俺は自分の試合が終わり、セバスチャンと話した後、すぐに試合会場に戻った。そしてすぐに観客席についた。
サユリの試合を観るためだ。
隣にはミランダさんがいる。サユリはミランダさんの元教え子だ。
「サユリの第2試合目ですね」
「ええ」
これからサユリとギスタンの試合がある。
すでにサユリとギスタンは武闘リングの上に上がっていた。サユリは今日も袴という衣装を着ていた。
サユリの体格は、身長154センチ、体重48キロ。
ギスタンは身長177センチ、体重80キロ。まるでオーク族のような体格だ。
すさまじい体格差だ!
「ギスタンはセバスチャン・トレーニングジムから離れていったけど、真面目な武闘家よ」
「なぜ、離れていったんですか?」
「セバスチャンの教え方、指導の仕方に問題があったようね。それに反感を持った」
俺はセバスチャンの弟子である、さっきのシュライナーとの試合を思い出していた。シュライナーは要所要所で頭突きの反則技を繰り出した。
あれがセバスチャンの指導通りだとしたら……!
セバスチャンの弟子であるサユリは……?
カーン
試合開始のゴングが会場内に響いた。マスコミも心なしか多い。
さて、リング上のギスタンは、目の前のサユリに向かって口を開いた。
「女だからって容赦しないぜ。あんたの先生──セバスチャンの指導は、完全に間違っている。俺が正してやる」
ギスタンが言うと、サユリは無表情で言葉を返した。
「いえ、正しいのは私たち、セバスチャン先生の生徒です」
ギスタンはギリリ、と歯噛みした。
「いくぜえっ」
ギスタンは左ジャブを放っていった。
ガスッ
「ブフッ」
いきなりだ!
ギスタンが声を上げてのけぞる。あ、当たったのは……サユリの拳! い、いつの間にサユリはパンチを放ったんだ?
左ジャブと合わせるように、サユリの直突きが、ギスタンの鼻に当たっていた。直突きとは、腰をあまり回転させず、拳を縦方向に出す打撃法のことだ。
「こ、このおっ!」
ギスタンの左フック!
ベキッ
「グヘ」
またしても、ギスタンがのけぞる。
サユリの直突きが決まっていたのだ。
直突きの方が、モーション、動作が早いため、サユリのパンチが決まってしまう──。しかもカウンターで……!
すると──。ギスタンの突き上げるような左アッパー!
ゴスッ
しかし、これもまたサユリの直突きが、ギスタンの鼻に当たっていた。
ギスタン……! 鼻血だ!
審判団が少しざわついたように見えた。
サユリは近づき、ギスタンのアキレス腱を、自分の足でひっかけ、転ばせた。
そして……。
ウオオオオッ……。
観客たちがざわめいたし、俺も驚いた。
サユリは──倒れたギスタンの腹の上に乗り、馬乗り状態になった!
「う、うわあっ! 馬乗りだぜ!」
「お、女の子が屈強な男に馬乗り? ありえねえ!」
「信じられないシーンだ!」
ベキッ
ガスッ
サユリは無表情で、ギスタンの鼻に馬乗りからのパンチを叩き込んでいく。
ギスタンは馬乗りから脱出しようとするが、サユリは絶妙なバランス感覚で、ギスタンを逃さない。
「サユリの体重移動よ」
ミランダさんは俺に説明した。
「サユリはギスタンの逃げようとする方向を、直感で先読みしている。馬乗りしながら、細かい体重移動をしているの。絶対に、ギスタンを逃さないつもりよ」
しかし、サユリの体重は48キロだぞ!
ギスタンは75キロある。
体重の軽い女の子が、男に馬乗りになってパンチを落としている。
こ、こんなことがありえるのか?
