僕、ダナン・アンテルドは仲間三人と馬車に乗り、ランゼルフ地区を南西に移動していた。

 新しく結成したパーティーメンバーを引き連れて、グバルー魔霊街(まれいがい)に行く。

 パメラ探偵と、僕の恩人、マリーさんに会いにいくためだ。二人は姉妹らしい。

 パメラさんたちには、僕の馬車の事故について、()(ぎぬ)をきせられた奇妙な写真について、アドバイスをもらおうと思っている。

「いや~、昼間からグバルー魔霊街(まれいがい)に行けるとはな~。遠足みたいで、楽しいぜ~」

 マルスタ・ギルドの元師範(しはん)、ランダース・ロベルタは笑いながら言った。酒はちょっと(ひか)えているらしい。

「そ、そうだな。う、う、う、腕が鳴るな。ハハハ」

 パトリシア・ワードナスも真っ青な顔で言った。

 どうやらパトリシアは、お化けの(たぐい)がすごく苦手らしいのだ。

「パトリシア、無理して来なくて良かったのに。体が震えてるわよ」

 アイリーンが心配しながら言うと、パトリシアはキッとアイリーンを見た。

「な、なんのっ!」

 パトリシアは声を上げた。

「わ、わ、わ、私はお化けが怖いわけではない。わけのわからない、透明な化け物が苦手なだけだ!」
「それ、お化けだろーが」

 ランダースが突っ込んだ。

 というわけで、新しい魔物討伐(とうばつ)メンバーは、僕──ダナン、そしてアイリーン、パトリシア、ランダースだ。

 全員魔法剣士というのが新鮮だ……。アイリーンは回復魔法を使えるし、まあ大丈夫か。

 ◇ ◇ ◇

 僕らを乗せた馬車はルイベール工業地区の南西を通り、だんだんと薄暗い地域へと入っていった。

 ここはもうすでに、グバルー魔霊街(まれいがい)と呼ばれる地域だ。

 周囲の民家は、ツタや伸びきった木の枝で(おお)われていて、誰も住んでなさそうだ。ガラスも割れている。

 ほ、本当にこんな場所に、パメラさんとマリーさん姉妹が住んでいるのか?

 僕たちは馬車を降りた。御者(ぎょしゃ)はさっさと馬車を走らせて、逃げるように去ってしまった。

「しょ、商店街に、き、来たぞ」

 パトリシアも震えながら言った。

 商店街の店のほとんどは半壊(はんかい)している。人通りも少ない。
 
 商店街には墓地が隣接(りんせつ)し、いっそう不気味だ。

 ガサッ

「きゃあああ~ひえええ~!」

 パトリシアは半泣きで剣を取り出した。

 ネズミが、壊れた金物屋から出てきただけだ。金物屋に店主はいない。ただ商品が、床やそこらに散らばっている。廃屋(はいおく)だ。

「お前なぁ、いちいちビビって震えてんじゃねえぞ~」

 ランダースがパトリシアに注意すると、彼女はぷうと(ほお)(ふく)らませて怒った。

「な、何を! いい今のは剣士に対して屈辱的(くつじょくてき)な発言だぞ私はビビってなんかいないこれはむむむ武者震(むしゃぶる)いだ!」

 パトリシア……すごい早口だ……。

 すると……!

「お前たち!」

 急に後ろから低い声がした。

人語(じんご)を話せる魔物か?)

 僕はそう思い、後ろを振り返ると、そこには目つきの悪い中年の男が立っていた。

 う、うおおっ……。手にはナタを持っている。

 周囲にはいつの間にか、住人たちがいた。か、囲まれている? 人数は6名……。全員、農具を武器に見立てて持っている。

「敵か?」

 パトリシアは構えたが、僕は、「やめろ」と剣をおさめるように言った。

 武器──農具を持った姿勢、雰囲気などを見たところ、とても戦闘に慣れている者たちとは思えない。

 普通の民間人だ。

「あなたたちは?」

 アイリーンが聞くと、ナタを持った男が口を開いた。

「俺らは、このグバルー街の住人だ。俺は……副町長のギルバス・ルバール」
「どうしてその住人たちが、俺らを襲おうとしてるんだ?」

 ランダースが今にも剣を抜こうとしながら言ったが、ルバール氏は声を荒げた。

「よそ者は、この街に入ってきてほしくねぇ! 邪魔だ、出ていけ。それに、ここいらは魔物が出る。大怪我しても助けねえぞ」
「我々は、その魔物を討伐(とうばつ)しようとしている!」

 パトリシアが声を上げた。

「あんたたちはここに住んでいるんだろう? いつも危険な状態にさらされているんじゃないのか?」
「余計なお世話だ」

 ルバール氏が声を荒げた。

「魔物を討伐(とうばつ)? できるわけがない。あんな恐ろしい魔物……。お前たちには絶対に倒せないね。とにかく邪魔なんだよ、出ていけ!」

 僕たちは顔を見合わせた。

 なぜだか分からないが、僕らは、この魔霊街(まれいがい)の住人たちに嫌われているらしい。