飲み屋の「獅子王亭」の窓に、強い雨が叩きつけられていた。
森は雨風に吹かれ、嘆くような音が聞こえる。
「てめぇは、もうこの魔物討伐隊から出て行け!」
幼なじみの勇者、ドルガー・マックスは僕に向かって声を荒げた。
飲み屋には僕たち以外、客は誰もいなかった。この大雨の中、こんなさびれた飲み屋に来る客などいない。
ただ、店主がグラスを布巾で拭いていた。
「ま、待ってくれ。僕にはお金がないんだ。今、やめさせられると困る。きっとこれから先、仕事がないだろう」
僕──ダナン・アンテルドは声を上げた。
僕は十六歳の見習い魔法剣士、ダナンだ。ついさっきまで──魔物討伐隊「ウルスの盾」所属だった。
僕は士官学校の中等部を卒業し、高等部に進学せず、そのまま魔物討伐の世界に飛び込んでしまった。もちろん、ドルガーも、他の仲間も高等部に進学していないが。
「金がない? お前の事情なんて知らねーよ!」
ドルガーは僕をジロリと見て言った。僕の座っている椅子の横には、一本の木の松葉杖と、愛用の魔法剣「グラディウス」が立てかけてある。そして、僕の右足には包帯が痛々しく巻かれていた。
「悪いけどよ、まともに動けねぇヤツなんて、魔物討伐隊にいらねーんだよ」
ドルガーはチッと舌打ちする。
そう、僕は見習い魔法剣士だが、右足が不自由だ。一ヶ月前、右足を大怪我したのだ。
左足は大丈夫だが、右足はマヒ状態。右ヒザが曲がらない。医者には一生、完治しないと言われた。
これからずっと、片松葉……つまり、左脇に松葉杖を一本抱えて歩く生活が続くのだ……。
「なにブツブツ言ってんだよ!」
バキイッ
ドルガーは僕の頬をなぐりつけた。
「ああ? 俺らは慈善団体じゃねーんだよ。役に立たないヤツがいたらクビ。社会ってそんなもんだろ」
ドスッ
武闘家のバルドン・ロードスが倒れた僕の腹を蹴る。
「う、うげえっ!」
「おらよ!」
ミシッ
ドルガーは、僕の顔を踏みつけた。な、なぜ、ここまでするんだよ? 僕ら、幼なじみじゃなかったの?
「だいたい、俺、お前のこと、ムカついてたんだわ」
「な、なぜだよ」
「弱すぎてイライラしてたんだよ! しかも性格が暗いときてる。しかもなんかキモい。それはある意味才能だがな。マイナスの意味で」
「ウルスの盾」には三年間所属していたけど、皆と仲良くやっていけてるように思えた。でも、皆、僕のこと「クソ弱い」「暗い」「ムカつく」と思ってたの? あ、あと「キモい」か。
最悪の評価だネ(涙)!
「そもそも、お前! さっきも言ったが、怪我する前だって、お前は弱すぎた! 魔法剣士じゃなくて、ほぼ荷物持ちをやってたろうが」
ドルガーが続けて怒鳴る。
そもそも、僕は見習い魔法剣士。言うなればメッチャ弱い。もんのすごく弱い。この大怪我をする前も、雑魚魔物のスライムとゴブリンに追いかけ回された。
剣術? 力も弱いし、雑魚敵のスライムにすら大苦戦する。
属性魔法剣? 火の属性魔法剣しか使えず、しかも剣がちょっと熱くなるだけだ。
だから、魔法剣士の仕事をせずに、最近は荷物持ちをしていた。
僕の身長は百六十センチ、体重は四十八キロ。
魔法剣士としてボリュームがないと言われれば、「その通りッス!」と返事するだろう。それに加えて、この大怪我……。
女魔法剣士のアイリーン・フェリクスは、黙って窓の方を向いている。
アイリーンはすごい美人なんだが……残念ながら、ドルガーの彼女だ。ま、僕のことなんて、どーでも良いんだろうな。
「思い出してくれ。僕が大怪我をした時のことを」
僕は抗弁した。
一ヶ月前、僕たち魔物討伐隊は、トードス草原で、ジャイアント・オーガという鬼系の魔物に襲われた。
魔物とは力の差があり、僕たちは逃げ出した。
しかし、たまたま草原に物売りに来ていた、道具屋の少女がいたのだ。少女は十歳くらいか。父親も一緒だった。
ジャイアント・オーガが少女を襲おうとしたとき、僕は身をていして、その子をかばった。……あ、ようするにね、皆に、カッコイイとこ見せたかったんだよ!
その時、ジャイアント・オーガの振りかざした棍棒が、僕の右足に直撃したというわけだ。棍棒には魔力がかけられており、その魔力が右足の骨に侵食してしまった。だから、僕の右足のマヒは治らないのだ。
「何を言い出すかと思えば」
魔法使いのジョルジュが、銀縁メガネをすり上げながら口を開いた。
「ダナンさんが勝手な行動をしたから、怪我したんでしょ?」
ジョ、ジョルジュ! お前まで! お前は唯一の僕の弟分みたいなものだったじゃないか。
「あとさ、お前、奴隷街の出身だろ。下民だ」
ドルガーが言った。
「俺らは、平民だ。今後、大貴族から討伐依頼が来そうなんだ。お前のような下民がいると、話が流れちまう。大貴族は奴隷民とか下民を嫌うヤツが多いからな」
ドルガーは立ち上がり、僕を見下ろした。
「おい、バルドン、ジョルジュ、アイリーン。もう行こうぜ。新しい依頼がきているかもしれない」
ドルガーはそう言って、さっさと獅子王亭を出ていった。バルドンとジョルジュも続く。
僕は床に座り込みながら、泣いた。松葉杖は転がったまま。椅子もひっくり返っている。
僕が弱いから、こんな悲しい目にあうんだ。うう……。
でも、立とうにも、右足がマヒして動かない。じ、自分で立たないと……。
すると──。
アイリーンが椅子の位置を直し、松葉杖を僕の手に渡してくれた。
「あ、ありがとう」
僕がお礼を言うと、アイリーンは顔を少し赤らめて言った。
「べ、別にあんたのためを思ってやったわけじゃないから。店に迷惑がかかるからさ。立てる?」
アイリーンは僕の腰に手を回し、立たせてくれた。
「婚約するんだろ? ドルガーと」
僕は言った。僕は、結構、君のこと、好きだったんだけど。
「……まあね。でもドルガーのヤツ、他の女にモテるから」
え? 何だ? なんかさみしそうな顔をしてるけど。
「ところで、あんたさー。自分の才能に気づいてないんじゃないの?」
「え?」
「メチャメチャ魔法剣士の才能があるのに。動き見てればわかるよ」
「そ、そんなわけないだろ」
僕が言うと、アイリーンはため息をついた。まるで分かってない、という風に。
「仕事ないなら、人に魔法剣術を教えてごらんよ」
「……え? 僕が?」
「自分の才能に気づかないの、もったいないよ」
アイリーンはそういって、さっさと飲み屋を出ていった。
……僕はまた一人ぼっちになった。
僕は泣いた。
しかし、アイリーンのこの言葉の通り、この最悪の人生が大逆転するとは、その時は分からなかった。
今日も雨が降っている。
僕はダナン、十六歳。ダナン・アンデルドだ。
昨日、魔物討伐隊、「ウルスの盾」から追放された、見習い魔法剣士だ……。
右足に、魔力の攻撃を受け大怪我し、魔力が侵食し、マヒしてしまった。左脇に、一本の木製の松葉杖を抱えて歩いている。
松葉杖を片腕で一本、持つときは、痛めた足の逆の腕で支えるのが正しいやり方だ。僕の場合は、右足を怪我しているので、左脇で抱えて支える。
(松葉杖をついている僕がお金を稼ぐには、十歳くらいの子どもに魔法剣術でも教えるしかないか)
僕はため息をつきつつ、小都市ランゼルフのランゼルフ・ギルドに行ってみた。
ギルドとは、魔物討伐の依頼、職業の紹介──斡旋をしてくれる場所だ。
◇ ◇ ◇
「あら、かわいい男の子だこと。何かご用?」
ギルドに行くと、美しい女性が応接室に案内してくれた。年齢は三十代前半くらいか。
彼女の名前は、マリー・エステラン。このギルドのギルド長らしい。
まるで、占い師のようなフード付きローブを羽織っている。
「僕は右足が不自由で、仲間から追放されました。お金がないので、仕事探そうかと思いまして。でも僕は魔法剣術がクソ弱」
「あなた!」
いや、まだ僕の話終わってないよ?
