その日、夏谷家に歌夜(かや)がやって来た。
 歌夜の家は代々神社の神主をしているので歌夜も普通の人よりは霊力が高い。
少し前、憑き物に襲われているところを兄さまに助けられて仲良くなった。
「どうしたの?もう夜の六時だよ?」
少し明るいとはいえ、現在の時刻は六時をまわっていた。
「憑き物の目撃情報があったから教えようと思って」
「ありがとう!」
 リビングに招き、プリンを出す。プリンは私の大好きな食べ物。
「数回しか来ていないけど、変わってるね〜」リビングを見渡しながら歌夜が言う。
「そう?」
 別に普通の家だと思うんだけど。
「だって、憑き物落としを専門としてる家なのに普通の家だったから驚いたよ」
へ、、、普通の家だから驚くの?
「だって私が想像していたのは、石造りの外壁、照明はロウソクだけ、あとは、、、ご飯が紫色の禍々しい何か。離れの立派な建物は占いの館って聞いた時は驚いたよ」
 偏った想像に言葉が出ない。歌夜って、憑き物落としを魔王とでも思っているのかな、、、?占いの館は主に無料で訪れた人を占うだけなんだけど、、、。
『どんな偏見だよ』兄さまも呆れていた。
そして、忘れてた!と歌夜がやっと本題に入る。
「ここ最近、かなり強力な憑き物の目撃情報があったの。でも、裏取りをしているうちに忽然と姿を消して、その後の情報が掴めなくて、、、」
 もしかすると、、、
「その憑き物は姿を隠す為に人に憑依した?」
恐る恐る呟く。人に憑依することは憑き物にとって祓われない一番の安全であり、かつ手っ取り早い。
『そうかもしれないし、違うかもしれない』
兄さまは否定も肯定もしなかった。まだ確証が掴めないからだろう。
「その憑き物を追っていて分かったことがあるんだけど、、、」歌夜は言いにくそうに口ごもる。
「どうしたの?」
「その憑き物はね、、、その、、、特定の物にのみ、自分を憑依させることが出来るの」
「、、、え?」
『、、、まさか』
 特定の物にのみ、自分を憑依させることが出来る、、、?
思い浮かぶのは時雨くんが持っていた指輪。
 「流石に、、、それはないよね、、、。時雨くんは祓い屋だし、その憑き物もわざわざ自分を祓う人をターゲットにする訳がないし」
『いや、彼奴はまだ未熟者だ。それに加え霊力が高い。霊力が高い人は狙われやすくなる、、、格好の獲物って訳だ』
 歌夜が帰って行った後、時雨くんに電話をかけた。
「もしもし、時雨くん!今日見せてもらった指輪のことなんだけど、その指輪に憑き物が憑依しているかもしれないの!だから、今すぐそれを外して!!」
 早口で聞き取れなかったのかもしれないが、一秒でも早く伝えたかった。
【ちょ、、、早すぎて聞き取れなかった。もう一度お願い、、、】
「その指輪は憑き物が憑依している可能性があるから、外してほしい!!」
【わ、、、分かった、、、。外すよ、、、】
 明日学校で渡してくれるらしいので、その日は何も心配せずに眠りについた。指輪を回収したらちゃんとお祓いしてから歌夜に渡そう、、、。