“俺”はそのうち何も思わなくなった。生徒や先生が俺に平伏すのは当たり前、そうしないやつはお祖父様の力を使って捻り潰す。三年に上がりクラス替えがあった。今まで見たこともないやつが同じ空間にいた。そればかりか俺に友達にするそれと同じように接してくるやつがいた。“山田大雅”こいつは俺に敬語を使わない。そして俺に馴れ馴れしく触れてくる。今朝には「おっはよう遥!」と後ろから背中を叩かれた。周りの奴らが慌てて山田を咎めようとしたのを俺は何故か止めていた。憎らしいことに山田はそれがわかっていたかのようにニッと笑うのだ。終礼前俺が帰る支度をしてると山田がやってきて言った。
「遥ー、この後暇?」
俺は肩に置かれた手を振り払い
「貴様と関わる時間などない。」
と言った。すると山田はいつも通りニッと笑って言った。
「花火するんだ、行こうぜ。」
俺は断れなかった。誰か同じように俺を誘ってくる奴がいたようなそんな気がしたからだ。俺は初めて学校から徒歩で帰った。学校を出る前俺は今日は歩いて帰ると新垣に電話した。新垣は止めていたが俺は構いなしに電話を切った。山田は俺を近くの空き地に連れて行った。そこには見覚えのある者も何名かいた。皆俺に気づくと手を止めて頭を下げた。俺はそれをやめさせて今日この時間だけは俺を友達だと思って接しろと命令した。皆は怖がって近づいて来ないにも関わらず山田は俺に近寄ってきて花火を渡した。俺は慣れた手つきでそれを着火している自分に気付き驚いた。
「遥さー、本当はこーゆーのやってみたかったんじゃないの?」
上から山田の声が降ってきた。俺は否定できなかった。脳裏にあの二人の姿がよぎったからだ。俺は電話をかけて車を呼んだ。別れ際にじゃあなと言っている自分に驚きながらも車に乗り込み、新垣に故郷に向かえと命じると新垣は首を振って謝罪した。なので俺は静止を振り切って車を降り、駅に向かった。電車に飛び乗り、あの街へ向かった。
 “僕”は駅に着くと二人のいる学園まで全速力で走った。今ならまだいるかもしれないそう思ったのに学園に着くと門は閉まっていた。
「クソッ!」
僕はそう叫んでUターンした。二人の家まで行けば会えるだろうと思ったのだ。家に向かっているとちょうど二人が歩いているのが見えた。息が上がって心臓が痛い。ここしばらく安静に過ごしてきたから忘れていたが僕は体が弱いのだった。でもここで意識を失うわけにはいかない、そう自分を鼓舞して叫んだ。
「涼!!遥希!!」
二人がこちらを振り返った。「遥?」そう遥希が言ったのが僕には聞こえた。よかった、覚えていてくれた。僕は走り寄ると呼吸を整えた。涼が背中をさすってくれて、息を整える間に僕は涙が溢れてくるのを感じた。
「ごめんっ!!僕あの時すっごいひどいこと言った。二人は僕のこと友達だと思って信じてくれていたのに、僕は二人を信じてなかった。ごめん!」
頭を下げると内臓が圧迫され意識が飛びそうになった。しかし遥希の一撃で意識がハッキリした。背中を全力で叩かれて僕は顔をあげた。遥希は泣いていた。
「バカ!この258日間どこ行ってたの!?いきなりいなくなって、ごめんなさいも言えないでお別れなんてひどいじゃん!」
涙をボロボロと流しながら遥希はポカポカと僕を殴る。ここ最近ではあり得ない光景に僕は自然と頬が緩む。僕は咄嗟にギュッと遥希を抱きしめた。涼も手探りで手繰り寄せ一緒に抱きしめた。
「僕、祖父の屋敷に連れてかれてて、今たぶん探されてる。」
そう言うと涼がブッと吹き出して笑った。
「そりゃ傑作だ。戻るのか?」
僕はゆっくりと首を振った。そして悪戯っぽく笑うと二人の目を見てから言った。
「やっぱりこっちがいいよ。僕きちんと闘ってくる。骨は拾ってくれるよね?」
そう言い残して“俺”は電車に乗って屋敷に帰った。
 俺が屋敷に着くと新垣が腫れ上がった頬を押さえながら門を開けてくれた。俺はそのままお祖父様の執務室に通された。使用人は皆人払いされ、俺とお祖父様の二人だけになった。お祖父様は俺が謝るのを待っているようで、何も言わなかった。なので俺は失礼しますと言ってお祖父様の近くに寄った。すると素早い動きでねじ伏せられ、気づいたら俺は床に固められていた。俺はお祖父様が幼い頃から柔道を嗜んでいたことを思い出した。
「申し訳ございません、、、。」
今度は何度謝っても離してくれなかった。そこで俺は力で退かした。柔道経験者とはいえ年寄りの力は弱かった。
「老いたな、爺ちゃん。」
俺は殴られるのを承知で馴れ馴れしく言った。でも爺ちゃんは何も言わなかった。
「俺はこの家が嫌いなわけじゃないから潰れるのは嫌だけど俺が社長になるのは違うと思う。俺は故郷で仲間と暮らす。だから、帰る。」
僕がそう言って出て行こうとすると爺ちゃんは待てと止めた。振り返るとなんだか爺ちゃんがとても小さく見えた。背が丸まり、小さくなった爺ちゃんは手を振って僕を呼ぶと
「私は初めに娘を失った。そして息子も二人とも失おうとしている。孫まで失いとうはないんじゃ。」
と僕の手を掴んだ。僕は爺ちゃんの変わりように驚いた。それでも僕の決意は変わらない。僕を待っていてくれる人がいる限り、応援してくれる人がいる限り僕は故郷に帰る。僕は爺ちゃんの手を上からさすりそっと引き剥がした。
「絶交ってわけじゃないよ、僕は覚えてるよ?親戚皆で集まって宴会したのを。また皆を呼んでね爺ちゃん。」
僕はそう言って離れた。出て行き際に言った“次は仲間と来るよ”の言葉は聞こえただろうか?荷物はまた帰る日のために置いてきた。僕は陽が傾く中故郷への道を歩み出した。新垣は最後まで車で送らせてくれとうるさかったけど僕はやっぱり電車が好きだ。