全国の公園に、小さい子供が好きそうなおもちゃを埋めたからだ。それを全部回収する為に元々働いていた事務職を辞め、探し歩いたらしい。費用は彼女さんの両親が出してくれたみたいだ。娘が申し訳ない事したって。
「最初、彼女がどうしてそんな事したのかわからなかったんです。だけど最後の公園でおもちゃを掘り起こした時、手紙も一緒に入ってて。その手紙におもちゃを全国に埋めた理由が書いてあったんです。」
彼女さんがおもちゃを全国に埋めたのは、春馬さんが自分のあとを追わせない為だったみたいだ。それと、死にたくないって思わせるぐらい楽しい事をするなら、これぐらいしないとダメだよとも書いてあったみたいだ。
彼女さんが亡くなった時はあとを追う気でいたらしい。だけどその宝探しのおかげで、春馬さんはその気持ちが紛れたと話した。
「葉月さんは好きだった人が亡くなった後、あとを追おうと思わなかったんですか?」
カフェから出てぶらぶら歩いていると、春馬さんが聞いてきた。
「私は思わなかったかな。その時は自分のせいで星野君を殺したと思ってたから、あとを追うなんて事まで考えられなかった。今思えば、その手もあったね。そしたらすぐ星野君に謝れて、付き合えたのに。」
「僕から話を広げといてなんですけど、今更あとを追わないでくださいね!?僕、好きになった人みんな失うの嫌ですよ。」
「大丈夫だよ。私ほら、そこそこ名が売れてるからさ、死んだら色々と面倒じゃん。だから死なない。」
「そうですか。葉月さんが有名人でよかったです。まぁ、僕は知らなかったんですけど。」
「あー、そういうこと言うんだ。今から星野君のあとを追ってもいいんだよ?」
「ダメです、やめてください。ごめんなさい。」
慌てる春馬さんが面白くて笑った。この感じ、星野君と一緒に居た時と似てる。
「僕、葉月さんの好きだった方のお墓に行ってみたいです。」
「急に何言ってんの?」
唐突に言われ、そうつっこむしかなかった。
春馬さんは慌てながら早口で説明した。
「だって、挨拶したいじゃないですか。葉月さんは僕の彼女のお墓に行きたいとか思わないんですか?」
「私は別に、春馬さんの彼女さんの所に行きたいとか思わないんだけど。」
「なんか、僕が変な事言った人みたいじゃないですか。」
「現に変なこと言ってるし。」
「あんまりいじめないでください...」
しょんぼりしている春馬さんも面白くてまた笑った。
本当に年上とは思えないし、話していてしんどくない。いつもの私なら年上の人には敬語を使うのだが、春馬さんに関しては使わず、太陽とか夏音と話すみたいに話せる。春馬さんいわく、そういう話し方も彼女と似ていると言っていた。だからお互いウィンウィンの関係なのだ。
「いいよ、星野君のお墓参り行こっか。」
「いいんですか!?」
「うん。でもまだ仕事が忙しいから、最短でも一ヶ月後にはなるよ。それでもいい?」
「いいです、待ちます。その間、僕もちゃんとした職探します。」
「なら私が落ち着いたら連絡するね。」
「わかりました。お身体に気をつけて。」
「ありがとう。」
と、まあこんな感じで星野君のお墓に二人で行く事になったのだ。元々、映画が公開されたら報告しに来ようとは思っていたからちょうど良かった。
「ここだよ。」
「ここが、葉月さんの好きだった方のお墓なんですね。」
少し息を切らせながら春馬さんはお墓の前にしゃがんだ。私もその隣にしゃがんだ。
「星野君、この方が春馬さん。」
「初めまして、春馬と言います。」
お墓に向かって紹介する。返事はないが。
「私、これから星野君に話す事沢山あるから時間かかるかも。」
「全然大丈夫です。僕はその横顔を見とくんで。」
「星野君、やっぱりこの人と付き合うの辞めといた方がいいよね?」
「ごめんなさい、そんな事言わないでください。ちゃんと付き合う事は視野に入れといてください。」
「ふふ」
ねぇ、星野君。私、この人と居ると最近毎日が楽しいんだ。そうだなぁ、星野君と一緒に居た時ぐらいかな。
本当は私が幸せになる資格なんてないよね。でも、一番好きなのは星野君だから。これ以上好きになる人は居ない。春馬さんの事を好きになったとしても、星野君以上にはならない。だから安心して。
映画も予定してたとおりに公開して、結構な興行収入なんだよ。私達の青春の一ページが、色んな人の手によって見てもらえるなんて、凄いことだし嬉しいよね。
星野君が居たから、今の私があるんだよ。ありがとう。
大好きだよ、悠君。
目を開けると、私の横顔を見てると言っていた春馬さんも目を瞑っていた。私が見ている事には気づいていない。
「あれ、私の横顔見てなかったんだ。」
私がからかうと、春馬さんはやっと目を開けた。
「見るわけないじゃないですか!ここに葉月さんの一番好きな人が居るんですよ!?」
「春馬さんならやりそうだなーって。私に一目惚れって言ってきたぐらいだし。」
「何も言い返せない...」
本気で悔しそうにしている春馬さんが面白くて声を出して笑った。どうしてこの人は一挙一動面白いのだろう。
「ねぇ、春馬さん。一か月前の告白の返事、今してもいい?」
ひとしきり笑い、笑いが冷めた頃に春馬さんに聞いた。春馬さんはまた慌てた。
「え、あ、僕的にはいいですけど、一番好きな人の前で言っていいんですか?」
「星野君の前で言った方がいいかなって。」
「葉月さんがそれでいいならいいですよ。僕はどんな答えでも受け止めます。一ヶ月傍に居てくれただけでも嬉しいんですから。」
「これからはずっと居れるよ。」
「そうですよね、もう終わりですよね...って、え!今なんて言いました!?」
「だから、これからはずっと傍に居れるよって言ったの。」
「それってつまり...」
「告白の返事。これからは、恋人としてよろしくお願いします。」
前とは逆で私が手を差し出すと、春馬さんは涙を流しながら手を取った。
「なんで泣くの?」
「嬉しいのと、今の表情が彼女そっくりで。色んな気持ちが混ざって泣いてます。」
「この流れで元カノの名前出す?普通。ちょっと付き合うと決めるの早すぎたかも...」
「そんな事言わないでください!確かに元カノの名前出したのは悪いと思います。葉月さんの返事が嬉しかったです。」
「ふふ、冗談だよ。その彼女さんが一番なのはわかってるから。私も一番は星野君だから。でもだからって大事にはするよ。それでもいい?」
「いいです。こんなに話があって一緒に居て楽しい人、葉月さん以外で会った事ありません。こんな僕ですが、よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
心地よい風が、私達の間をすり抜けて行った。