マリーさんは、僕を鋭い目で見て言った。
「……とんでもない魔法剣術の能力を秘めているわね。す、すごい潜在能力よ。こんな人、初めて」
マリーさんは驚いたような表情で、僕を見ている。
アイリーンと同じようなことを言ってるぞ?
でも、僕は即座に否定した。
「あのー、僕は単なる激弱見習い魔法剣士ですけど」
僕が言うと、マリーさんは首を横に振った。
「今の状態ではそうかもね。だけど私は、『門を開く』ことができるの」
「も、門って何ですか?」
「人間は普段、秘めている力、能力がある。それが体内の『七つの門』によって閉じられているの。能力をもっている人は、『門が開いて』いるのよ。普通の人にはやらないけど、あなたはお役目があるから、すぐに『門を開け』ないと」
高いツボを買わされるパターンかな?
「動かないで」
マリーさんは指を動かして、何か空中に図形を描き出し、奇妙な文言を言った。
「『主よ命令せよ』『光よ照らせ』」
すると……。
(【スキル・獅子王の剛力】を解凍中……【スキル・鳳凰の神速】を解凍中……【スキル・獅子王の剛力】を解凍し終わりました。【スキル・鳳凰の神速】を解凍中……。【スキル・英雄王の戦術眼】を解凍中……。【スキル・大魔法剣士の秘剣術】を解凍中……)
ん? 僕の頭の中に、何か声が響いてるぞ?
「さて……仕事を探しているって言ってたけど」
マリーさんは何食わぬ顔で、書類を見始めた。
「あ、あのー、一連の謎の儀式は一体なん」
「ちょうど、このランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場のBクラス師範が指導をあきらめて、やめてしまってね」
いや、聞いて?
「あなたを師範代として、任命します!」
マリーさんは、鋭い目で僕を見た。すんげえ圧!
い、いや、とにかく仕事にありついたんだ。チャンス!
Bクラスとは、十歳から十五歳の、まだ魔物討伐家になっていない少年少女魔法剣士のことだ。
ん? 師範が指導をあきらめた? どういうことだ?
「フフッ」
マリーさんは美しく笑った。
「あなたの能力……『彼ら』に見せてやって」
「は?」
◇ ◇ ◇
僕はマリーさんとともに、ギルド横に併設されている、魔法剣術道場に行った。
……何だ、これは。
「ギャハハハ!」
「あいつら、おかしいったらねーんだよ」
「だから、俺は言ってやったんだよ!『さっさとナンパしとけ』ってよ」
道場生と思われる少年たちが、道場の床に寝転んで、くっちゃべっている。
年齢は多分、十四歳か十五歳くらいか? 僕より少し下くらい? だが……。
ぼ、僕の苦手な不良君たちじゃないかああっ! 怖ぇえええ!
そ、それにしても……。
普通、魔法剣術道場で、寝転んでしゃべっていたら、師範に木剣でバキバキになぐられるはずだ。
士官学校中等部時代、それだけ道場は神聖なものだと習った。
「皆! 新しい先生が来ましたよ!」
マリーさんが声を上げた。
先生って……やっぱり、それ……ボクノコト?
不良たちは、僕のほうを一斉に見る。
「金髪の子がデリック・ワット。太った男子がマーカス・ロイ。背の高い子はジョニー・ライパルト。全員十五歳よ」
マリーさんは、僕に言った。
「新しい先生……師範代ってわけか? いらねーな」
金髪の、イキッた少年が立ち上がった。
ひいいっ! やっぱ怖い! カツアゲ必至じゃん?
僕はその場を逃げ出したかった。
「デリック、よく聞いて。ダナンは一歳年上。あなたたちに魔法剣術を教えてくれるのよ」
マリーさんはそう言ったが……。
「何だ、こいつ。松葉杖ついてんじゃん。しかも、俺らと1歳しか歳が違わないって? 俺らの先生として、使い物になんのぉ?」
「ギャハハハ! こいつ、いじめちゃおうぜー!」
太ったマーカスも、背の高いジョニーも、ナメきったことを言って僕を笑っている。
「じゃあさ、俺の剣を受けてみてくれよ」
デリックが、道場に常備されている木剣を取り出しながら言った。
「木剣だから、属性魔法剣は使えねえけどよ」
属性魔法剣とは、剣に火や氷の魔法をかけて、魔法攻撃をする技だ。木剣だと、魔法の通りが悪いから、属性魔法剣は使えない。
「剣術でボコボコにすんぜ? この新しいセンセイ様をよぉ」
なるほど、前任の師範がやめた理由は、こいつらのこの態度か。こりゃあ、やめたくなるわな。
「ちなみに俺、子どもの頃から十年、魔法剣術やってからさー」
あ、そうなんだ。ボク士官学校と魔物討伐で四年間しかやってないんで、こりゃ負けるわ。どうやって、ここから逃げようかなー。
(【スキル・鳳凰の神速】を解凍し終わりました。【スキル・英雄王の戦術眼】を解凍中……。【スキル・大魔法剣士の秘剣術】を解凍中……)
あーもう! また頭の中の声か!
し、しかし僕にはお金がない。とにかくここで働かないと、生活できないじゃないか。
僕は怖々、マリーさんから木剣を受け取る。
右手に木剣、左脇に松葉杖の状態だ。
「では、練習試合開始!」
マリーさんが勝手に掛け声をかけた! ひいっ!
すると!
「でりゃああああっ! 死ねやああ!」
デリックがいきなり、木剣を振りかざしてきた。
しかし──。
ガキイッ
ガキッ
ガスッ
「はあ、はあっ……な、なんだ?」
デリックは目を丸くして、つぶやいた。
デリックの右斜め、左斜め、真上からの上段斬りを、僕は自分の木剣で、すべて受けることができた。
「ぜ、全部、受けられた? 俺の剣が?」
デリックは舌打ちし──。
「ど、どうせまぐれだ、この野郎っ!」
デリックは驚きを隠せぬまま、強引に、左斜めに斬り下げてきた。
(ここだっ!)
