仕事帰り、雨の中私は今日も割引になったスーパーの惣菜を手にアパートに向かう。
 雨が傘に当たる音を聴くのが苦手だ。昔から、雨が降るたびなぜだか死を感じてしまう。
たかが、雨だと分かっているのに体が勝手に身構えて心が身勝手に涙を流す。
そんな雨が私は嫌いだ。
 急いでいる時こそ、信号にひかかるものだなとため息を漏らしながら立ち止まっていると、隣に気配を感じて覗くと男性が立っていた。
 男性は私と目が合うと、にっこりと微笑み。

和泉愛海(いずみまなみ)さん、お迎えに上がりました。」

突然のことで、頭が回らない。
見知らぬ男性が私の名前を呼んでいる。

「あなた、もうすぐこの世界から存在ごと消されますよ。」

私が何も返事を返していないのに、話を続けようとする。
それも、訳の分からない言葉ばかりが鼓膜を通り抜けていく。

『失礼します。』

出た言葉がそれだけだった。信号がいつまでも赤なので、私はスーパーの方へと逃げるように走り出す。
 すると、道路を走る車が突然止まった。急ブレーキを踏んだわけでもなく、ごく自然に静止画のように。
少し先にいる、缶ビールを片手に酔っ払っているサラリーマンも暗いからよく見えないが固まっているように見える。
 まるで時間が止まっているかのようだ。
雨がいつの間にか、上がっている。時と一緒に雨も止んだというのか。

『どうなってるの?』

戸惑う私に、先程の男性が追いかけてきて私の正面に立つと全く動じずに何も変わらない表情で私の疑問に答えを放つ。

「時間を止めました。和泉さん、逃げようとするから。
あと、雨苦手でしょう?」

『どうしてそのことを知って。え、時間を止める?
雨が止んだのもあなたが何かしたって言うんですか。』

「はい、怯えているように見えたのでお詫びに雨を止めました。時間を止めれば、話を聞いてくれるかと思いまして。
でも、対象者は動けるのなら止めても意味なかったですね。
驚かせてしまいすみません。」

『えっと、色々気持ち悪くて怖いですけどひとまず、私の知り合いか何かですか。名前、誰から聞いたんですか。』

「知り合いではないですね。
ただ、厄介なことが起きまして先程も少し言いましたが、和泉さんの存在が年内をもって消えます。というより、存在すること自体が物理的に出来なくなります。」

なにか訳の分からない、異次元なワードをはかれて私の脳内はキャパオーバーし、疲れも睡眠不足もあったのかも知れないがその場に倒れ込んで意識を失った。