♢半妖と妖怪の父と
エイトが珍しく、たまの休みにでかけないかって誘ってきた。家族としての絆や結束を深めたいとか言っていたけど、家族と言っても二人しかいないじゃん。チーム半妖のみんなには休みを与えたらしく、私とエイトの二人きりで出かけることになった。
私は高校三年で受験生だけど、成績は上位なので、内部推薦が確実だ。だから、受験生とはいってもそんなに勉強しないと大学に行けないという焦りはなかった。そして、エイトと一緒の時間を共有したいという独占欲に似た気持ちになる。一緒にいて楽しいし、もっと一緒にいたい。そんなことははじめてだ。とはいっても、母のお墓参りだ。納骨を済ませてから、郊外の墓地に来るのは二回目だろうか。なかなか、歩いていくことができる距離じゃないので、ここには毎日のようには来ることができない。
エイトの外車がきらきら光っていた。太陽の光に反射され、コーティングされた車のボディーが角度によって違う色に見えるような気がする。それくらい光沢すらも素敵な車で、エイトもいつもの部屋着のスウェットやジャージではないというあたりが、かっこよさを際立たせる。とはいっても、普通のジーンズにTシャツという格好でも充分この人の場合、目立つような気がする。半妖のせいだろうか? オーラとか存在感が普通の人と少し違うような気がする。
「実は、今日、親父と会う約束をしているんだ」
「どこで?」
「墓場の近くにある雑木林にいるという手紙を受け取ったんだ」
「何年ぶりなの?」
「俺が覚えている記憶に親父はいない。だから、会っていても赤ん坊のころだったのかもしれないな」
「写真はみたことあるの?」
「おふくろに見せてもらった写真には写っていたが、正直人間と見た目は変わらないんだよな。一人で会うのも緊張するし、今は家族となったナナと一緒に会おうと思ってな」
「お父さん、何か話したいことがあるのかな?」
「親父には、どういうつもりで俺を作ったのか聞いてみたかったんだ。おふくろ一人に育児を押し付けてどこかにいっちまったんだからな。ようやく問い詰められるってもんよ」
「緊張しているんだね。エイトの顔がさっきから笑っていないから」
「うるせぇ」
強がっているエイトだけれど、本当は怯えているような不安な気持ちが伝わってくる。それは、彼と父との距離がそうさせているんだろう。なぜ今まで連絡をよこさなかったお父さんが今になって? 半妖のさだめを辞めることができれば、エイトの肩の荷は下りるのに。
怨みというのは決していい結果を生まないことをエイトはよく知っている。相手を怨み、その怨念を晴らしても、根本的な解決にはならない。依頼人の自己満足だ。その人の過去がまっさらに清算されるわけではない。それを一番身近に感じているエイトは怨みを晴らすことのむなしさを一番感じているのではないだろうか? 怨んだ人の元へ怨念は自分に返ってくると聞いた事がある。それは、自分が不幸になること、それでも怨むことを辞めない人間。そのはざまにエイトたち半妖はいる。
人間の嫌な部分を見る仕事。好きで半妖になって生まれたわけではないのに、人間たちの終わらない怨みと向き合うことをさだめとされた彼はとてもかわいそうな立場にあると思う。そうしないと、ここで生活ができないなんて、半妖こそが怨みを持つ可能性はある。妖怪と人間の間に子供を作った親に対して怨みを持っているものは多いだろう。一生懸命育ててくれなかった親に対してはその怨念は強いだろう。でも、自分の怨みを晴らすことはできない半妖。なんてかわいそうなのだろう。
私は、エイトのことをぎゅっと抱きしめたくなった。それは、恋愛ではない愛情が芽生えている、そんな気がする。一見スマートでちゃらっとした見た目の彼が背負う運命はあまりにも重すぎる。
「自己責任って言葉があるけど、怨みを持たなければいけなくなる経緯には自己責任もかなりあることが多い。結果、悪くなったのは他人のせいだと全部他人が悪いという話に切り替える人間も多いんだ。親父は自己責任を果たさずいなくなっちまった。その経緯をちゃんと聞きたいんだ」
「私がいてもいいの?」
「ナナは家族なんだ。一緒に来てほしい。そろそろ、親父との約束の時間だな」
そう言いながら、カーブを曲がり、運転の速度を上げる。山の方へ向かうので、坂道にさしかかると、アクセルを踏み込む。やっぱり運転する男の人の姿はかっこいいような気がする。2割か3割増しのかっこよさだと実感する。さらさらした金色の髪が、太陽に当たると黄金色の輝きを放つような気がする。
私がエイトを独り占めしている快感が少しばかり心地よかった。たった一人の家族と認められている。そして、実のお父さんに会う。エイトは、どれほどの緊張をしているのだろう? エイトにとって他人も同じだろう。だから、一人だと勇気が出ないというのもあるかもしれない。彼を支えてあげたい、そんなことを勝手に思ってしまう自分がいた。
