「玲央、どうか、、、」
「五月蝿い。黙れ、今更母親ヅラするな」どうかしたの?という言葉を遮って、悲しそうな目をするババァに冷たい視線を向ける。本当なら話したくないし、同じ空間にいることにも虫酸(むしず)が走る。
 真央のことを放っておいたくせに、真央のことを罵ったくせに、真央を否定したくせに、、、オレには普通に接するのかよ。
『兄さま、、、』
 ババァの作った朝食を食べずに学校へ向かう。腹が減ればコンビニか何処かで買えば良い。
『兄さま、、、謝ろうよ?』
「謝らない」
『お母さん、、、悲しんでいたよ』
「お前を苦しめた奴に謝罪なんか死んでも御免だ」
『兄さま!』
「お前は何も気にしなくて良い」
『でも、、、』
「オレがずっと、守ってやる」
 オレの生まれた時からの役目は妹を守ること、自分にそう誓った。
「真央、愛してる」
『、、、兄さま、、、』
オレの気持ちを知らない真央は、、、とても無邪気だと思う。
愛してると何度言っても、大好きだと何度言っても、気が付かない。気付いてほしいと思う反面、気付かないでほしいと矛盾した願いもある。
(さて、、、あの祓い屋を調べないとな)
男子数名の輪の中に入って楽しそうに会話している祓い屋の少年を凝視する。
「オレから真央を奪おうとするのはお前か」
 何時も通りに憑き物を凍らせ、魂ごと破壊した後、待っていた人が来る。
「、、、やっと来た」
 祓い屋の少年はオレを見て刀に手をかける。これは相当、警戒しているな。
「真央さん、、、貴方は憑き物落としの家系ですね?」
「オレは玲央。真央の双子の兄だ」
「、、、は?」
理解出来ていない祓い屋の少年。
「死者の魂が生者に宿っている、、、ということだけ言っておこう」
「だから魂の気配が二つ感じられたのか、、、」
(魂の気配、ね。とんでもないこをを言ったな、おい)
 魂の気配を感じ取るなど、流石のオレでもかなり集中しないと読み取れない。つまりは至難の技という訳だ。それを易々と出来るとは、感心するな。それか、村上家はそういうことを得意としているのか?
 否、オレの知る限りでは聞いたことがない。そんなことが可能な家系だったら、かなり有名になっていただろう。
『兄さま、言うの?』
「言ってほしくないなら言わない。真央が決めろ」
『うん、、、』
祓い屋の少年は刀を(さや)から引き抜き、オレに向ける。
戦闘になるな、と瞬時に理解してペットボトルのキャップを開ける。
『兄さま、、、ダメ!』
 真央の声が頭に響く。真央の願いは叶えてあげたい。だが、これだけは駄目だ。
 ペットボトルの水を流すと、パキパキと凍っていく。さっきまでの威勢の良さは何処にいったのか、少年は目を見開いていたが、やがて我に返えり、刀で斬りかかって来る。右に左に刀を振るが全然当たらない。(かす)りもしない。
 扱い慣れていないのだろう。
此奴は先程まで札を使って戦っていた。刀は確かに威力が上がるが、その分、霊力の消費も激しいと聞く。案の定、此奴は立っているのもままならない状態だ。
「おい、そのまま戦えばお前、倒れるぞ!」
 流石に倒れた此奴を運ぶのは嫌だ。倒れたら公園のベンチにでも放っておこう。
「お前に言われなくても分かってる!」
下に潜り、少年から刀を取り上げ、ついでに腕を捻り上げて地面に押し付ける。
「ぐぁ、、、」
「弱っ」
(よくこんな弱さで今まで憑き物を祓えたな、、、)
 触れた箇所から感じる霊力の少なさ、戦って消費したのか、元から少ないのか、、、。
『兄さまは強いもん!』
 使うかと思って凍らせた鋭利な氷を此奴の首に当てる。周りには数枚の札。
(ああ、なるほと、、、)
 人間相手だから刀に持ち替えたのか、、、。
「お前は札を主に使って祓っている。別に刀に持ち替えなくても飛び道具で戦えば良いだろう」
まぁその場合、札を凍らせて進行を阻止すれば良い話だが、、、。
 そう指摘すると、図星だったのか言葉を吐き捨てた。「俺たちは夏谷家みたいに能力は持っていない!だから何かの力を借りなければいけないんだ。お前達みたいに、、、生まれながらのエリートじゃないんだ!」
『あ、、、』
 嗚呼、真央が悲しむ。泣いてしまう。オレが慰めないと、ずっと守るって約束したのに。
「オレ達は確かに能力を持っている。だが、それは自由を縛る鎖でもある」
「!!」
「オレ達は、お前が羨ましいよ」
能力を持っているということは、将来が決められているのと同じだ。