ガスッ
ゴスッ
ベキッ
サユリがパンチを落とすごとに、ギスタンの鼻血が飛ぶ。サユリとギスタンは血まみれ状態だ。サユリは馬乗りパンチでも、相手の急所を的確にとらえて打っている。
またしても、ギスタンは必死に、サユリの馬乗りから逃れようとする。
しかし、サユリはギスタンの逃亡を、まったく許さない。恐ろしいまでの正確な体重移動で、ギスタンの逃亡能力を殺してしまうのだ。
見ている方が信じられない。
ゴスウッ
サユリのパンチが、ギスタンのアゴに当たった! ギスタンもう、抵抗能力を失っている。……が、しかし。
サユリは無表情で、ギスタンの額に肘を落としていく。 ギスタンは額を切ったようだ。
ガスッ
ガスッ
そのたびに、サユリとギスタンは血まみれになる。
「や、やめ……やめて」
ギスタンは女の子のサユリに訴える。しかし、サユリは攻撃を続ける。まるで──。
サユリ──鬼だ!
「お、おい……」
「やべえ試合になった」
「あの女の子、やべえ……かわいいけど……」
その時だ。
カンカンカン!
とゴングの音が鳴ったと同時に、白魔法医師たちが、リング上に上がり込んできた。
「試合の決着はついた! サユリ、やめろ! 君の勝ちだ!」
『5分19秒、ドクターストップ勝ちで、サユリ・タナカの勝ち!』
放送がかかった。
ウオオオッ
「マジか」
「強ぇ~」
「サユリ、かわいくてやべえええ!」
観客たちが騒いでいる。
しかし、サユリは打撃をやめようとしない。お、おい、どうなってんだよ!
「サユリ、もうやめろ!」
白魔法医師が、サユリを引きはがそうとする。
そこでようやく、サユリは馬乗りパンチの手を止めた。サユリの体は血まみれだ。
馬乗りになって、六発目の馬乗りパンチで勝負はついていた。しかし、サユリはそれでもなお、肘を叩き落していた……。
俺はミランダさんに言った。
「こ、これが……サユリの真の姿ですか?」
「ええ」
ミランダさんは席を立つと、リングを下りたサユリを腕組みして待ち構えた。
「やり過ぎよ、サユリ!」
「……ミランダ先生」
サユリは悩んでいるような、苦しんでいるような顔で、ミランダさんを見た。
そうか、サユリはもともと、「ミランダ武闘家養成所」にいたんだっけな。
ミランダさんは、怒ったように、それでいて静かにサユリに言った。
「相手は戦意喪失していた。でもあなたは非情にも、攻撃を続けた。これがあなたが求める、武闘家の精神なの?」
「これがセバスチャン先生の方針だから」
サユリはそっぽを向いて言った。
「サユリッ!」
ミランダさんが怒鳴ると、サユリはビクッと肩をすくめた。ミランダさんは続けた。
「あなたは私の元教え子。だから言うわ。あなたは強い。だけど、心の使い方が間違っているようね!」
サユリはうつむいて、花道を通り、控え室に帰っていく。俺はサユリが気になり、サユリの後を追った。
廊下には、セバスチャンが待っていた。
「よくやった、サユリ」
セバスチャンはサユリの頭をなでた。
「しかし、あの程度かね? 君は」
「え、いえ……」
「もっと相手を叩きのめさないといけない。相手が私たちに、二度と歯向かう気持ちがなくなるまでだ!」
「え、ええ。で、でも、あれ以上やったら……ギスタンさんが……」
「ギスタンなど、破壊してしまえ! 対戦相手は、すべて破壊しろ!」
セバスチャンが厳しく言うと、サユリは肩をすくめ、「はい」とうなずいた。血まみれの顔が、少し泣いているように見えた。
するとセバスチャンは俺に気付き、声をかけてきた。
「ゼント君、これがセバスチャン流の格闘術だよ」
俺はだまっていた。
セバスチャン! 相手を無駄に叩きのめすのが、お前のやり方なのか?
セバスチャンから──サユリは間違った教えを受けている。
「さあ、次の試合は、私と君の友人、ローフェンの試合だ! どうなるのかな?」
……俺は拳をぎゅっと握りしめた。ローフェンなら、こんな野郎をぶっとばしてくれるに違いない……!