エイトが珍しく、たまの休みにでかけないかって誘ってきた。家族としての絆や結束を深めたいとか言っていたけど、家族と言っても二人しかいないじゃん。チーム半妖のみんなには休みを与えたらしく、私とエイトの二人きりで出かけることになった。
私は高校三年で受験生だけど、成績は上位なので、内部推薦が確実だ。だから、受験生とはいってもそんなに勉強しないと大学に行けないという焦りはなかった。そして、エイトと一緒の時間を共有したいという独占欲に似た気持ちになる。一緒にいて楽しいし、もっと一緒にいたい。そんなことははじめてだ。とはいっても、母のお墓参りだ。納骨を済ませてから、郊外の墓地に来るのは二回目だろうか。なかなか、歩いていくことができる距離じゃないので、ここには毎日のようには来ることができない。
エイトの外車がきらきら光っていた。太陽の光に反射され、コーティングされた車のボディーが角度によって違う色に見えるような気がする。それくらい光沢すらも素敵な車で、エイトもいつもの部屋着のスウェットやジャージではないというあたりが、かっこよさを際立たせる。とはいっても、普通のジーンズにTシャツという格好でも充分この人の場合、目立つような気がする。半妖のせいだろうか? オーラとか存在感が普通の人と少し違うような気がする。
「実は、今日、親父と会う約束をしているんだ」
「どこで?」
「墓場の近くにある雑木林にいるという手紙を受け取ったんだ」
「何年ぶりなの?」
「俺が覚えている記憶に親父はいない。だから、会っていても赤ん坊のころだったのかもしれないな」
「写真はみたことあるの?」
「おふくろに見せてもらった写真には写っていたが、正直人間と見た目は変わらないんだよな。一人で会うのも緊張するし、今は家族となったナナと一緒に会おうと思ってな」
「お父さん、何か話したいことがあるのかな?」
「親父には、どういうつもりで俺を作ったのか聞いてみたかったんだ。おふくろ一人に育児を押し付けてどこかにいっちまったんだからな。ようやく問い詰められるってもんよ」
「緊張しているんだね。エイトの顔がさっきから笑っていないから」
「うるせぇ」
強がっているエイトだけれど、本当は怯えているような不安な気持ちが伝わってくる。それは、彼と父との距離がそうさせているんだろう。なぜ今まで連絡をよこさなかったお父さんが今になって? 半妖のさだめを辞めることができれば、エイトの肩の荷は下りるのに。
怨みというのは決していい結果を生まないことをエイトはよく知っている。相手を怨み、その怨念を晴らしても、根本的な解決にはならない。依頼人の自己満足だ。その人の過去がまっさらに清算されるわけではない。それを一番身近に感じているエイトは怨みを晴らすことのむなしさを一番感じているのではないだろうか? 怨んだ人の元へ怨念は自分に返ってくると聞いた事がある。それは、自分が不幸になること、それでも怨むことを辞めない人間。そのはざまにエイトたち半妖はいる。
人間の嫌な部分を見る仕事。好きで半妖になって生まれたわけではないのに、人間たちの終わらない怨みと向き合うことをさだめとされた彼はとてもかわいそうな立場にあると思う。そうしないと、ここで生活ができないなんて、半妖こそが怨みを持つ可能性はある。妖怪と人間の間に子供を作った親に対して怨みを持っているものは多いだろう。一生懸命育ててくれなかった親に対してはその怨念は強いだろう。でも、自分の怨みを晴らすことはできない半妖。なんてかわいそうなのだろう。
私は、エイトのことをぎゅっと抱きしめたくなった。それは、恋愛ではない愛情が芽生えている、そんな気がする。一見スマートでちゃらっとした見た目の彼が背負う運命はあまりにも重すぎる。
「自己責任って言葉があるけど、怨みを持たなければいけなくなる経緯には自己責任もかなりあることが多い。結果、悪くなったのは他人のせいだと全部他人が悪いという話に切り替える人間も多いんだ。親父は自己責任を果たさずいなくなっちまった。その経緯をちゃんと聞きたいんだ」
「私がいてもいいの?」
「ナナは家族なんだ。一緒に来てほしい。そろそろ、親父との約束の時間だな」
そう言いながら、カーブを曲がり、運転の速度を上げる。山の方へ向かうので、坂道にさしかかると、アクセルを踏み込む。やっぱり運転する男の人の姿はかっこいいような気がする。2割か3割増しのかっこよさだと実感する。さらさらした金色の髪が、太陽に当たると黄金色の輝きを放つような気がする。
私がエイトを独り占めしている快感が少しばかり心地よかった。たった一人の家族と認められている。そして、実のお父さんに会う。エイトは、どれほどの緊張をしているのだろう? エイトにとって他人も同じだろう。だから、一人だと勇気が出ないというのもあるかもしれない。彼を支えてあげたい、そんなことを勝手に思ってしまう自分がいた。