 期待が重い両親。
真央が何度その期待に応えようとして、認められたくて頑張っていたこと。だけど、どれだけ頑張っても認めてもらえずに布団に潜って泣いていたことも、、、。
「お前にひとつ警告をしておこう。真央に変なことを教えたら殺す。真央の寝顔を拝んでも殺す」
 服に付いた砂を落とし、(きびす)を返した。
 これは、まだオレ達が六歳の時の記憶。真央が能力を習得した日のこと。あの頃は本当に毎日が幸せだった。
「兄さま、みてみて!お水をあやつれたの!」
「え、すごいな!」
嬉しそうにコップ一杯の水をふよふよと浮かせる。浮かせた水に凍れと思うと、パキパキと音を立てながら氷になる。
 それが面白くて、幼かったオレ達は水を操っては凍らす。という遊びをしていた。
 真央は嬉しかったのか、嬉しそうに親に見せに行っていた。
喜んでくれる。褒めてもらえる。そう思ったのだろう。
 実際、真央は満面の笑みで戻って来た。手には凍らせたプリンを持って。
「凄いねって、ほめてくれた!」
「良かったな!」
 その日の夕飯は真央の能力習得祝いに、真央の好きな物が食卓に並んだ。そういやオレも習得した日はオレの好きな物が夕飯に並んだな。
「真央は水で玲央は氷か、、、凄いじゃないか。水がある場所なら二人は最強だな」
「二人共、おめでとう。沢山作ったから沢山食べてね」
「はーい!」
「うん」
 真央は嬉しそうだった。
それから誕生日かよって思うくらい盛大に祝われた。夕飯の後には真央の好きなショートケーキとオレの好きな餡子餅が出てきた時なんかは流石のオレも目を輝かせて喜んだ。
「まお、おめでとう。大好き!」
「ありがと!まおも兄さまが大好きだよ!」
 嗚呼、何でオレの妹は何歳になっても可愛いんだろう。
前世でオレ、世界でもを救ったのか?真央がいるだけで生まれたことに感謝する。
神様、こんな可愛い妹をオレの双子にしてもらって、ありがとうございます。
(この重たい空気は、何時まで続くんだろう?)
 そんな質問に正確に答えられる人なんていないって分かっているのに、思わずそう聞きたくなってしまう。
気まずい雰囲気なのは何時ものことなのだが、今日は一段と気まずい。母は黙々と夜ご飯を食べているが、真央は何を発言すれば良いのか一生懸命頭を捻っていた。
 昨日、玲央と喧嘩してからこの調子。真央は玲央に謝罪を促したけれど、「謝罪なんかしない」の一点張り。
「アンタが、、、」
 重たい雰囲気に耐え兼ねたのは、どうやら母の方だったみたいだ。
「アンタが弱かったから、玲央は死んでしまったのよ!?少しは玲央に謝罪とかないの!?」
(え、、、)
戸惑う真央に構わず、酷い言葉を母は並べていく。
「アンタなんか、生まれてこなけ、、、ヒッ」だが、最後まで言えずに母は小さな悲鳴を上げた。母の喉には正確にフォークが当てられる。少しでも力を入れれば突きそうな距離。
「良いか。今度同じような、真央の存在を否定するようなことを言ってみろ、氷漬けにするぞ」
 玲央の言葉は氷より冷たかった。
母は何か言い返そうとしたが、鋭く向けられたフォークと、冷たい圧力を受けて黙ってしまう。
フォークを机に置き、玲央は自室へ向かった。
母だけになったリビングに残るのは母と、金属が床に落ちるカランという音だけだった。
 カタカタカタ。
キーボードを叩く音が響く。時刻は深夜二時。
オレが調べているのは村上家のこと。否、厳密には村上時雨についてだった。
(あの家は魂を読み取るとこを得意としている家系ではなかった。それに、あの少年から一瞬だけ感じた憑き物の気配、、、胸騒ぎがする)
悪いことが起こらなければ良いのだが、、、。
『兄さま』
「ん?」
『もし、私に何か危険が迫った時、兄さまならどうする?』
「傷付けた奴を殺す」
『ぼ、暴力はダメ!』
(あぁ、、、可愛い)
 オレだけ見てくれないかな?そんなことを言ったら真央が困るから言わないけど、、、。
『兄さま、そろそろ寝〜よ』
「う、、、」
あまりの可愛さに机をドンッと叩く。眠たそうな声は反則だろ、、、。理性よ、まだ耐えてくれ。
『兄さま?どうしたの?』
「大丈夫、少し虫がいたからな」
『そっか〜』
うん。今日の真央も天使級の可愛さだったな。
 キーンコーンカーンコーン。
最終下校を知らせるチャイムが鳴る。
真央はその音に反応して、教室にかけられた時計を見た。
(あっ、もうこんな時間?)