ガキイイッ
僕は、素早く自分の木剣で、デリックの木剣を弾き飛ばしていた。
「え? お、俺の木剣が……」
デリックは目を丸くする。
て、手が勝手に動いた? い、いや違う。僕は彼の太刀筋を、完璧に見切っていたんだ!
そして僕は動揺しているデリックの首筋に、木剣を突き付けた──。
勝負あった。僕の勝ちだ!
「な、なんだこいつ……。つ、強ぇ……」
デリックはおびえた表情で、僕を見ていた。
だがその時──マーカスとジョニーが、木剣を手にしていた……。
まだ終わっていない!
僕はデリックの木剣を弾き飛ばし、尻もちをついた彼の額に、木剣を突き付けた。
(【スキル・鳳凰の神速】を解凍し終わりました。……。【スキル・英雄王の戦術眼】を解凍し終わりました。【スキル・大魔法剣士の秘剣術】を解凍し終わりました)
え? また頭の中に、声が響いた?
何だ? う、うおおおっ……。
な、何だか体に力があふれてくるような……!
「この野郎がああああっ!」
後ろから声がした。足音から察するに、僕の右後頭部を木剣でなぐりつけるつもりだな。
スッ
僕は右足が動かない。だから最小限の動きで、上半身だけ動かすと──。
「うおりゃああっ! あ、あれっ?」
ドガッ
太った少年──マーカスが、木剣を突き出した姿勢のまま、道場の壁に激突した。
僕は木剣の軌道を読んでいたので、マーカスの木剣をかわすことができた。剣を他人の頭部に当てるというのは、とてつもなく難しい。
人の頭部の位置というのは、戦闘時、常に動くからだ。
し、しかし、僕はこんなに動けたのか?
右足を大怪我する前より、強くなってるじゃないか? なぜ?
「てめええ、くそがあああっ!」
今度は背の高い少年──ジョニーが僕の腰に組みついてきた。
(う、うわっ! く、組技か? 剣術じゃない。ど、どうする?)
今、組みつかれた衝撃で、僕の松葉杖は吹っ飛んでしまった。だが、木剣はまだ右手にある。
(エクストラ・ボーナス【大天使の治癒……ダナン・アンテルドの右足のマヒ、怪我を「一時的」に完全回復いたしました)
ん? また僕の頭に、声が響いたぞ? エクストラ・ボーナス?
「な、なんだと?」
ジョニーは組みつきながら、僕を驚いた表情で見上げた。
僕は立ったまま、ジョニーの組みつきで倒されるのを、踏んばっていたからだ。
「お、お前……あ、足が……? 怪我してないのか?」
ジョニーは声を上げた。
まさか……? 僕の右足が治っている? バカな!
「おりゃああ!」
僕はジョニーを押し倒し、そのまま馬乗りになった。
「ひ、ひいっ!」」
ジョニーは泣き声をだし、僕の下で暴れた。しかし僕はうまく馬乗りに体重をかけ、ジョニーを逃さない。
こ、これは……どういうことだ?
僕はなぜか右足が治ったことで、全身にうまく力が行き届いているのだ。
よし、チャンスだ。
僕は素早く、手に持った木剣を彼の首に近づける。
すると驚いたことに、木剣なのに雷属性魔法剣が発動した。
バチバチバチ……。
僕は雷を帯びた木剣を、ジョニーの首に突きつけた。
「う、うわああっ! か、感電しちまうっ!」
ジョニーはおびえた顔で、声を上げた。
「そこまで!」
マリーさんが声を上げた。
やはり……マリーさんは「勝負」を分かっている。
僕はサッと立ち上がった。
「お、おい! 止めるんじゃねえ。ジョニーはまだ負けちゃいないだろ」
見ていたデリックは、マリーさんに抗弁した。
「残念ながら、ダナンの勝ちよ」
「な、なんでだよ!」
「もしこれが戦場であるならば、すでにダナンの『勝ち』。首は急所であり、首が属性魔法剣で攻撃されるということは、『死』を意味するわ。実戦じゃなくて良かったわね」
「くっ……」
デリック、マーカス、ジョニーは悔しそうに俺を見ている。
「くそっ! な、何であんな軟弱な野郎に……。きょ、今日は帰ろうぜ」
デリックは舌打ちして、僕をにらみつけると道場を出ていった。マーカスとジョニーもそれに続く。
僕が立ちすくんでいると、マリーさんは、「お見事でした」と褒めてくれた。
「いえ、それがおかしいんです。頭の中で、『スキル』という言葉が鳴り響いて……」
「フフッ、それで?」
「力があふれ出て、足まで治って……ん?」
ガクッ
僕は急に右足がまた、痺れたようになり、尻もちをついてしまった。いつもの、右足の状態だ……。
「あ、あれ~?」
「エクストラ・ボーナス【大天使の治癒の効果が、切れてしまったようね」
「は、はあ……?」
「私があなたに、呪文を授けたでしょう? あのとき、言葉がたくさん頭の中に浮かんだはず。──これを見なさい」
マリーさんは空中を指さすと、空中に光る掲示板のようなものが浮かび上がった。
「なんですかこれ!」
「『魔法のスキル表』よ。空中に表示できるメモ帳みたいなものだわ」
その「魔法のスキル表」には、光る文字でこう書かれてあった。
『ダナン・アンテルド 習得スキル一覧
【スキル・獅子王の剛力】
・常人の十倍の力を発揮できる
【スキル・鳳凰の神速】
・体の動きの速度が、常人の十倍になる
【スキル・英雄王の戦術眼】
・百戦錬磨の「英雄王ラインドス・グレイダ」の戦術眼を発揮できる
【スキル・大魔法剣士の秘剣術】
・剣の扱いが「伝説の大魔法剣士ログレス・ガイルト」と同等レベルになる
☆エクストラ・ボーナス
【大天使の治癒】
・一時的に右足を完全治癒できる。効果は十五分程度
☆重要 ユニークスキル
【解析中】
・解析中……しばらくお待ちください』
は……? え……?
力が十倍? 速度が十倍?
そ、それに……ラインドス・グレイダ……ログレス・ガイルト? 教科書に載っている、伝説の英雄と魔法剣士だ!
「私があなたの体から、これらのスキル……つまりあなたに備わっていた『隠された能力』を引き出したってわけ。スキルのそれぞれの効果は、表の説明の通りよ」
「ぼ、僕に隠された能力? そんなものがあるわけ……」
「あるのよ。実際に、三人の生徒に勝ったじゃないの。しかも、属性魔法が通りにくい木剣に、雷の魔法を通したわね。よほど魔力が強くないとできない技だわ」
僕はうなずいた。
でも、まだ信じがたい。あの少年たちはけっして、剣術の素人ではなかった。油断していたら、まちがいなく倒されていただろう。
あれ……でも……。
マリーさんは僕に松葉杖を手渡してくれて、立たせてくれた。
「足が一時的に治ったのは?」
「それは【大天使の治癒】というスキル。15分だけ、あなたの右足が動くようになる」
「そ、そんな……。僕は白魔法病院に通ったけど、一生治らないと……」
「そうね。その常識を十五分だけ覆えすのが、『スキル』というものなのよ」
「最後の『ユニークスキル』っていうのは?」
「それはね……ああ、解析中か。この話は難しいので、また今度話しましょう」
そしてマリーさんは言った。
「だけどねえ。明日は女子。少女魔法剣士たちが来る日なんだけど……。これも男子以上にやっかいでねえ……」
はあ? 女子ねえ。
っていうか、本当に僕は先生──師範代になったのだろうか。
「大丈夫よ、ダナン『先生』!」
マリーさんは、僕の気持ちを見透かすように言った。
僕が魔法剣術の先生?
