私──アンナ・リバールーンはゾートマルクの街の死霊病患者を治癒するため、調査を行った。
そして昼、内周地域の住人の正気がない状態──死霊病に関して私は普段、彼らが飲んでいる赤ワインに問題があるとにらんだ。
ただし、それは半分しか解決していないことに気付いてしまった。
ウォルターがルバイヤ村に旅立った翌日の朝、私とパメラは宿屋の一室で考えていた。
「死霊病……つまり人の無気力状態に関してはある程度は分かったけど、グール化についてはほぼ何も分かっていないわ」
私はため息をついてパメラにつぶやくように言った。
「どういうこと? 死霊病は解明できたと言っていたじゃないか」
パメラは驚いた顔で私に聞いてきたので、私は答えた。
「よく考えたら、それは半分だけ解決できたということ。死霊病とグール化は、分けて考えなければならない別の病気だと気付いたわ」
「え? そ、そういう考え方もあるか。っていうか、何で赤ワインが死霊病の原因なんだよ。あたしはまだそれを知らないぞ。早く教えろよ」
「それはまだ言えない」
私はきっぱり言った。
死霊病とグール化《か》は分けて考えなければならないが、実際に起きている問題は同時に出ている。
だからどちらも答えが出ないと、真の正解に辿り着かない気がしたのだ。
「グール化の真相が分かってから、あなたにも皆にも話すわ」
「ったく……。あんたは何でも一人で抱え込むクセがあるからなあ」
パメラがそう不満を口にしたとき……。
「おいアンナ、パメラ! 起きてるか。す、凄いぞ!」
ジャッカルの声が部屋の外から響いた。
「ウォルターが戻ってきた! 白魔法医師をたくさん連れてきているぞ。早く外に来い!」
私とパメラは顔を見合わせた。
◇ ◇ ◇
私たちは街の入り口に急いだ。
凄い!
ウォルターと六名の白魔法医師たちが街の入り口付近に立っている!
「ほほう、ウォルターはやりましたね」
私たちと一緒に来ていたラーバスはうなった。
「おお、何と。グラモネ様がいらっしゃる! あの方は元白魔法医師長ですよ」
「ラーバス、久しぶりだな。元気かね?」
グラモネという老人はラーバスに挨拶した。
ラーバスはグラモネ老人に向かって、深く頭を垂れている。
二人は知り合いか……。
「ちっ、何だ。本当に白魔法医師を連れてきちまいやがったのか。ゾートマルクの医師は俺だけで十分だっていうのに!」
医師のゴランボス氏は舌打ちして不満をぶちまけた。
「あなたがアンナさんか。聖女だと聞いている」
グラモネ老人は私に近づいてきて言った。
「私はグライモス・グラモネだ。ウォルターから君が様々な人の病気を治癒してきたと聞いている。会えて嬉しいよ」
「ど、どうもありがとうございます。光栄です」
私はそう答えつつ、ちらりとウォルターを見た。
ん……? ええっ?
