エピソード5
side東雲唯


 「てかあいつ、なんで課外受けることになったんだ?」

 今日は三人で一緒に帰る約束をしていた。

 でも澪ちゃんは課外を受けることになっため、今日は二人で帰ることにしたのだ。
 
 「なんか今日テストあったみたいで、澪ちゃん合格できなかったんだって」

 うちの高校は進学校だけあって、定期的にテストがある。

 それも突然実施されることもあるから、常に気が抜けない。

 「だからあんなに勉強しろって言ったのに」

 「澪ちゃん曰く勉強のモチベがないんだって」

 「こうなるって分かってたから宮園学園はやめろって言ったのにな。まぁ受かるだけの実力はあるみたいだから、あとは本人の気持ち次第だな」

 確かに。

 入学するために必死で勉強をしていた澪ちゃんなら、やる気さえあればテストは普通に合格できると思う。

 何か澪ちゃんのやる気を出させる方法はないのかな……。

 「あ! そうだ。だったら今日の夜ご飯、澪ちゃんの好きな物作らない?」

 「お! いいなそれ。ちょうど今日親帰り遅いし、今から食材買って帰ろうぜ!」

 私たちは駅の近くのスーパーで夜ご飯の材料を揃えることにした。

 「澪ちゃんの好物といえば、やっぱオムライスかな」

 「だな。じゃあついでに唐揚げも追加で!」

 「それは樹くんの好物でしょ」

 「頼むよー。唯の唐揚げマジで美味いんだもん。代わりにわかめスープ作るからさ!」

 おっ、ラッキー。

 樹くんは料理が壊滅的に下手だ。

 どこをどうすればあんな味になるのか。

 でも何故か樹くんが作るわかめスープだけは美味しかった。

 本人曰く、

 「オレはわかめスープを極めたんだよ」

 との事だった。

 程なくして会計も済ませ、私たちは樹くんの家へと向かった。

 「あ……」

 その時、ひとつのポスターが目に入った。

 「ん? どうした? あぁ、あのポスターな。確か『君に会いたい』っていう映画じゃなかったか?」

 予告編を観てから、ずっと映画館で観たいと思っていた映画だ。

 「うん。予告が流れてきて、ずっと観たいと思ってたんだよね」

 「確か秋ぐらいに公開だったよな? 連れてってやろうか?」

 「え! いやいや申し訳ないし、大丈夫だよ!」

 「いいのいいの。ついでに澪も誘って一緒に観ようぜ」

 樹くん……。

 あんな性格じゃなかったら絶対モテてたよ。

 「ありがとう。せっかくだしお言葉に甘えちゃおうかな」

 「それにしても、ホント唯は恋愛映画好きだよな」

 「いいじゃん! キュンキュンして、観てるだけで幸せな気持ちになれる」

 「でも当の本人は彼氏なしと……。うぅ……同情するぜ」

 そんなことを言いながら頭を撫でてくる。

 樹くんだって彼女がいないくせに。

 こうやって歩いてるところを周りの人が見ると、私たちは恋人同士に見えるのだろうか。

 実際、「何度も二人は付き合ってるの?」「二人はお似合いだね」という言葉をかけられる。

 さっきの先輩たちだってそうだ。

 だけど私は樹くんに対して恋愛感情とか、そういったものは全くない。

 どちらかというとお兄ちゃんって感じ。

 それは多分、樹くんも同じだろう。

 私の事をただの幼馴染、良くて妹くらいにしか思ってないだろう。

 でもそれでいい。

 むしろ付き合うとか、そんな状況の方が気まずくなる。





 「おーい。卵とき終わったよ。あと何すればいい?」

 「あとは私に任せて。樹くんはスープお願い」

 「っしゃ! 任せろ。あ、唐揚げの肉は大きめによろしくな!」

 はいはい。

 全く……。

 これじゃあどっちが歳上か分からないじゃない。

 料理が出来上がった頃、ちょうど澪ちゃんが帰ってきた。

 「ただいまぁ。もう課外なんて一生受けたくない!」

 「おかえり。だから言ったろ? しっかり勉強しとけって」

 「でもぉ……。ん? あれ、なんかいい匂いしない? お母さん早く帰ってきたの?」

 「いや、これは……」

 「あ! 澪ちゃん! おかえりー」

 「唯!?」

 「どうしたの?」と目で訴えかけているのが分かる。

 「澪ちゃん課外頑張ってると思って、私たちで一緒に夜ご飯作ったんだよ!」

 「え! 本当? 嬉しいぃぃぃ」

 全く……。

 気分屋な所まで二人はそっくりなんだから。

 「ほらほら。手洗って早く飯食おうぜ」

 「急いで着替えてくる!」

 そう言って、澪は走って自分の部屋に向かった。

 「じゃあその間にオレたちは準備すっか」

 「そうだね」

 「じゃあ俺机拭いてくるわー」と言いながら樹くんはリビングへ向かった。

 ……結局楽な方選ぶんかい。





 「いただきまーす」

 「んー美味しい!」

 「やっぱ唯の唐揚げ最高だな!」

 「ありがと。スープも美味しい!」

 ご飯を食べ終えると、私たちは一緒に片付けを済ませた。

 「唯ー! 兄貴も、ありがとね!」

 「おう! ところで、宿題とか出たんじゃないのか?」

 「げっ……」と言う澪ちゃんの声が聞こえた。

 「嫌ぁぁぁ!!!」

 「私も手伝うから。一緒に頑張ろ?」

 うるうるした瞳でこちらを見てくる澪ちゃん。

 「ったく、唯はこいつを甘やかしすぎなんだよ」

 そこからは三人で勉強会をした。

 高校生活は楽しいけれど、この気を遣わない関係が一番好きだと改めて感じた。