お姐さんたちの朝食の片付けを手伝い終えれば、しずれが私に手招きをしてくれる。
「ふゆは、せっかくだ。屋敷の中、案内するよ」
「でも、次はお洗濯が……」
「いいのよ、せっかくだから、案内してもらいなさいな」
ユズリハお姐さんに勧められて、私はしずれに屋敷の中を案内してもらうことになった。
屋敷の中は、どうしてか何処までも続いているように見え、終わりが何処なのかがハッキリしない。
「どこまで続いているんでしょうか」
「妖怪の屋敷だからな。たまに違う蜘蛛屋敷に繋がってることもあるぞ」
「それなら……戻って来られなくなるんじゃ……」
ふと、恐ろしい可能性に気が付く。
「いやいや、そう言った場所には、資格がなけりゃぁ辿り着けないよ。この屋敷なら俺の許可、違う蜘蛛屋敷なら、その屋敷の蜘蛛」
「しずれみたいな……?」
「そうそう。テレビでよく見るだろ?ジョロウグモとか、ツチグモとか……力の強い蜘蛛妖怪たちが暮らす屋敷も他にたくさんあるんだ」
「強い……恐い……?」
「怒らせるとな。でもふゆはなら、多分かわいがってもらえるから大丈夫」
そう言うと、しずれがぽふぽふと頭を撫でてくれる。
「妖怪ってのは義理堅い。蜘蛛だってそうだ。同胞を助けてくれたからな」
「それって……」
しずれと、初めて出会ったあの神社の……。
あの頃はまだ、私も小学生だった。
「でも私は、たいしたことはできなくて」
あの毒のような母娘から逃げるように迷い込んだ境内で、私には見えないはずの小さな蜘蛛の妖怪を見付けた。小さな……と言っても妖怪なので、抱っこしたらちょうどよさそうな大きさではあったが。
「それでも、ほんにんは喜んでたからな」
怪我をしていることに気が付き、ハンカチを結んであげた……ただそれだけしかできなかったのに……。しずれは私に同胞を助けてくれたと礼をいい、優しく頭を撫でてくれた。
「あのこは、元気ですか?」
「それなら、ここにいるが」
また、いつの間に付いて来ていたのか、足元のちび蜘蛛ちゃんたちのひとりを、しずれが抱き上げると、私に抱っこさせてくれた。
「さゆちゃん……?」
「ん」
さゆちゃんが嬉しそうにこくんと頷く。
「えっ!?でも、あの時は……蜘蛛の姿でっ」
「あの頃はそうだったな。だが今はヒト型もとれるようになった」
「そう、だったんだ。おっきくなってくれて、嬉しい」
「ん、しゅきっ!」
「私もだよ、さゆちゃん。また出会えて良かった」
さゆちゃんとあの日、神社の境内で出会えなかったら、私もしずれと出会うことがなかった。
そしてこうして今ここで、しずれの花嫁さんになることもなかったのだから。