信じられない気持ちだった。
その頃、ダナンをいじめて魔物討伐隊から追放した、勇者ドルガー・マックスは……。
馬車の中にいた。
ゲッドフォール草原を、ドルガー率いる魔物討伐隊、「ウルスの盾」を乗せた、幌付き馬車が走っている。
「ガハハハ!」
ドルガーは客車内で叫んだ。
「ついに大貴族ドルガレス家から、魔物討伐の依頼が来たぜえ!」
メンバーの戦士、バルドンも「やったな、ドルガー」と笑った。
「ようやく、ここまで来ましたか……」
魔法使いのジョルジュ・リデーンも眼鏡をすり上げ、ニヤリと笑う。
大貴族のドルガレス家は、世界最高の大金持ちの一つと言われる。このライリンクス王国の王族たちよりも、資産を持っていると噂されていた。
一方、ドルガーの恋人、女魔法剣士のアイリーン・フェリクスはうかない顔で、黙ったままだ。
(ダナンはどうしているんだろう……。なぜか気になっちゃう)
「おい、何うかない顔してんだ、アイリーン!」
ドルガーは大声で言った。
「大貴族からのご依頼だぞ。大金が入ってくるぜ!」
「あ、ああ……そうだね」
アイリーンは、肩にかかった美しい髪の毛をはらった。ドルガーはいやらしい目で、目の前に座っているアイリーンを見た。
アイリーンは、輝くように美しさだ……。
(ん?)
そのとき、ドルガーは眉をひそめた。
(……勇者ドルガー・マックスさんの、【スキル・勇者のカリスマ】の有効期限が切れました。……【スキル・勇者の剣術】の有効期限が切れました。……【スキル・大商人の金運】の有効期限が切れそうです。……スキルの状態を戻すには、善行を積むことをお勧めします)
「なんだ?」
ドルガーは周囲を見回した。頭の中に、何か声が響いたぞ?
……気のせいか。昨日、酒を飲みすぎたからな。
気を取り直し、ドルガーは言った。
「アイリーン、さっさと結婚しちまおうぜ。今度、結婚式場を見に行こう」
「……気が早いよ……」
ドルガーは、なめるようないやらしい目でアイリーンを見て、彼女の手をさわる。
アイリーンはそれをふりほどいた。
「やめてよ、調子にのらないで」
「なんだぁ? てめぇ」
ドルガーはアイリーンをにらみつけた。
「勇者の俺の命令に従って、俺のいいなりになっていればいいんだよ、お前なんか。で、金はいつ返してくれるんだ? アイリーン」
アイリーンがドルガーと恋人関係になったのは、わけがある。
アイリーンの家は貧乏で、三百万ルピーの借金があった。
それをドルガーが、アイリーンに恩を売り、彼女を恋人にするため、支払ってやったのだ。ドルガーは十六歳だが、魔物討伐で金を溜め込んでいたので、三百万ルピー用意するくらい、造作もないことだった。
そしてドルガーは……。
「お前から、二百万ルピーの利子を取るから覚えとけ。つまり俺に、総額五百万ルピー払えよ」
アイリーンにそう言い出した。
悪徳金融業者も、真っ青の利子だ。
アイリーンはドルガーの作った書類にサインをしてしまったから、余計、始末が悪い。
「はあ……」
アイリーンはため息をついた。
(もしダナンなら……。こんな卑怯なことはしないだろうな)
アイリーンはそう考えていた。
◇ ◇ ◇
さて、ドルガーたちは魔物討伐の依頼の拠点である、ランゼルフ地区に到着した。
そして依頼主の大貴族が予約してくれた、高級な宿屋【龍王亭】に向かった。
すると入り口で、金髪の少年がドルガーたちを出迎えた。
「よぉ! 久しぶりじゃねえか! デリック!」
ドルガーは金髪少年に言った。この金髪少年は数時間前、ダナンに向かっていって成敗された、あの不良少年である。
ドルガーはデリックに言った。
「ランゼルフ地区は、あんまり知らなくてよ。親戚のお前が、この辺を案内してくれるっていうから、助かるぜ。どうだ、魔法剣術の腕は磨いているか?」
「ああ……ドルガー……。よく来たな」
「ん? デリック、どうしたんだ?」
「実はよ……気に喰わねえ野郎がいるんだよ。すげぇムカつくぜ」
デリックは舌打ちしながら言った。
「そいつ、たった俺と一歳しか違わないのに、メチャクチャ強くって……。魔法剣術道場でやられた」
「お、お前が? だってお前、この間、学生魔法剣術のライリンクス王国大会で四位になっただろう。……デリック、誰なんだ? お前を倒すヤツなんて」
「あ、ああ……。そいつは十六歳なんだ。左脇で一本、松葉杖をついていて……」
「ん? 松葉杖?」
ドルガーは眉をひそめて、バルドンとジョルジュたちの顔を見た。
な、何か嫌な予感がするぞ? 俺は、そいつを知っている気がする。
ドルガーの予感は的中した。
「そいつの名前は、えーっと確か、ダナン・アンテルドってヤツで……」
「はあ?」
ドルガーはデリックの言葉に、目を丸くした。
「ダ、ダナンだって?」
十六歳。松葉杖。そして名前がダナン・アンテルド。
ウソだろ……?
ドルガーはアイリーンを見た。
「あのダナンだと思うわ」
アイリーンがそう言ったので、ドルガーは再び眉をしかめた。
間違いない。俺たちが追放した、ダナンだ!
し、しかし、デリックは学生魔法剣術大会の四位だぞ?
学生の魔法剣士では、相当、強い部類に入る。
そんな魔法剣士を、俺らが追放したあのクソ弱い、しかも松葉杖のダナンが倒した?
(ど、どうなってやがるんだ? た、確かめなければ)
ドルガーは、なぜか嫌な予感をひしひしと感じていた。
僕は松葉杖の魔法剣士、ダナン・アンテルド。ギルド魔法剣士道場の、師範代になってしまった。
そして、今日は女子部だ。
女子部は女子部で、問題があるらしいが……。
「でりゃあ、おりゃあ!」
「てりゃ!」
「とあああーっ!」
道場に入ろうとしたとき、女の子たちの元気の良い声が聞こえてきた。僕は今日も、一本の松葉杖をついて道場の中に入っていった。
ガシッ、ガキッ、コキッ
女の子の魔法剣士たちが六名、二人一組になって、木剣で対人稽古をしている。
なーんだ、昨日の男子たちよりは真面目じゃないか?
「ん?」
でも彼女たち、何か動きが変だ。
対人稽古というよりは、チャンバラごっこ?