サユリの試合を観るためだ。
隣にはミランダさんがいる。サユリはミランダさんの元教え子だ。
「サユリの第2試合目ですね」
「ええ」
これからサユリとギスタンの試合がある。
すでにサユリとギスタンは武闘リングの上に上がっていた。サユリは今日も袴という衣装を着ていた。
サユリの体格は、身長154センチ、体重48キロ。
ギスタンは身長177センチ、体重80キロ。まるでオーク族のような体格だ。
すさまじい体格差だ!
「ギスタンはセバスチャン・トレーニングジムから離れていったけど、真面目な武闘家よ」
「なぜ、離れていったんですか?」
「セバスチャンの教え方、指導の仕方に問題があったようね。それに反感を持った」
俺はセバスチャンの弟子である、さっきのシュライナーとの試合を思い出していた。シュライナーは要所要所で頭突きの反則技を繰り出した。
あれがセバスチャンの指導通りだとしたら……!
セバスチャンの弟子であるサユリは……?
カーン
試合開始のゴングが会場内に響いた。マスコミも心なしか多い。
さて、リング上のギスタンは、目の前のサユリに向かって口を開いた。
「女だからって容赦しないぜ。あんたの先生──セバスチャンの指導は、完全に間違っている。俺が正してやる」
ギスタンが言うと、サユリは無表情で言葉を返した。
「いえ、正しいのは私たち、セバスチャン先生の生徒です」
ギスタンはギリリ、と歯噛みした。
「いくぜえっ」
ギスタンは左ジャブを放っていった。
ガスッ
「ブフッ」
いきなりだ!
ギスタンが声を上げてのけぞる。あ、当たったのは……サユリの拳! い、いつの間にサユリはパンチを放ったんだ?
左ジャブと合わせるように、サユリの直突きが、ギスタンの鼻に当たっていた。直突きとは、腰をあまり回転させず、拳を縦方向に出す打撃法のことだ。
「こ、このおっ!」
ギスタンの左フック!
ベキッ
「グヘ」
またしても、ギスタンがのけぞる。
サユリの直突きが決まっていたのだ。
直突きの方が、モーション、動作が早いため、サユリのパンチが決まってしまう──。しかもカウンターで……!
すると──。ギスタンの突き上げるような左アッパー!
ゴスッ
しかし、これもまたサユリの直突きが、ギスタンの鼻に当たっていた。
ギスタン……! 鼻血だ!
審判団が少しざわついたように見えた。
サユリは近づき、ギスタンのアキレス腱を、自分の足でひっかけ、転ばせた。
そして……。
ウオオオオッ……。
観客たちがざわめいたし、俺も驚いた。
サユリは──倒れたギスタンの腹の上に乗り、馬乗り状態になった!
「う、うわあっ! 馬乗りだぜ!」
「お、女の子が屈強な男に馬乗り? ありえねえ!」
「信じられないシーンだ!」
ベキッ
ガスッ
サユリは無表情で、ギスタンの鼻に馬乗りからのパンチを叩き込んでいく。
ギスタンは馬乗りから脱出しようとするが、サユリは絶妙なバランス感覚で、ギスタンを逃さない。
「サユリの体重移動よ」
ミランダさんは俺に説明した。
「サユリはギスタンの逃げようとする方向を、直感で先読みしている。馬乗りしながら、細かい体重移動をしているの。絶対に、ギスタンを逃さないつもりよ」
しかし、サユリの体重は48キロだぞ!
ギスタンは75キロある。
体重の軽い女の子が、男に馬乗りになってパンチを落としている。
こ、こんなことがありえるのか?
