ひょっとして……と思うのと同時に、体が揺れるほどの頭痛に襲われ悲鳴をあげてしまった。

梨央奈が椅子ごと隣の席に移動し、私の肩を抱き寄せた。

「こんな話をしてごめん。でも、みんな、実月に助けられたんだよ。あたしだってそう、たくさんの友だちがいることを教えてもらった」

鼻声の梨央奈。瞳も葉菜も顔をゆがませている。芳賀先生は、じっと私の顔を観察している。

「……私は」カラカラの声がこぼれた。

「ひょっとして……私も、なにかを夢だったことにしているの?」

思い出そうとしても、頭痛はどんどん激しくなっている。

だけど、だけど――みんながそうしたように私も自分の記憶と向き合いたい。

ギュッと目を閉じると、この数カ月間の出来事が脳裏に流れた。

交わす会話のなかに違和感がなかったといえばウソになる。引っかかることがあっても、見ないフリをしてきた。

閉じていた心の目を開けよう。

私が見ようとしなかった現実をしっかりと見つめたい。

頭のなかにふわりと映像が浮かぶのと同時に席から立ちあがっていた。

「ウソ……」

その映像は消えることなく、次の場面を映し出す。

「え、ウソでしょう。なにこれ……」

ぐらんと床が揺れた気がした。違う、自分の体から力が抜けているんだ。

足を踏ん張って耐えた。けれど、私が見ようとしてこなかった現実は、ダムが決壊したように次々に押し寄せてくる。

「実月!」

梨央奈が私の手をつかんだ。

「梨央奈……瞳、葉菜」

その名をうわごとのように呼ぶ。みんなは知っていたんだ。私が見てこなかった世界をとっくに知ってたんだ。

「思い出した?」

芳賀先生の言葉にうなずきながら、指先がおもしろいくらい震えていることに気づいた。手のひらがいつの間にか、窓からの青い光でキラキラ輝いている。

「私……行かなくちゃ」

「一緒に行きます」「私も」

やさしい瞳と葉菜に首を横にふった。

「大丈夫。ひとりで行く。ちゃんと向き合わなくちゃ」

「そうだね」

梨央奈が静かに言った。

「あたしたち、ここで待ってるよ。だから、行っておいで」

梨央奈がトンと背中を押してくれた。中腰だったふたりもゆっくり席につく。

芳賀先生はなにも言わず、力強くうなずいてくれた。

教室を飛び出すと、窓の向こうに落ちそうなほど大きな満月が青く光っていた。