すると、大人の女性が僕に近寄ってきた。あれ? 師範なのかな。
「ま、待ってたのよ! あなた、ダナン君でしょ!」
女性の年齢は多分、五十代くらいか。上品な顔立ちだ。
「はい、僕はダナンです。ギルド長のマリーさんに、ここの道場の師範代に任命されました。あなたは?」
「私は、師範代のポルーナ・マールです。とにかく助けて~」
「た、助けるって、どういうことですか? 女子部は、あなたが指導されているみたいですけど」
「そうじゃないのよ」
ポルーナさんは、本当に困っているようだった。
「私は子どもの頃に、剣術をかじったことがあるだけの、近所のおばさんよ~」
ん? どういうこと?
「ここの師範がやめちゃって、無理矢理マリーさんに、女子部の指導を頼まれちゃったのよ。私、単なる近所のおばさんなのに」
あ、何か分かってきた。
「だから、ちゃんと指導できる方が来てくれて、助かったわ~」
「い、いや~。僕もそこまで指導経験はないんですけど」
僕が頭をかいていると、後ろから──。
「あの、あなたが新しい先生ですか!」
すごく真面目そうな、それでいて気の強そうな女子道場生が、僕に向かって声を上げた。
銀髪の髪の毛がきれいな、なかなかの美少女だ。
「私、モニカ・ルパードと申します! 十五歳です。女子たちの主将をしています」
「そうなのか。僕、ダナンです。十六歳なんだけど一応剣術を教」
「ダナン先生が、私たちの指導をしてくださるんですね!」
いや、話を最後まで聞いて?
ていうか、この子、かわいいのにすごく語尾が強い!
僕は言った。
「とにかく、さっきやっていた対人稽古を見せて」
「わかりました!」
モニカはまた、「どりゃあ! えいりゃあ!」と木剣を振り回しはじめた。
相手の子もひるむ勢いだが、やっぱり動きが変だ。
(発動──【スキル・英雄王の戦術眼】……)
おや? また声が頭の中で響いた。そ、そうか。【スキル・英雄王の戦術眼】ってスキルを活用して、この子たちを指導しろってことか?
「あ、ちょっと待って」
僕は、彼女たちのチャンバラごっこ……いや、対人稽古をあわてて止めた。
「ちょっと変な部分がある」
「何がですか!」
ギロッ
真面目な女子道場生、モニカは僕をにらみつけた。こ、怖い……。
「私の何が悪いっていうんですか!」
そ、そうか、相手は女の子なんだから、とにかく優しく分かりやすく、丁寧に教えると良いのかな。
「──いやね、君たちの体の姿勢が気になるな」
「姿勢?」
「木剣を打っているとき、君たちは体が上下しているんだ。『すり足』で移動してごらん」
「すり足? なんですか、それって」
今度は後ろから、セミロングの女の子が興味深そうに聞いてきた。
すり足が分からないのか……。こりゃ、骨が折れそうだ。
すり足は剣術独特の足の運び方で、剣術の基本中の基本だ。
「私はマチュア・ライネです。モニカの同級生で……。すり足って何ですか?」
「足をするように動く移動法だよ。真似してごらん」
僕は松葉杖をつきながら、地面と足をするように歩いてみせた。
「ほら、こうすると体が上下しないよ。そうすると動きにムダがないんだ」
「えっ……あ、ほ、本当だ。体が上下しない!」
モニカが声を上げた。マチュアも、「こんな動き、知らなかった!」と叫んでいる。
「上手い上手い。できたじゃないか」
僕が褒めると、女の子たちは驚いた顔で僕を見た。な、何だ?
するとモニカが聞いてきた。
「あ、あと、剣を振るときに、威力が出ている感じがしないんです」
僕はピンときた。
「君たちは、左肘と右肘が、狭くなりすぎているんじゃないかな」
「ええ?」
「ほら、もっと懐を深くしてごらん。胸と左肘、右肘の間隔を広いイメージで」
彼女たちが僕の言う通りに構えて、木剣を上段から振り下ろしてみると……。
ビュオッ
空気を切り裂く音が鳴り響いた。
「わああっ! 音がしたあ!」
女の子たちは顔を見合わせて驚いている。僕は説明した。
「右肘と左肘が狭すぎると、剣がチョコン、とした振りきれないでしょ。でも、懐を深くすると、大きく振りかぶることができるんだよ」
ビュオッ、ビュオッ
マチュアは嬉しそうに、木剣を上下に振っている。
「すごいよ。呑み込みが早いね!」
僕が褒めると、女の子たちはパーッと笑顔になった。
「道場で褒められたの、初めてです!」
モニカが声を上げた。
「それに、すごく分かりやす~い!」
そうか……。自分がどんな動きをしていたのか、皆、人に言われてやっと気付くんだな。
「先生……見て」
すると、恐らく十歳くらいの女の子が、僕の前に出て、僕の教えたとおりにやってみせてくれた。うんうん、上手くできてるな。
「君、名前は?」
「マイラ・ルバリアナ……」
「よく出来たね、マイラ」
僕は頭をなでてあげた。
マイラは顔を真っ赤にして、「えへへ、やったぁ」と笑っている。
「ダナン君、すごいじゃないの~!」
一連の指導を見ていたポルーナさんが、声をかけてきた。
「指導が分かりやすいし、女の子に優しいわ~」
自分でも驚いているけど……。うーん、どうやら【スキル・英雄王の戦術眼】のおかげらしい。指導力も高まるのか。
「そういえば、さっき、男の子たちが道場を見に来たわ」
ポルーナさんがそう言ったので、僕は首を傾げた。
「え? そうなんですか? 見学者かな」
「いえ、ランゼルフ・ギルドの社長、バーデン・マックスさんの息子さんよ。『ダナンってヤツがいないか』って、聞いてきたけど」
マックス……? 僕は嫌な予感がした。
ポルーナさんは思い出したように言った。
「彼はギルド社長の息子さんだから、この辺じゃ顔を知られているの。彼の名前は、ドルガー・マックスって子よ」
「え? ドルガー?」
僕は思い出していた。
僕を魔物討伐隊から追い出した、あのドルガー・マックスのことを。
僕は冷や汗をかいていた。
ドルガー率いる魔物討伐隊「ウルスの盾」は、ランゼルフ地区に到着した。彼らは、高級宿屋に宿泊していた。
明日は依頼主の大貴族と会い、明後日から依頼の調査開始となる。
「おい、アイリーン。ちょっと飲みに行ってくるからよ」
夜八時、ドルガーは宿屋の一室で、恋人のアイリーンに言った。
いつものことだ、とアイリーンはため息をついた。ドルガーは依頼を受けると、毎日、景気づけに街に女性をナンパしにいく。
アイリーンは一応、ドルガーに聞いた。
「いつ帰ってくるの?」
「は? うるせえんだよ!」
ガスッ
ドルガーは椅子を蹴っ飛ばした。
仲間のバルドンやジョルジュは、アイリーンを冷たい目で見ているだけだ。
「乱暴はやめて!」
アイリーンは訴えた。
ガス!