「ウォルター! 何だか体が輝いて見えるけど……」
「え? そ、そうか?」
ウォルターは恥ずかしそうにした。
私はハッと気づいた。
「あっ、そうか。聖騎士になれたのね?」
「ま、まあそうらしい。実感はそれほどないのだが。これから修業次第で真の聖騎士になれそうだ。──そういえばアンナ、このようなものを手に入れた。大変危険な薬剤だが……」
ウォルターは袋から瓶を取り出した。
中には緑色のドロドロの液体が入っている。
「こ、これは!」
「これがグール化の原因、『魔族の薬剤』という薬剤だそうだ。グール化はこれを注射することによって発現する。白魔法医師たちの研究で分かったことだそうだ」
「ウォルター! すごいわ!」
私は思わず声を上げた。
これで死霊病とグール化……二つの病気の原因が分かったことになる。
しかしこの魔族の薬剤の重大な謎について、私はまだその時点では気づいてなかったのだが……。
「では、誰かに頼みたいことがあるのだけど」
私は周囲を見回し、看護師のポレッタを見やった。
「ポレッタ、申し訳ないけど頼みがあるの」
「何でしょう? 私が力になれることだったら、何でも言ってください」
「──それは良かったわ。私は死霊病とグール化など、このゾートマルクの街全体にはびこる問題について、人々に説明したいのです」
私は川の外周地域の一番大きな建物を指差した。
あれはどうやらこの街の公民館らしい。
「あそこの公民館の会議室を借りて、人を呼べないかしら。それから新品の赤ワインを、外周地域と内周地域のものを二種類手に入れたいのだけど」
「はい、どちらもお任せください」
ポレッタは静かにうなずいた。
ポレッタならこの街に長く住んでいて顔が広いし、看護師として信頼されているから適任だと思ったのだ。
「え? 何だ? ワインが二種類? 初耳だぞ!」
パメラは目を丸くして私を見た。
──私はこれから皆に、死霊病とグール化について、私の独自の調査結果を話すつもりだ。
◇ ◇ ◇
三時間後、私は自警団の若者たちに、外周地域の公民館の会議室へと案内された。
ポレッタがうまく手配してくれたのだ。
私が会議室の檀上に立つと、すでに会議室の椅子にはウォルター、ジャッカル、パメラ、ラーバス、ポレッタ、ゴランボス氏が座っていた。
そして外周地域の住人数名、グラモネ様、ルバイヤ村の白魔法医師たち五名もぞろぞろと会議室に入ってきた。
「くだらん、まったくもってくだらん! 聖女などというまじない師が、死霊病とグール化を解明しただと?」
ゴランボス氏は腕組みして、ギシリと椅子にもたれかかった。
「しかも俺に講義をたれるだって? まったく偉そうに!」
私はゴランボス氏に、「講義ではなく調査報告です」と言った。
「これより死霊病と人のグール化の解き明かしをいたします!」
私は会議室にいる人々に宣言をした。
そして昼、内周地域の住人の正気がない状態──死霊病に関して私は普段、彼らが飲んでいる赤ワインに問題があるとにらんだ。
ただし、それは半分しか解決していないことに気付いてしまった。
ウォルターがルバイヤ村に旅立った翌日の朝、私とパメラは宿屋の一室で考えていた。
「死霊病……つまり人の無気力状態に関してはある程度は分かったけど、グール化についてはほぼ何も分かっていないわ」
私はため息をついてパメラにつぶやくように言った。
「どういうこと? 死霊病は解明できたと言っていたじゃないか」
パメラは驚いた顔で私に聞いてきたので、私は答えた。
「よく考えたら、それは半分だけ解決できたということ。死霊病とグール化は、分けて考えなければならない別の病気だと気付いたわ」
「え? そ、そういう考え方もあるか。っていうか、何で赤ワインが死霊病の原因なんだよ。あたしはまだそれを知らないぞ。早く教えろよ」
「それはまだ言えない」
私はきっぱり言った。
死霊病とグール化《か》は分けて考えなければならないが、実際に起きている問題は同時に出ている。
だからどちらも答えが出ないと、真の正解に辿り着かない気がしたのだ。
「グール化の真相が分かってから、あなたにも皆にも話すわ」
「ったく……。あんたは何でも一人で抱え込むクセがあるからなあ」
パメラがそう不満を口にしたとき……。
「おいアンナ、パメラ! 起きてるか。す、凄いぞ!」
ジャッカルの声が部屋の外から響いた。
「ウォルターが戻ってきた! 白魔法医師をたくさん連れてきているぞ。早く外に来い!」
私とパメラは顔を見合わせた。
◇ ◇ ◇
私たちは街の入り口に急いだ。
凄い!
ウォルターと六名の白魔法医師たちが街の入り口付近に立っている!
