僕の目の前には、巨大な魔物が立っている。

 アイアンナイト──鉄の装備で身を固めた、戦士型の魔物だ!

「人間よ! 切り刻んでくれるわ!」

 アイアンナイトはそう声を上げつつ──。

 ゴウッ

 鉄塊(てっかい)のような、巨大な剣を振り下ろしてきた。

 僕は剣の軌道(きどう)を読み、松葉杖と左足を上手く使って後ろに後退し、()けることに成功した。

 すると!

 グワシイイッ

 アイアンナイトの剣で、墓石が真っ二つに割れてしまった。

 僕はそれを見たが、宣言した。

「次は──()けない」
「何!」

 アイアンナイトは驚いたように声を出した。

「貴様!」

 ブオン

 またしても巨大な剣が振り下ろされた。

 ガイイイイインッ

 僕は巨大な剣の太刀筋(たちすじ)を、自分の剣「グラディウス」で受けた。

「何だと? しかも片手で?」
 
 かなり右手がしびれたが、そのまま巨大な剣を、愛剣グラディウスで横に払う。

 アイアンナイトは体勢を(くず)した。

(ここだっ)

 そのまま剣をすべらし──僕は、アイアンナイトの左肩口を狙った。

 ガッ──ガッシャアアアアン

 そんな金属音がした。

 僕は、アイアンナイトの左腕を斬り落とした。

「な、何だと!」

 アイアンナイトはうめく。アイアンナイトの(よろい)──体から、左腕が外れた。

 アイアンナイトの左腕は落としたが、肩口からは血は出ず、闇色(やみいろ)瘴気(しょうき)が出ている。

 (よろい)の内部はどうなっているのか……。

「人間の少年……お、お前……何者だ?」

 アイアンナイトは、右手の巨大な剣を握りしめ、言った。

「こんなことは初めてだ。私の腕を斬り落とすなど! しかもお前は──右足を使えないのだぞ──むうううんっ」

 今度は巨大な剣を横に払ってきた!」

 僕はそれを見切り、またしても彼の剣を()けた。そして──。

 ガッシャアアン

 アイアンナイトの右腕も、斬り落としていたのだ。

「う、うごおおっ」

 両腕がないアイアンナイトはうめく。

「な、なぜ、俺の両腕を斬り落とせたのだ?」
「お前には力はあるが、剣の軌道(きどう)が読みやすい。動作が遅いからだ」
「よ、(よろい)や手甲、肩当てで、身を守っているのだぞ」
「その()ぎ目をよく見れば、防具に身を守られていない部分がある。そこを(ねら)って斬った」

 両腕を斬られたアイアンナイトは、両肩口から、瘴気(しょうき)をもうもうと出している。

「んっ?」

 僕はアイアンナイトの頭上を見上げ、思わず声を上げた。

 あの鉄塊(てっかい)のような巨大な剣が、アイアンナイトの頭上に浮いている。

 魔力で宙に持ち上げたか!

「ワハハハッ、少年よ! 我が両腕を斬り落とした程度で、何を(ほこ)らしげに? 私は魔力も使えるのだぞ? くらえ!」

 ビュオッ

 ドッガアアアッ

 もの(すご)いスピードで、巨大な剣が振り下ろされ、地面に叩きつけられた。

 僕は間一髪、松葉杖と左足を使った左横飛びで()けたが──腕がある時より、太刀筋(たちすじ)が速い!

「もう一撃だ、少年よ!」

 巨大な剣はまた、振り上げられた。そして空中で、闇色(やみいろ)の雷をまとった。……魔法剣だ!

 おや? その時!

『【大天使の治癒(ちゆ)】を発動させます。右足が一時的に回復します』

 ん? 久々の頭の中の声だ!

 おおっ、右足が動く!

「ノワル・エクレール──黒き稲妻(いなづま)!」

 アイアンナイトが声を上げたとき──。

 ゴウッ

 また、巨大な剣が落下してくる!

 ここだっ!

 神速!

