俺は、不良少年のデリックを、掌底(しょうてい)(手の平の下部を使った打撃技)で倒した。しかし、今度はデリックの仲間のレジラーが、俺に組みついてきた。

「うおらああっ!」

 レジラーは組み技の力が強い! そうか、組み技系の武闘家(ぶとうか)か。俺を強引に倒してきた!

 俺は地面に倒され、レジラーは俺に馬乗りになった。

「どうだあっ」

 レジラーは声を上げる。しかし、俺はまったく動じなかった。レジラーの馬乗りはバランスが悪い。

 俺は上半身に力を込める。せーの……勢いをつけて……!

 ゴロリ──回転!

「あっ!」
「すげえ」

 野次馬たちが騒いだ。

 俺とレジラーは体勢が逆転した──! 今度は俺が馬乗りになったのだ。

 うおおおっ……。大騒ぎする野次馬たち。

「どうなってんだ?」
「回転したぞ」
「レジラーの、馬乗り状態のバランスが悪かったんだ」

 今、俺がレジラーの胴に、馬乗り状態になっている。逆転だ!

「そ、そんなバカな!」

 レジラーは目を丸くし、あわてて両腕を使い、暴れた。すぐに、俺の馬乗りから逃げ出した。まるで小動物のような動きだ。素早い。でも、顔が真っ青だ。

「お、おい! お前──何モンだ?」

 レジラーは立ち上がって、身構えながら俺に聞いた。

「俺は──ゼントだ!」
「ゼント──? くそ、何なんだよ。わけわからねえ。俺は組み技系トーナメントの学生大会五位だぞ」

 レジラーは(すき)を見つけたのか、また組みついてくる。しかし、俺はその組みつきの弱点を、なぜか──知っていた。

 ここだ!

 レジラーが組みついてきた瞬間、ヤツの頭の横──側頭部を両手で押す!
 するとレジラーはバランスを崩し、地面に片ひざをついた。

「ぐ、おおおっ?」

 レジラーは立ち上がり、もう一度、組みついてくる。まるで猛牛だ! しかし俺は、再びヤツの頭の横──側頭部を両手で押して、ヤツを突き放した。

「くっ」

 レジラーは両ひざに手をやり、息をついて、驚いたようにオレを見た。

「お、お前……」

 レジラーは言った。

「組みつきタックルの『切り方』も知ってるのか? お、お前、本当に引きこもりか?」

 レジラーは驚きの顔だ。

「だが、今度は本気出すぜ!」

 レジラーは思い切り突進してきた。また組みつきか? いや違う、今度は体勢が低い! 俺の両ひざをねらった、両足タックルだ!

 だが、俺はそれも読んでいた。

 ガツン

 俺は右ひざを出していた。その右ひざは──レジラーの顔に直撃した。右ひざ蹴りだ!

「ぐ、ご」

 レジラーはよろける。だが、彼も根性があるようだ。フラフラの状態で、立ち上がる。

「く、おのおおおっ」

 レジラーは俺に殴りかかってきた。

 ここだ!

 俺は一歩踏み出し、レジラーが接近してくる瞬間──。

 ガスウウッ

 彼のアゴに、右ストレートパンチ──カウンターパンチを叩き込んでいた。
 しかし、レジラーは倒れない! タフだ!
 
 だが──。勝機は見えた!

 ガゴッ……

 俺の大振りの左掌底(ひだりしょうてい)! 手の平の下部を使った打撃技だ!

 俺は彼の左頬(ひだりほお)に、左フック掌底(しょうてい)を叩き込んだ。

「あ、が……な、なん……お前……」

 彼は倒れる。

「うおおおっ!」
「すげえ……!」
「完璧……!」

 野次馬から歓声が上がる。

 俺は自分で驚いていた。どうして俺は、こんな動きができるんだ? レジラーは素人ではなかった。組み技系の武闘家(ぶとうか)だった!

 しかし、俺はそれを倒してのけたのだ……。

「ひいい!」

 声を上げたのは、レジラーとの闘いを呆然と見ていた、デリックだった。

「は、はやく帰ろうぜ!」

 デリックはレジラーの肩をかし、よろよろと歩いていった。

「お、おい。病院行けよ」

 俺はそう言ったが、「うるせえ!」とデリックは声を上げた。レジラーもフラフラしながら、デリックの肩を借りながら、向こうの村の入口の方に歩いていった。

「あ、ありがとうございます!」

 声を上げたのは、デリックにからまれたブルビーノ親父だった。

「あ、あなたのお名前は?」
「お、俺? 俺は、あー……ゼントだけど。ゼント・ラージェント」
「は? ゼント……どこかで聞いたような……?」

 ブルビーノ親父も、周囲の野次馬も、不思議そうな顔をして俺を見ていた。やがて──「もしかして……あのゼントか?」そう声が上がり始めた。

 そう、村人たちは、二十年の時を越えて、俺のことを思い出し始めていた。