「ほほう、ウォルターはやりましたね」
私たちと一緒に来ていたラーバスはうなった。
「おお、何と。グラモネ様がいらっしゃる! あの方は元白魔法医師長ですよ」
「ラーバス、久しぶりだな。元気かね?」
グラモネという老人はラーバスに挨拶した。
ラーバスはグラモネ老人に向かって、深く頭を垂れている。
二人は知り合いか……。
「ちっ、何だ。本当に白魔法医師を連れてきちまいやがったのか。ゾートマルクの医師は俺だけで十分だっていうのに!」
医師のゴランボス氏は舌打ちして不満をぶちまけた。
「あなたがアンナさんか。聖女だと聞いている」
グラモネ老人は私に近づいてきて言った。
「私はグライモス・グラモネだ。ウォルターから君が様々な人の病気を治癒してきたと聞いている。会えて嬉しいよ」
「ど、どうもありがとうございます。光栄です」
私はそう答えつつ、ちらりとウォルターを見た。
ん……? ええっ?
「ウォルター! 何だか体が輝いて見えるけど……」
「え? そ、そうか?」
ウォルターは恥ずかしそうにした。
私はハッと気づいた。
「あっ、そうか。聖騎士になれたのね?」
「ま、まあそうらしい。実感はそれほどないのだが。これから修業次第で真の聖騎士になれそうだ。──そういえばアンナ、このようなものを手に入れた。大変危険な薬剤だが……」
ウォルターは袋から瓶を取り出した。
中には緑色のドロドロの液体が入っている。
「こ、これは!」
「これがグール化の原因、『魔族の薬剤』という薬剤だそうだ。グール化はこれを注射することによって発現する。白魔法医師たちの研究で分かったことだそうだ」
「ウォルター! すごいわ!」
私は思わず声を上げた。
これで死霊病とグール化……二つの病気の原因が分かったことになる。
しかしこの魔族の薬剤の重大な謎について、私はまだその時点では気づいてなかったのだが……。
「では、誰かに頼みたいことがあるのだけど」
私は周囲を見回し、看護師のポレッタを見やった。
「ポレッタ、申し訳ないけど頼みがあるの」
「何でしょう? 私が力になれることだったら、何でも言ってください」
「──それは良かったわ。私は死霊病とグール化など、このゾートマルクの街全体にはびこる問題について、人々に説明したいのです」
私は川の外周地域の一番大きな建物を指差した。
あれはどうやらこの街の公民館らしい。
「あそこの公民館の会議室を借りて、人を呼べないかしら。それから新品の赤ワインを、外周地域と内周地域のものを二種類手に入れたいのだけど」
「はい、どちらもお任せください」
ポレッタは静かにうなずいた。
ポレッタならこの街に長く住んでいて顔が広いし、看護師として信頼されているから適任だと思ったのだ。
「え? 何だ? ワインが二種類? 初耳だぞ!」
パメラは目を丸くして私を見た。
──私はこれから皆に、死霊病とグール化について、私の独自の調査結果を話すつもりだ。
◇ ◇ ◇
三時間後、私は自警団の若者たちに、外周地域の公民館の会議室へと案内された。
ポレッタがうまく手配してくれたのだ。
私が会議室の檀上に立つと、すでに会議室の椅子にはウォルター、ジャッカル、パメラ、ラーバス、ポレッタ、ゴランボス氏が座っていた。
そして外周地域の住人数名、グラモネ様、ルバイヤ村の白魔法医師たち五名もぞろぞろと会議室に入ってきた。
「くだらん、まったくもってくだらん! 聖女などというまじない師が、死霊病とグール化を解明しただと?」
ゴランボス氏は腕組みして、ギシリと椅子にもたれかかった。
「しかも俺に講義をたれるだって? まったく偉そうに!」
私はゴランボス氏に、「講義ではなく調査報告です」と言った。
「これより死霊病と人のグール化の解き明かしをいたします!」
私は会議室にいる人々に宣言をした。