 僕は全力で前方に跳躍(ちょうやく)した。そして、アイアンナイトの首を、愛剣グラディウスで斬り落としていた。

「あ、が」

 アイアンナイトはうめき──。

 ドズン

 巨大な剣は力なく落下し、アイアンナイトの首も(かぶと)ごと地面に落ちた。

 その途端、アイアンナイトは大量の宝石に変化した。

 僕はアイアンナイトを退治したのだ。

「す、すごい! すごいよぉっ!」

 アイリーンが駆け寄ってきて、僕に抱きついた。

「ダナン、すごいよ! どうして君は、そんなに強いの?」
「く、悔しいっ……。君の戦いを、ただ見ているしかなかった」

 パトリシアは悔しそうに、僕に言った。

「ったく、たいしたヤツだぜ~」

 ランダースも、腰の(さや)に剣をしまいながらつぶやく。

 まあ、何とか魔物全員、倒せたようだな。皆のおかげだ。

「お、お前たち……!」

 副町長のルバール氏が、墓場にやってきた。他の住人も一緒だ。

「お、おい……すごいぞ。アイアンナイトを倒しちまった……」
「も、もしかしてもう、上納金(じょうのうきん)を払わなくて良いってことか?」
「ろ、牢獄(ろうごく)のような生活から、逃れられるのか?」

 住人たちが、口々にさわいでいる。

 ルバール氏が冷や汗をふきながら、言った。

「あのアイアンナイトを倒しちまったのか?」
「あ、はい。まずかったですか?」

 僕は頭をかいた。ルバール氏は、ブルブル震えている。お、怒り出すか?

「あ、あんたはすごい!」

 ガシッ

 ルバール氏は僕の両手をつかみ、叫んだ。

「あんたは……いや、あなた様は……。一体、どなた様なのでしょう? 我々は、本当は魔物に上納金(じょうのうきん)を払いたくなかった。しかし、あなたたちが私たちを救ってくださいましたっ。さっきは失礼を言って、申し訳ございませんでした!」

 ルバール氏は、僕らに頭を下げた。うーん、頭を下げられるのは、ちょっと苦手だ。

「さあ、マリー様の……魔霊街(まれいがい)の町長のお屋敷はこちらです。姉のパメラ様も一緒に住んでらっしゃいますよ。ご案内します」

 ルバール氏は、墓地を歩き始めた。アイリーンはあわてて聞いた。

「え? マリー先生って、この魔霊街(まれいがい)の町長なんですか?」
「はい。しかしあの方は不思議な術で、屋敷に結界を張り、魔物の侵入を防いでいます。マリー様たちは、他の街でスリや強盗などはしておりません。誤解なさらぬよう……」
「あ、そのスリや強盗のことだけどさ」

 パトリシアは静かに言った。

「魔物におどされていたとはいえ、あんたたちは他の街で悪事を働いていたんだろ? スリや強盗とかな。あとで、王立警察に、自首するべきだ。分かったな」
「その通りです……」

 ルバール氏は大きくうなずいた。

「それならば、北東にあるルイベール工業地区の王宮警察支部に、出向かなければならないと思います」
「あんたたち、……もう自首をしていいのか?」
「ええ。我々も、本当は悪いことをしていると苦しんできてましたからね……。しかし、街には我々の顔を知り、(にく)んでいる者がいる。我々は、『黒服』といわれるマフィアからも金を()りました。我々は、自首する前に、殺されるかもしれない」
「それならば、私とランダースがついて行こう。ボディーガードというわけだ」

 パトリシアは、ランダースの肩に手をやって言った。ランダースは、「お、俺?」と声を上げた。

 ランダースは嫌そうな顔だ。

「パトリシア、お前な~。怖いから、さっさと魔霊街(まれいがい)を出たいだけだろ」
「黙れ」

 ドガッ

「いて!」

 パトリシアは、ランダースの尻を蹴っ飛ばした。

「そういうわけでだな」

 パトリシアは僕とアイリーンに言った。

「私とランダースは、ここの住民たちと王宮警察に行く。お前たちはパメラ探偵とマリー氏の屋敷に向かってくれ」
「なんで他人の自首を手伝わなきゃいけないんだよ、めんどくせーなー」

 ランダースはブツブツ言った。

 パトリシアや魔霊街(まれいがい)の住人たちは、すぐに墓地の北の、さびれた商店街のほうに去っていってしまった。

 僕とアイリーンは、地図の通り、パメラさんとマリーさん姉妹が住むという、屋敷に向かうことになった。