僕は魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を、しっかり構えた。

「覚悟しろ、ダナン!」

 ドルガーは横に飛び、それとともに上から剣を落としてきた。

()ね斬り!」

 ドルガーが叫ぶ。意外だ、こんな技ができたのか?

 ガキイイッ

 しかしながら、力任せの攻撃だ。僕は腕が(しび)れたまま、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で受ける。

「ギャハハハハハッ! ()けや!」

 ドルガーは着地するなり、僕の背後に回り──。
 
 ヒュ

 僕の首を狙った!

 ガキン!

 僕はその剣を受け、横に(すべ)らし、受け流した。腕は(しび)れているが、たいしたことはない。

 よしっ!

「な、なに?」

 ドルガーは危険を感じたようで、声を上げた。

 ここっ!

 僕は回り込みながら、片手でドルガーの胸部を突き刺そうとした。

「は、ひっ」

 ドルガーは後退して()ける。

 しかし、僕のこの突きはワナだ。

 僕は心の中で、叫んでいた。

(ざん)!)

 ──僕は、ドルガーの右腕に、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を振り下ろした。

 ズバアアアアッ

「あっぎゃ!」

 ドルガーは叫び声を上げる。

 ドルガーの右腕に斬撃(ざんげき)

 うおおおおっ

 観客が声を上げる。

「き、決まった!」
「完璧! す、素早い」
「ダナンの腕狙いの斬撃(ざんげき)だ!」

 完全に決まった。

 ドルガーの右腕に、僕の魔力模擬剣(まりょくもぎけん)が振り下ろされていた。

 魔力模擬剣(まりょくもぎけん)なので、腕が切断されることはないが、これは見事に斬ることができた。

 ドルガーの右腕は強く(しび)れ、今日一日、使いものにならないだろう。

「う、ぎ、ぎいいいっ」

 ドルガーは片膝(かたひざ)をつき、自分の魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を床に落とし、左腕で右腕を押さえている。

「き、貴様~! ダナン! やりやがったな」
「『まいった』をしろ、ドルガー」

 しかしドルガーは、動く左手で、ズボンのポケットから何かを取り出した。

 小瓶(こびん)? 液体が入っている。

 真っ赤だ……。な、なんだ?

「お、おい?」

 僕がドルガーに声をかけると、ドルガーは歯で小瓶(こびん)の木のコルクを抜いた。

 そして!

 グビイイイッ

 真っ赤な液体を飲んだ!

「ぷっはああああ~」

 ドルガーは小瓶(こびん)の液体を飲んで、口を手の甲でぬぐった。

「こいつは効くぜ~。やっぱり、魔族のエキスを、体に入れねえとよぉおおおお~」
 
 お、おい……ドルガー? お前、何を飲んだんだ? 闇のスキル? エキス? 何のことだ?

 そして──いつの間にか彼の頭には(つの)が生え、口には牙が生えていた。

「まさか本当に、この『魔獣変身』を使うときがくるなんてなあ」

 ドルガーはどんどん変身していく……。
 
 ドルガーの肌の色は真っ青になり、髪の毛はボサボサと長く生え始めた。

 体もでかくなったようだ。筋肉は膨張(ぼうちょう)するように発達し、まさに二足で立つ魔獣系の魔物のようだ。

 ど、どうなっているんだ?

 彼の手には、いつの間にか巨大な(おの)が握られている。

「異次元空間にこの(おの)──『魔界の(おの)』を隠し持っていて良かったぜ……」

 (おの)は使用不可のはずだが、審判長や審判団は試合を止める気配はない。やはり彼らは、ドルガーに買収されている!

(つぶ)れろや!」

 ブオオオオオッ

 魔獣──ドルガーは、(おの)を真上から振り下ろした。

 ズウウウンッ

 僕はそれを後退してかわした。斧の落下スピードが速いため、僕は左腕の松葉杖を、力強く、うまく使って後退しなければならなかった。

 巨大な(おの)は、舞台床にめりこむ。

「ぬうううんっ」

 ドルガーは今度は(おの)を、横に払った。

 が、僕はそれも後ろに下がってかわした。近づかなければ、何ということもない。だが、これではこっちが攻撃できないか……。

 ざわざわざわっ……。観客のほうから声がしている。

「おいおい……どうなってんだ? ドルガーは」
「あいつ、勇者じゃなかったっけ?」
「変身魔法か? 最近は、魔物にも変身できるんだな」
「それより、(おの)を持つのは反則じゃねえのか?」

 観客も戸惑っているようだ。

 しかし、またしてもドルガーの目が光った。

 左斜め上から、斧が振り下ろされる。──速い!

 ガキイイイイッ

 僕は片腕で──魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で、その(おの)を受けた。

「な、なんだと」

 ドルガーは声を上げた。

「お、俺の(おの)を受けるとは! しかも──片手で? あ、ありえん!」