「よくぞ、来てくれた! 私はゲルダの父──ラッセル・プリシッチです」
ラッセルさんは、僕らを礼拝堂の中に案内してくれた。
礼拝堂では少女が車椅子に乗って、祈っている。
「ゲルダ! お客さんが来てくださったぞ」
ラッセルさんが、少女に声をかけた。
すると少女は、器用に車椅子をその場で回転させた。
ラッセルさんは静かに言った。
「私は一年前、商人だった。しかし、娘のために聖職者になったんだよ」
すると少女──ゲルダが口を開いた。
「あなた方は……? 私はゲルダです」
「ダナンです。久しぶりだね」
ゲルダは前を向き、僕を見上げた。
ゲルダは、金髪の長い髪の毛の少女だ。とても美しい女の子だった。
父親と同様に、聖職者の服装をしている。
ラッセルさんは、ゲルダに僕らのことを色々、説明してくれた。
「ああ、なんてこと」
ゲルダは僕の左手の松葉杖を見て、言った。
「私をトードス草原で助けてくれようとした方が、ここに来てくださるなんて。神に感謝いたします」
ゲルダはそう言い、続けた。
「ジャイアント・オーガに襲われたときは、ダナンさんが助けてくださったので、逃げ切れたのです。しかしその後、急に出現した黒い魔導士の魔法を受けたのです。そして足が効かなくなってしまったの」
「黒い魔導士……? それは何者なんだ?」
僕が聞くと、ゲルダは答えた。
「後で聞いた話では、大魔導士グロードジャングスという男だそうです」
「……その人! 知ってるわ」
アイリーンが声を上げた。
「闇の魔導師といわれる、危険人物よ。その人に攻撃されたのね」
「はい。その話はあとでするとして……私はワクワクしているのです」
ゲルダは輝くような笑顔を見せた。
「皆さん剣士でしょう? お手合わせを願えますか?」
ええっ?
僕らは顔を見合わせた。
「嬢ちゃん、バカ言っちゃいけねえよ」
ランダースが、彼にとっては少しだけ丁寧な口調で言った。
「あんたは車椅子だ。手合わせ……練習試合だろ? そんなこと、やめておけ。危険だ」
「あら、私は結構強いんですのよ」
ゲルダは上品に、クスクス笑った。ラッセルさんもニコニコ笑っている。
「怪我防止のために、弱い魔力に設定した、魔力模擬剣を用意してあります」
ラッセルさんは言った。
「さっそく練習試合をしましょう。どなたか、娘と対戦したい方はいらっしゃいますか?」
パトリシアが前に進み出た。
「私がお相手しよう、お嬢さん」
「まあ、何とカッコいい殿方」
ゲルダはパトリシアを見て、笑って言った。僕らは吹き出しそうになった。
「私は女だが!」
パトリシアは顔を真っ赤にして、頬をふくらませて言った。
「あ、あら……パトリシア様、これは失礼いたしました」
ゲルダもちょっと顔を赤らめている。パトリシアは、まだむくれながら言った。
「いや、べ、別にいいが」
「で、では、こちらへ」
ゲルダは礼拝堂の横の扉のほうへ、車椅子を移動させた。
◇ ◇ ◇
そこは、礼拝堂の敷地内の、大きな草原となっていた。
ここなら、練習試合ができそうだが……。
パトリシアはラッセルさんの持ってきた魔力模擬剣を手にすると、車椅子のゲルダを見やった。
「ゲルダ、いいのか?」
「はい」
ん?
ゲルダは車椅子に座ったまま、念じ始めた。
すると、車椅子の後ろに備えつけられていた魔力模擬剣が浮かび上がり、空中で止まった。
「なんだありゃ? いや、魔力で武器を浮かび上がらせるのは、結構見るが……?」
ランダースが首を傾げた。
その時だ。
ビュン
そんな音とともに、ゲルダの魔力模擬剣が、縦回転しながらパトリシアのほうに飛びかかってきた。
「う、うおおっ」
ガキイッ
パトリシアは、ゲルダの魔力模擬剣を受ける。
「ゲルダは、念力で魔力模擬剣を操作しているのです」
ラッセルさんは説明した。
魔力模擬剣を念力で操作? そんなことが可能なのか?
ガスッ ガシッ ガシイッ
魔力模擬剣が、空中に浮かんだまま、パトリシアを攻撃し続ける。
「こ、こんな……! こんなバカな」
パトリシアがうめく。
まるで透明人間が、パトリシアと戦っているように見える!