しかしドルガーは舌打ちし、また壁を蹴っ飛ばした。
アイリーンは魔法剣士だが、さすがに力では男三人には敵わない。そしてアイリーンは、金という鎖で、ドルガーと繋がれた状態にある。
「アイリーン、てめーはオレの女として、静かに待ってりゃ良いんだよ。お前、オレに何か借りてたよな? 何だっけ?」
「お、お金です」
「お前、オレにいくら払えば良いんだっけ?」
「ご、五百万ルピー……」
「ガハハハ!」
ドルガーは笑った。
「お前には、そんな大金払えねえだろう。あのバカのダナンと同じ、平民出身だもんな。あきらめて、一生オレについてまわってりゃ良いのさ!」
ドルガーは、アイリーンの親が作った借金、三百万ルピーを肩代わりした。しかし逆に法外な利子、二百万ルピーを、アイリーン本人に請求している。
その総額、五百万ルピー。
「じゃあな、アイリーン! お前は留守番してろ」
ドルガーとバルドン、ジョルジュたちはさっさと宿屋から出ていってしまった。
しかしアイリーンはその借金を少しでも返すため、計画を立てていた。
はやくドルガーと縁を切りたい。ドルガーが成功してしまえば、お飾りの妻として、大貴族の前に連れ出されるのだ。
(そんなの嫌!)
ドルガーが夜九時に外出するのは、計算済み。いつものことだ。深夜三時までは帰ってこない。
(私も──行動させてもらうわ)
◇ ◇ ◇
アイリーンは宿屋の倉庫で、あらかじめカバンの中に用意してあった赤いドレスに着替えた。
すぐにランゼルフ地区の北、バレーズ繁華街に行き、キャバレークラブ「虎夢亭」の前に立った。女性が男性客を接待し、酒を飲む風俗店だ。ちなみに、ドルガーの行く繁華街は、南のリバーリド繁華街ということは分かっている。
アイリーンはドルガーに隠れて、虎夢亭のアルバイトをしていた。
虎夢亭の支配人は、アイリーンの美貌を気に入ってくれた。アルバイトでも、公爵クラスの客をとれば、日給五十万ルピーは出すと言ってきた。
今日は運よく、予約客が公爵だ。──もうすぐ来る。
(おや……?)
隣の建物はギルドか。看板には「ランゼルフ・ギルド」と書いてある。
すると、そのランゼルフ・ギルドから誰かが出てきた。
(あっ!)
一本の松葉杖を、左脇で抱えている少年……。ダナン・アンテルドだった。
「ダ、ダナン……」
な、何でこんなところに? いや、そういえばドルガーの親戚が、ダナンのことを話していたっけ?
アイリーンがダナンに声をかけようとした時、「よお」という太い声がした。
「アイリーン・フェリクスを予約していた、ジャック・バークレイだが」
「あっ、はい……」
アイリーンは髪の毛を直し、バークレイという客のほうに向きなおった。
バークレイは巨体の、ドワーフ族の男だった。身長は約二メートル、体重は百キロ以上はありそうだ。
「お、姉ちゃん。と、とんでもない美人だな」
バークレイはいやらしい目で、ジロリとアイリーンを見た。アイリーンも、これくらいは覚悟している。
「バークレイ様、本日は虎夢亭にお越しいただきまして、ありがとうございます」
アイリーンは丁寧にお辞儀をした。
「お席にご案内いたしますので、店内に入りましょう」
「いや、店より、オレ様の家に行こうぜ」
バークレイは、ガシッとアイリーンの手をにぎった。しかしアイリーンは、きっぱりと言った。
「そういうことは、虎夢亭では違反ですので」
「うるせえ! その気の強そうな言い方が、またそそるぜぇ。しかもなかなか筋肉質じゃねえか。ただ者じゃねーな、姉ちゃんよ」
バークレイは自分の口を、アイリーンの頬に近づける。かなり酒のにおいがする。
「お、おやめください」
く、悔しい! 魔法剣さえあれば、こんなヤツ……。
「おい、早く来いよ~、姉ちゃん」
バークレイがそう言ったとき、誰かがバークレイの太い腕をつかんだ。
「ああ? 誰だ?」
「や、やめろよ。女の子が嫌がってるでしょ」
バークレイの腕をつかんでいたのは、松葉杖の少年──ダナンだった。
(ダ、ダナン!)
アイリーンは目を丸くしていた。
アイリーン・フェリクスは、虎夢亭の前で自分の客と会った。
そしてその客、バークレイに詰め寄られたのだ。しかし、バークレイの腕をつかんだのが、ダナン・アンテルドだった。
(ダ、ダナン!)
アイリーンは目を丸くした。そういえばさっき、ランゼルフ・ギルドから出てきたのを見たっけ……。
いや、そんなことよりも、ダナンが危険だ。ドワーフ族は気が荒く、なぐられたら骨折じゃすまない。ダナンが殺される!
「てめえ!」
バークレイは思いきり腕を振りかぶり、ダナンの顔に向かってパンチを放った。
パシイッ
(えっ?)
アイリーンは目を丸くした。
ダナンは松葉杖を持った逆の手──右手でバークレイのパンチを受け止めていた。
アイリーンは声を上げそうになった。
(きゃあ……す、すごい!)
「う、ぎゃ!」
バークレイは悲鳴をあげた。
ダナンがバークレイの手首をひねると、バークレイは片膝をついてしまった。
「こ、このっ!」
バークレイが立とうとすると、ダナンが手に力を込める。
グリッ
「い、いてて! や、やめてくれ。いてえよ!」
顔が苦痛にゆがんだバークレイは、ダナンを見上げた。
「な、なんなんだお前は……。お、おい。分かったよ。も、もうゆるしてくれ」
「あ、ああ。分かった」
ダナンがそう言って手を離すと、バークレイは急に立ち上がった。
ニヤッ
バークレイが笑った。危ない!
「このバカが! 騙されおって!」
ブウンッ
そんな音とともに、バークレイの左パンチがダナンの顔を襲う!
スッ
ダナンが松葉杖をうまく使って上体をそらすと、バークレイのパンチは素通りし──。
ドガシャアアッ
バークレイは、虎夢亭の看板に激突してしまった。
「ま、まだやる?」
ダナンはバークレイの後ろから、声をかけた。
バークレイは頭をおさえながら、おびえた顔でダナンを見た。血は出ていないようだが……。
「ひ、ひい!」
「こ、今度はこっちからいくぞ」
「何んだ、こいつは! 化け物だ!」
バークレイはそう叫んで、その場を逃げ出した。
(わ、わあ~……カッコいい……)
アイリーンはドキドキしながら、ダナンを見た。
「ふう、これがスキルの力か」
ダナンはブツブツ、訳の分からないことを言っている。
とにかく、アイリーンはお礼を言うことにした。
「あ、あの。助けてくれて、どうもありがとう」
「ど、どうも」
ダナンは頭をかいている。
周囲はちょっと薄暗い。そしてアイリーンが赤いドレスを着ているせいで、彼女が幼なじみとは気づかないようだ。
「……」
「……」
ダナンとアイリーンの間に、沈黙のときが流れた。アイリーンは頬を赤らめていた。
(でも一体どういうこと? 確かに私は、ダナンに魔法剣士の能力があるって、分かっていた。でもこんな短期間で……ここまで強くなるなんて?)
