俺は不良少年のデリック、レジラーと、路上で闘った。

「ゼント! 覚えてやがれ!」

 ガシャッ!

 デリックはまた、路上の立て看板を蹴っ飛ばした。そして、レジラーの肩をかついで、村の外に行ってしまった。

 そして今──俺を、デリックにからまれていたブルビーノ親父は、不思議そうに見ている。

「ゼント……どこかで聞き覚えがあるような……」

 野次馬──ここマール村の村人たちは声を上げだした。

「……ゼント! そうか!」
「あ、あのゼントか? 20数年前、村の大勇者ゲルドンからパーティーを追い出されて、村に帰ってきた、あのゼント?」
「ほ、本当かよ?」

 野次馬が騒いでいる横で、ブルビーノ親父は黙って呆然としていた。

 すると──。

 ブルビーノ親父は、俺に向かってズンズンと突進してきたのだ!

(げ、げえええっ! 20年前みたいに、銀トレーを投げつけられる?)

 俺は逃げる用意をした。そして、ブルビーノ親父は──。

 グワシッ

 両手で俺の肩を掴んだのだ! な、投げられる?

「お、お前……ゼントだったのか? み、見違えたぜ。大人になっちまったな……」

 ブルビーノ親父が、俺を驚いたように見ているので、俺は答えた。

「あ、ああ。20年も経っているから、36歳になってるよ」
 
 俺はしぶしぶ答えた。俺は、いつでも逃げられるように身構えた。

「あ、ありがとう! ゼント!」

 ブルビーノ親父は、道端に両ひざをついた。そして──何と、俺に土下座をした。
 お、おいっ……。

「お、思い出したんだ。20年前、お前に銀トレーを投げつけて、パン屋から追い出したことを。お前をゲルドンの裏切者だと(うたが)って、村人全員でお前を()け者にしたことを! ──済まなかった、済まなかったあああああ!」

 ブルビーノ親父は土下座してまた叫んだ!

 ひええ~。皆、見てるよ……。と、とにかく場をおさめよう。

「いや、とにかく、ブルビーノ親父。土下座はやめてくれ」
「こうしなくちゃ気が済まねえんだよ!」
「わ、わかったわかった。ゆるすって」

 野次馬たちは感嘆の声を上げた。

「ゼント……成長したな。心の広いヤツだ」
「あんな男が、この村にいたとはなあ」
「見上げた男だぜ」

 皆で俺をほめてくれている時、その野次馬の後ろから、誰かがあわててやってきた。

「お、おい! 本を売ったあんたと嬢ちゃん、今から俺の店に来てくれ!」

 質屋の店主だ。俺の周囲に野次馬がたくさんいるので、驚いている。

「お、お前ら、何集まってんだ? い、いや、そんなことより、すごいことが起こったんだ。すぐに俺の質屋に来てくれ!」

 俺とアシュリーは顔を見合わせた。
 
 俺とアシュリーは、質屋の店主に連れられて、彼の質屋に戻った。すると……。

 質屋には見覚えのないじいさんたちが、三、四人集まってきていた。着ている服が高級なものだから、金持ちなんだろう。
 どうやら、この村の人たちじゃないらしい。何者だ?

「き、君かね? これらの本の持ち主は!」

 じいさん集団のリーダーと思われる長髪のじいさんが、開口一番、レジの上の、俺が持ってきた本を指差した。

「そ、そうですけど、それが何か……」

 ガシイッ

 長髪のじいさんが、俺の肩をガッシとつかんだ。

(うわっ! やばい! このじいさん、力が強いぞ!)

「──す、すごい本ばかりじゃないか!」

 へ?

 長髪のじいさんは言った。今日は、よくおっさんに肩をつかまれる日だな……。

「君、こんな本を、どこで手に入れたんだ? 私たちは村から村をめぐって旅をしている古書マニアだが、こんなすごい貴重な本は、噂でしか聞いたことがなかったぞ!」

 俺は呆然としていたが、アシュリーは、「そうでしょ」という風に、胸を張っている。
 長髪のじいさんは俺に言った。

「ど、どうだろう、これらの本を75万ルピーで、私が買い取りたいのだが」
「え? な、ななじゅうごまん……?」

 あまりの高額料金に、俺は一瞬、頭がくらっとなった。

「えっ? お、お気にめさなかったか? じゃあ、100万ルピーで!」

 俺たちは夢みたいな気持ちで、それを承諾(しょうだく)した。何と現金で100万ルピーを手に入れてしまった。老人から手渡された封筒には、お札の分厚い束が入っている。

 俺たちは夢見心地で、質屋を出た。

「す、すごい幸運です! ゼントさんは幸運の持ち主です!」

 アシュリーは開口一番、言った。

「え? そ、そうか?」
「はい! 不良もやっつけちゃうし、本も高額で売れちゃうなんて! ゼントさんには、神様がついてらっしゃるのかも!」

 うーん……これはマリアが言っていたスキル『神の加護』のおかげなのか。

 さて、さっそくアシュリーの故郷、ルーゼリック村に行こう! 
 
 俺とアシュリーは村の外で馬車を呼び、乗せてもらうことにした。ルーゼリック村までの金額は、八万ルピー。山を越えるまあまあの旅行だ。しかし、お金は全然余裕で払える。

 御者は、「や、山を越えるんですかい? こりゃ一仕事だ」と驚いていた。

 そして俺はそのルーゼリック村で、とある人物と、奇跡の再会を果たすことになる!