シュ
ゲルダの魔力模擬剣が、パトリシアの頬をかすめたとき──。
「もらった!」
パトリシアは猛然と、ゲルダに向かって走り始めた。
ゲルダは無表情だ。
すると取り残されていた魔力模擬剣が、瞬間移動し──。
パトリシアの前に、一瞬で現れた。
「う、そだ」
ゲルダの魔力模擬剣が、ゲルダを攻撃する!
シュ
「だが! スキがあるぞ、ゲルダッ」
パトリシアは間一髪で、斬撃をかわし──。
ガキイッ
空中の魔力模擬剣を、自分の魔力模擬剣ではね飛ばした!
「何ですって? まさか!」
驚きの声を上げたのは、ゲルダだ。
タッ
パトリシアは大きくジャンプして、魔力模擬剣を振りかぶる!
こ、これはパトリシアの勝ちか?
カンッ
パトリシアの魔力模擬剣は、空しく地面に衝突。
ゲルダはその攻撃を見切ったように、車椅子を後ろに移動させて、かわしていた。
し、しかし、ゲルダの魔力模擬剣は、草原の向こうのほうにはね飛ばされているぞ。
念力は届きそうにないのでは?
ギュン
しかし! そんな音とともに、もう一つの魔力模擬剣が、空中に現われた。
「えっ?」
パトリシアがうめく。
そ、そんな? ゲルダはもう一つ、魔力模擬剣を隠し持っていた!
ルール上は、二刀流は反則ではない!
「う、うおおっ! こ、こんな攻撃は初めてだ!」
パトリシアは叫んで、それをかわそうと横に素早く移動しようとするが……!
バシュ
すでに、パトリシアの左肩が斬撃されていた。
「一本! それまで。ゲルダの勝ちだ!」
ラッセルさんが声を上げる。
僕たちはこの戦いを、呆然として見つめていた。
ゲルダは魔力模擬剣に、手を触れていない。
しかし、パトリシアに完全勝利した。
念力で、二つの魔力模擬剣を操作──。
そして瞬間移動。
見たことのない剣術に、僕らは声が出なかった。
パトリシアは顔を真っ青にして、左肩を押さえていた。
ラッセルさんは、僕らを礼拝堂の中に案内してくれた。
礼拝堂では少女が車椅子に乗って、祈っている。
「ゲルダ! お客さんが来てくださったぞ」
ラッセルさんが、少女に声をかけた。
すると少女は、器用に車椅子をその場で回転させた。
ラッセルさんは静かに言った。
「私は一年前、商人だった。しかし、娘のために聖職者になったんだよ」
すると少女──ゲルダが口を開いた。
「あなた方は……? 私はゲルダです」
「ダナンです。久しぶりだね」
ゲルダは前を向き、僕を見上げた。
ゲルダは、金髪の長い髪の毛の少女だ。とても美しい女の子だった。
父親と同様に、聖職者の服装をしている。
ラッセルさんは、ゲルダに僕らのことを色々、説明してくれた。
「ああ、なんてこと」
ゲルダは僕の左手の松葉杖を見て、言った。
「私をトードス草原で助けてくれようとした方が、ここに来てくださるなんて。神に感謝いたします」
ゲルダはそう言い、続けた。
「ジャイアント・オーガに襲われたときは、ダナンさんが助けてくださったので、逃げ切れたのです。しかしその後、急に出現した黒い魔導士の魔法を受けたのです。そして足が効かなくなってしまったの」
「黒い魔導士……? それは何者なんだ?」
僕が聞くと、ゲルダは答えた。
「後で聞いた話では、大魔導士グロードジャングスという男だそうです」
「……その人! 知ってるわ」
アイリーンが声を上げた。
「闇の魔導師といわれる、危険人物よ。その人に攻撃されたのね」
「はい。その話はあとでするとして……私はワクワクしているのです」
ゲルダは輝くような笑顔を見せた。
「皆さん剣士でしょう? お手合わせを願えますか?」
ええっ?