アイリーンは首を傾げたが、ダナンも首を傾げてアイリーンを見た。
「えーっと、あの、どこかでお会いしましたっけ? 君のこと、どこかで見たことあるような……」
「えっと、あの……私」
「おい! 何をやっている!」
その時、虎夢亭のヒゲの支配人が店から出てきた。
「やばっ。じゃあね」
ダナンは松葉杖をつきながら、さっさと行ってしまった。
「あっ! 何なんだこれは!」
支配人は壊れた看板を見て、声を荒げた。あちゃ~……。アイリーンは額を押さえた。
「アイリーン! バークレイさんを帰しちまったのか! さっき、騒動があったと、店の子から聞いたぞ」
支配人はアイリーンを怒鳴った。
「あんな上客、滅多《めった》にとれるもんじゃない」
「も、申し訳ございません! またお客様をとれるように、頑張りますから……」
「ダメだ! こういう騒ぎを起こされると、この業界はすぐ噂が広まるからな。アイリーン、お前はクビだ!」
(そ、そんな……)
アイリーンはその場で、風俗店をクビになってしまった。
(……やっぱり、接客業なんて、向いてなかったんだな。私は魔法剣士だもんね)
もっと、人の役に立てる仕事につこう。ダナンだって、頑張っているみたいだし……。
アイリーンは色々決心した。
そして思った。ドルガーと縁を切って、もう一度、ダナンに会いたい……と。
僕が魔法剣術道場の師範代となり、二週間が経った。
僕は自分らしく「人を褒め」「丁寧に」「優しく」剣術を教えていたら、男子部が三名から七名、女子部が六名から十名に増えた。
男子部のデリック、マーカス、ジョニーはたまにしか来ないが、相変わらず僕をにらみつけてくる。
だが、他の道場生は幸い真面目だ。子どもから大人、ご老人まで幅広く来てくれるようになった。
「あなたの教え方が良かったみたいね」
僕はギルド長室に呼び出され、ギルド長のマリーさんにこう言われた。
「あなたは教え方が丁寧で、男の人にも女の人にも好評よ」
「そ、それは良かったです」
何だか信じられない気分だ。僕は、人にものを教えるのに向いているのかもしれない。
「ところで、このランゼルフ・ギルドの社長って、バーデン・マックスという人なんですよね?」
「あ、あら、良くご存知ね。んー……」
マリーさんはちょっと顔をしかめた。
「でも、私とちょっと折り合いが悪い人なのよ。私、もしかしたら、いつかギルド長を辞めさせられるかもしれないわ」
「えーっ? そんな」
「でも、どうして社長のことを聞くの?」
僕はギルド社長の息子、ドルガー・マックスから受けたいじめのことを、マリーさんに話した。
「そんなことがあったの……」
マリーさんはしばらく何か考えているようだったが、「その話は、また聞きたいわ」と言った。
「ところで、あなたの『ユニークスキル』が判明したから、報告します」
「な、何でしたっけ、それ?」
「あなたの魔法スキル表の最後の項目が、『解析中』だったでしょう。それが判明したの」
マリーさんは魔法で、空中に光る文字で、僕のスキル表を作り上げた。
最も下の項目には……。
☆重要 ユニークスキル
【ユニークスキル・幸運の伝播】
・ダナンに関わった者は、全員幸運を手に入れる。ただし、ダナンに危害を加えたものは、逆に大凶運になってしまう
「ユニークスキル、幸運の伝播? なんのこっちゃ?」
僕は首を傾げるしかなかった。
「ユニークスキルとは、その人が生まれ持っている、その人固有の特別な能力のこと」
マリーさんは続ける。
「ドルガーが大貴族に依頼されるまでになったのは、おそらくあなたのおかげだと思うわ」
「ど、どういうことですか?」
「あなたの【ユニークスキル・幸運の伝播】が、周囲の人間の運勢を高めていたのよ」
「えーっ? ということは」
僕は眉をひそめた。
「僕がドルガーの運勢を、良くしちゃってたってこと?」
「そうよ。でも最近、あなたをいじめて魔物討伐隊から追放した。この項目の説明を見なさい。『ダナンに危害を加えたものは、逆に大凶運になってしまう』」
「確かに、そう書いてありますね」
「となると、ドルガーの運勢は、今、最悪のはずよ」
「へ? そ、そうなんですか?」
僕が驚いて聞くと、マリーさんはニッコリ微笑んだ。
「もしドルガーがあなたに関わってきても、あなたのユニークスキルが守ってくれるわ」
◇ ◇ ◇
その日の昼、ドルガーたちの魔物討伐隊「ウルスの盾」は、ランゼルフ地区のグレーザー墓地の近くを歩いていた。この辺の道はぬかるんでいて、なかなか歩きにくい。
ドルガーが率いるのは、戦士のバルドン、魔法使いのジョルジュ。そして男性新聞記者のカーツ・ゲイリーとロジー・ベーカーだ。
女魔法剣士のアイリーンは、最近、体調が悪く、宿屋で休んでおり、ついてこなかった。
「ドルガーさん、今日はカッコイイところ、見せてくださいよっ! バッチリ、写真に撮りますからね」
「おおよ!」
ドルガーは新聞記者のゲイリーの言葉に、歩きながら応えた。今日の魔物討伐には、新聞記者がついてきている。ドルガーはこの大貴族依頼の魔物討伐を、新聞に掲載《けいさい》させて、もっと自分たちの名声を高めようとしていた。
「オレらにかかれば、魔物なんて5分もかからずぶっ倒しちまうぜ!」
ドルガーは胸を張って声を上げた。ちなみに今日の討伐依頼は、最近、墓地に出現したポイズン・ビッグトードとスケルトン・ナイトの討伐だ。グレーザー墓地はドルガレス家の墓がたくさんあり、彼らは魔物の出現に頭を悩ませていた。
「見とけや。今はAランクだが、すぐにSランクパーティーになって、大貴族どころか、王族直属の魔物討伐隊になってやるぜ」
「す、すごい意気込みだ。さすが、若手ナンバー1の魔物討伐隊のリーダーですね!」
新聞記者のベーカーがはやし立てる。
おや? そのとき……。
『ドルガー・マックスさんから、ダナン・アンテルドさんの【ユニークスキル・幸運の伝播】の効果が外れます。十分、お気をつけください』
ん……? 頭の中で、何か声がしたぞ。
ドルガーは周囲を見回した。
「おい、なにか言ったか?」
ドルガーはジョルジュに聞いた。
ジョルジュは、「いえ」と首を横に振って言った。……なんだ、気のせいか。ドルガーはふん、と鼻で息をした。
「ドルガーさん」
するとジョルジュが神妙な顔で、ドルガーに耳打ちした。
「ドルガーさんのお父様の経営する、ランゼルフ・ギルドに、ダナンがいるらしいじゃないですか?」
「あ? ああ」
そうだ。
ドルガーの親戚のデリック、そして友人たちのマーカス、ジョニーが、ダナンに道場で負けたらしい。デリック本人も言っていたことだ。
(どうなってやがる?)
ドルガーは首を傾げるばかりだった。
デリック、マーカス、ジョニーは、全員、学生魔法剣術大会の入賞者だぞ……! しかもデリックは四位だ。学生大会とはいえ、三人とも猛者といっていい。
あの松葉杖の弱虫ダナンが、デリックたちを負かした……? 何が起こっているんだ?