ガスッ
ゴスッ
ベキッ
サユリがパンチを落とすごとに、ギスタンの鼻血が飛ぶ。サユリとギスタンは血まみれ状態だ。サユリは馬乗りパンチでも、相手の急所を的確にとらえて打っている。
またしても、ギスタンは必死に、サユリの馬乗りから逃れようとする。
しかし、サユリはギスタンの逃亡を、まったく許さない。恐ろしいまでの正確な体重移動で、ギスタンの逃亡能力を殺してしまうのだ。
見ている方が信じられない。
ゴスウッ
サユリのパンチが、ギスタンのアゴに当たった! ギスタンもう、抵抗能力を失っている。……が、しかし。
サユリは無表情で、ギスタンの額に肘を落としていく。 ギスタンは額を切ったようだ。
ガスッ
ガスッ
そのたびに、サユリとギスタンは血まみれになる。
「や、やめ……やめて」
ギスタンは女の子のサユリに訴える。しかし、サユリは攻撃を続ける。まるで──。
サユリ──鬼だ!
「お、おい……」
「やべえ試合になった」
「あの女の子、やべえ……かわいいけど……」
その時だ。
カンカンカン!
とゴングの音が鳴ったと同時に、白魔法医師たちが、リング上に上がり込んできた。
「試合の決着はついた! サユリ、やめろ! 君の勝ちだ!」
『5分19秒、ドクターストップ勝ちで、サユリ・タナカの勝ち!』
放送がかかった。
ウオオオッ
「マジか」
「強ぇ~」
「サユリ、かわいくてやべえええ!」
観客たちが騒いでいる。
しかし、サユリは打撃をやめようとしない。お、おい、どうなってんだよ!
「サユリ、もうやめろ!」
白魔法医師が、サユリを引きはがそうとする。
そこでようやく、サユリは馬乗りパンチの手を止めた。サユリの体は血まみれだ。
馬乗りになって、六発目の馬乗りパンチで勝負はついていた。しかし、サユリはそれでもなお、肘を叩き落していた……。
俺はミランダさんに言った。
「こ、これが……サユリの真の姿ですか?」
「ええ」
ミランダさんは席を立つと、リングを下りたサユリを腕組みして待ち構えた。
「やり過ぎよ、サユリ!」
「……ミランダ先生」
サユリは悩んでいるような、苦しんでいるような顔で、ミランダさんを見た。
そうか、サユリはもともと、「ミランダ武闘家養成所」にいたんだっけな。
ミランダさんは、怒ったように、それでいて静かにサユリに言った。
「相手は戦意喪失していた。でもあなたは非情にも、攻撃を続けた。これがあなたが求める、武闘家の精神なの?」
「これがセバスチャン先生の方針だから」
サユリはそっぽを向いて言った。
「サユリッ!」
ミランダさんが怒鳴ると、サユリはビクッと肩をすくめた。ミランダさんは続けた。
「あなたは私の元教え子。だから言うわ。あなたは強い。だけど、心の使い方が間違っているようね!」
サユリはうつむいて、花道を通り、控え室に帰っていく。俺はサユリが気になり、サユリの後を追った。
廊下には、セバスチャンが待っていた。
「よくやった、サユリ」
セバスチャンはサユリの頭をなでた。
「しかし、あの程度かね? 君は」
「え、いえ……」
「もっと相手を叩きのめさないといけない。相手が私たちに、二度と歯向かう気持ちがなくなるまでだ!」
「え、ええ。で、でも、あれ以上やったら……ギスタンさんが……」
「ギスタンなど、破壊してしまえ! 対戦相手は、すべて破壊しろ!」
セバスチャンが厳しく言うと、サユリは肩をすくめ、「はい」とうなずいた。血まみれの顔が、少し泣いているように見えた。
するとセバスチャンは俺に気付き、声をかけてきた。
「ゼント君、これがセバスチャン流の格闘術だよ」
俺はだまっていた。
セバスチャン! 相手を無駄に叩きのめすのが、お前のやり方なのか?
セバスチャンから──サユリは間違った教えを受けている。
「さあ、次の試合は、私と君の友人、ローフェンの試合だ! どうなるのかな?」
……俺は拳をぎゅっと握りしめた。ローフェンなら、こんな野郎をぶっとばしてくれるに違いない……!