僕らは顔を見合わせた。
「嬢ちゃん、バカ言っちゃいけねえよ」
ランダースが、彼にとっては少しだけ丁寧な口調で言った。
「あんたは車椅子だ。手合わせ……練習試合だろ? そんなこと、やめておけ。危険だ」
「あら、私は結構強いんですのよ」
ゲルダは上品に、クスクス笑った。ラッセルさんもニコニコ笑っている。
「怪我防止のために、弱い魔力に設定した、魔力模擬剣を用意してあります」
ラッセルさんは言った。
「さっそく練習試合をしましょう。どなたか、娘と対戦したい方はいらっしゃいますか?」
パトリシアが前に進み出た。
「私がお相手しよう、お嬢さん」
「まあ、何とカッコいい殿方」
ゲルダはパトリシアを見て、笑って言った。僕らは吹き出しそうになった。
「私は女だが!」
パトリシアは顔を真っ赤にして、頬をふくらませて言った。
「あ、あら……パトリシア様、これは失礼いたしました」
ゲルダもちょっと顔を赤らめている。パトリシアは、まだむくれながら言った。
「いや、べ、別にいいが」
「で、では、こちらへ」
ゲルダは礼拝堂の横の扉のほうへ、車椅子を移動させた。
◇ ◇ ◇
そこは、礼拝堂の敷地内の、大きな草原となっていた。
ここなら、練習試合ができそうだが……。
パトリシアはラッセルさんの持ってきた魔力模擬剣を手にすると、車椅子のゲルダを見やった。
「ゲルダ、いいのか?」
「はい」
ん?
ゲルダは車椅子に座ったまま、念じ始めた。
すると、車椅子の後ろに備えつけられていた魔力模擬剣が浮かび上がり、空中で止まった。
「なんだありゃ? いや、魔力で武器を浮かび上がらせるのは、結構見るが……?」
ランダースが首を傾げた。
その時だ。
ビュン
そんな音とともに、ゲルダの魔力模擬剣が、縦回転しながらパトリシアのほうに飛びかかってきた。
「う、うおおっ」
ガキイッ
パトリシアは、ゲルダの魔力模擬剣を受ける。
「ゲルダは、念力で魔力模擬剣を操作しているのです」
ラッセルさんは説明した。
魔力模擬剣を念力で操作? そんなことが可能なのか?
ガスッ ガシッ ガシイッ
魔力模擬剣が、空中に浮かんだまま、パトリシアを攻撃し続ける。
「こ、こんな……! こんなバカな」
パトリシアがうめく。
まるで透明人間が、パトリシアと戦っているように見える!
シュ
ゲルダの魔力模擬剣が、パトリシアの頬をかすめたとき──。
「もらった!」
パトリシアは猛然と、ゲルダに向かって走り始めた。
ゲルダは無表情だ。
すると取り残されていた魔力模擬剣が、瞬間移動し──。
パトリシアの前に、一瞬で現れた。
「う、そだ」
ゲルダの魔力模擬剣が、ゲルダを攻撃する!
シュ
「だが! スキがあるぞ、ゲルダッ」
パトリシアは間一髪で、斬撃をかわし──。
ガキイッ
空中の魔力模擬剣を、自分の魔力模擬剣ではね飛ばした!
「何ですって? まさか!」
驚きの声を上げたのは、ゲルダだ。
タッ
パトリシアは大きくジャンプして、魔力模擬剣を振りかぶる!
こ、これはパトリシアの勝ちか?
カンッ
パトリシアの魔力模擬剣は、空しく地面に衝突。
ゲルダはその攻撃を見切ったように、車椅子を後ろに移動させて、かわしていた。
し、しかし、ゲルダの魔力模擬剣は、草原の向こうのほうにはね飛ばされているぞ。
念力は届きそうにないのでは?
ギュン
しかし! そんな音とともに、もう一つの魔力模擬剣が、空中に現われた。
「えっ?」
パトリシアがうめく。
そ、そんな? ゲルダはもう一つ、魔力模擬剣を隠し持っていた!
ルール上は、二刀流は反則ではない!
「う、うおおっ! こ、こんな攻撃は初めてだ!」
パトリシアは叫んで、それをかわそうと横に素早く移動しようとするが……!
バシュ
すでに、パトリシアの左肩が斬撃されていた。
「一本! それまで。ゲルダの勝ちだ!」
ラッセルさんが声を上げる。
僕たちはこの戦いを、呆然として見つめていた。
ゲルダは魔力模擬剣に、手を触れていない。
しかし、パトリシアに完全勝利した。
念力で、二つの魔力模擬剣を操作──。
そして瞬間移動。
見たことのない剣術に、僕らは声が出なかった。
パトリシアは顔を真っ青にして、左肩を押さえていた。