「どうしたんですか? もう魔物が現れたんですかい?」
ゲイリーがドルガーの顔色をうかがって、聞いてきた。
「い、いや。まだだ」
「いてえっ!」
その時! 急にバルドンが声を上げた。
ドルガーが驚いて振り返ると、バルドンの右足に中型のヘビが喰いついている。
「ちきしょう!」
バルドンはベビを左足で踏み、道端に蹴り上げた。
ジョルジュが駆けつけた。
「リッグ・スネークのようですね。牙に毒はないはずです」
「な、なにやってんだ! バルドン、注意しろ!」
ドルガーはイライラして、バルドンを怒鳴りつけた。
なんだ? ヘビがバルドンに噛みついた? そんなことは今までの魔物討伐でなかった出来事だ。
ちっ、縁起が悪いぜ。新聞記者が来てるってのによ!
ドルガーは嫌な予感がして、仕方がなかった。
やがて一行は、墓地にたどり着いた。
その墓地から、ドルガー率いる魔物討伐隊の没落が始まるのだった。
ドルガーたち魔物討伐隊がグレーザー墓地に着くと、さっそくポイズン・ビッグトードが二匹、出現した。大カエル型の魔物だ。
「あんたら、墓地の隅で待ってろや。望遠でカッコいいとこ写せよ」
ドルガーが自信満々で声を上げると、新聞記者たちは、「おまかせください!」と言い、魔導写真機を構えた。
「バルドン、右に行け! ジョルジュ、氷属性魔法の準備をしておけ。爬虫類系魔物は、氷に弱いと相場が決まっている」
ドルガーはメンバーに指示する。
ポイズン・ビッグトードは、牛三頭分の大きさの大カエルだ。
ドガシャアッ
ポイズン・ビッグトードは墓を壊し、ドルガーをにらみつけると、大きく跳躍した。
巨体で、ドルガーを押し潰す気だ。
「へっ、力まかせで、オレらにかなうわけないぜ。このCランクモンスターが!」
ズバアッ
ポイズン・ビッグトードが飛び上がって体を浴びせてくる瞬間──。ドルガーは自慢の剣「テンペスタ」でなぎ払った。
ポイズン・ビッグトードの胴体は二つに切り裂かれ、そのまま宝石に変化してしまった。
魔物は魔力を帯びた宝石からできており、死ぬと宝石に変化してしまう。これは魔物が魔物を宝石から造り上げているから、といわれている。
「や、やったぜ」
ドルガーが声を上げたその時──。
『警告します。ドルガー・マックスさんから、ダナン・アンテルドさんの【ユニークスキル・幸運の伝播】の効果が外れています。十分、お気をつけください』
また、ドルガーの頭の中で、奇妙な声が響いた。
くそっ、何だってんだよ。うるせぇ声だ! 黙れ!
しかし──。
グニャアッ
ドルガーの背後で、気味の悪い音がした。
ジャイアント・ローパーだ! 触手が全身に生えた、まるで光る木のような奇妙な魔物だ。これはかなりの強敵!
「な、なんだと。グレーザー墓地に、Aランクの魔物がいるのか? 聞いてねえぞ」
バルドンが目を丸くして、声を上げた。
触手がドルガーの全身に絡みついた。物凄い力だ。
「く、くそっ! 動けねえ!」
それを見たもう一匹のポイズン・ビッグトードが、ドルガーに向かって口から毒液を吐いてきた。
ビッシャアア!
「う、うぎゃあっ!」
ドルガーが全身に毒液を浴び、叫び声を上げる。
「ドルガー! 大丈夫か」
バルドンが駆けつける。
「ど、毒が! 毒が……。ジョルジュ、解毒魔法は!」
「い、今……やります!」
しかし、ジョルジュが魔法を放とうとしたとき、後ろからもう一匹のジャイアント・ローパーが襲ってきた。
ガシイイッ
ジャイアント・ローパーは、ジョルジュを触手で羽交い絞めにした。
「こ、こいつ、僕の魔力を吸っている! 解毒魔法が放てない!」
ジョルジュは叫んだが、ドルガーも声を荒げた。
「な、なんだとおおおっ! ジョルジュ、てめえ、早くしろ。オレが毒で死ぬだろうが!」
「む、無理です。魔力が枯渇してきました!」
一方、バルドンは魔物討伐の目的であるスケルトン・ナイトと、剣で応戦している最中だった。
ジョルジュは何とか残った魔力で、火の魔法を放ち、ジャイアント・ローパーを焼き殺した。ジャイアント・ローパーも宝石に変化した。
「ジョルジュ! 解毒剤があるだろ、いつも持ってきてるヤツ」
ドルガーが声を上げる。
「げ、解毒剤? あ、ありません」
「バカ言うな。いつも持ってきてるだろうが!」
くそ、スケルトン・ナイトがまた向こうからやってくる。何匹いるんだ?
ジョルジュは訴えるように言った。
「荷物持ちのダナンをクビにしたから、忘れちまいました! あいつなら解毒薬をいつも常備していたので……」
「な、く、くそおおおっ!」
なんと! こんなところで、あのクソ弱い荷物持ちのダナンの重要性を、再認識するとは。
ドルガーはなんとか、後ろに張りついていたジャイアント・ローパーを、剣で切り裂いた。
「はあっ、はあっ」
ドルガーは満身創痍だ。毒で頭がクラクラする。
「あ、あの~」
新聞記者のゲイリーが、おずおずと小瓶を取り出してドルガーに見せた。
「解毒薬なら、持ってきていますが。妻に魔物退治だから、と持たされて……」
ドルガーはその解毒薬をひったくると、グイグイ飲んだ。
「くそ!」
市販の薬のせいか、効き目が弱い! 後で病院で解毒してもらわなきゃダメだ。だが、今の薬で少しは毒がひいたらしく、多少、体力は回復した。
だが、なんで新聞記者なんかに助けられなきゃなんねーんだよ!
「ドルガーさん! 空を見てください!」
う、うおおおっ!
巨大な真っ黒い魔物が、空を飛んでいる。
「ダークドラゴンだ!」
バルドンが声を上げた。
「え、SS級モンスターだぞおおっ!」
「ち、ちきしょう! な、何でこんなときに?」
ドルガーがそう叫んだとき──。
『警告。ドルガー・マックスさんから、ダナン・アンテルドさんの【ユニークスキル・幸運の伝播】の効果が外れています。お気をつけください』
再度、ドルガーの頭の中で、例の奇妙な声が響いた。
「うっせえんだよ!」
ドルガーは、自分の頭の中の声に怒鳴った。
「逃げるぞー! バルドン、ジョルジュ!」
「く、くそ、マジかよ。オレらAランクパーティーだぞ」
バルドンは悔しそうに言った。
グオオオオオオッ
ダークドラゴンが大口を開けて、空から火を吐こうとしている。
「火にまきこまれるぞ! 墓地から逃げろっ!」
ドルガーは新聞記者たちを突き飛ばして、墓地からさっさと逃げていった。バルドンやジョルジュも後に続く。
新聞記者二人は顔を見合わせていたが、「なんだ? ひどい魔物討伐隊だぜ……」と言いつつ、逃げ出した。