いつの間にか最終下校時刻になっていた。部活に集中すると、時間が経つの早い。
 真央が所属している漫画イラスト研究部は週に一回の頻度で集まり、イラストを描いたりお喋りをしたりする自由度の高い部活だった。
(そろそろ帰らなきゃ)
 真央は両腕を大きく広げて伸びをする。
描きかけのイラストをクリアファイルに挟み、通学鞄に入れた。
「真央ちゃん、また明日〜!」
「うん。また明日〜!」
パラパラ帰っていく先輩や同級生に挨拶をして教室を出る。
 昇降口で靴を履き替えていると、時雨に声をかけられた。
「今日、ペンギン公園で待ってる」
 ペンギン公園というのは大きなペンギンの滑り台がある公園なので、みんなペンギン公園と呼んでいる。
 今日は一緒に憑き物を祓う約束をしているのだ。
その理由は、あまりの力の差で時雨が玲央に負けたから。その日から玲央を師匠と呼ぶようになった。

 その日の夜、真央、否、玲央達は新宿の外れにいた。
ペンギン公園で待ち合わせをして目的地である新宿に向かった。
 人が沢山集まる場所は、自然と憑き物が集まりやすいのだ。
「始めるぞ」
「はい、師匠!」
「、、、」
 華やかな場所も、大通りから外れれば嘘のように静けさが包む。人通りが少ない小道を玲央と時雨は警戒しながら進む。
「イイノミツケタァ」
 声の方を見ると物陰から物欲しそうに見つめる人影を見付けた。ぽっかりと空いた黒い目をしたこれは、人ざらなる者だ。
「くらえ!」
時雨は持っていた札を投げつける。真っ直ぐに飛んだそれは見事に命中した。
「ギャァ」
一瞬悲鳴のような声が聞こえたが、やがて人影はモヤとなって消えていく。
「どうか安らかに」
時雨は先程の邪鬼がいた所に向かって手を合わせる。
 自ら望んで憑き物になった者などいない。彼らはこの世に未練があり、未練を晴らす為に体を探しているうちに憑き物となる。
その話を玲央に教えられてから、自発的に時雨は彼らの冥福を祈るようになった。
「、、、オレから真央を奪う奴はどんな奴だろうと許さねぇ」
玲央は周りにいる人ざらなる者を凍らせ、消していく。
 彼は幼い頃から"何か"によるトラブルに巻き込まれてきたので、真央以外の人間は全員『アホな霊障予備軍』くらいにしか思っていない。
天邪鬼な性格で素直になることが苦手だが、生まれつき溺愛している真央に対しては恥ずかしがることなく堂々と愛情表現をする。
 それでも、時雨に戦い方を教えているのはただ単に、真央の友達が死ねば真央が悲しむ。という理由だった。
つまり、彼にとって妹は何に代えても守るべき存在であるのだ。
「目撃情報では白いワンピースを着た二十代くらいの女性、、、でしたよね?」
「ああ」
 邪鬼は力によっていくつかのランクがある。玲央から聞いた話ではこの世の未練の強さで決まるそうだ。
未練が弱いモノは人の形を保っておらず、逆に強ければ人と区別がつきにくい。人の形を保っているモノは人を呑む可能性が高いので、見付け次第祓わないと危険なのだ。
(油断しないようにしないと、、、)
 時雨は緊張から手をぎゅっと握る。自分が足を引っ張ったらどうしようという不安もあった。
「此処は広い。二手に分かれるか」
 ぽつりと玲央が呟き、時雨は勿論了承する。
玲央と分かれ、時雨は一人で邪鬼を探す。
「キキッ」
何処からか耳障りな声が聞こえた。そちらに目を向けると、ぽっかりと穴の空いたような目で此方見つめる、真っ黒な物体と目が合う。
(いたっ!)
しかも一体ではなく複数だ。
 時雨はあらかじめ持っていた祓札を投げつけ、それらは邪鬼に見事に命中して「ギャァ」と悲鳴が上がった。体がモヤのように(かす)み、やがて消えていった。
 祓札とは、名前の通り憑き物などを祓える札のこと。その威力は縛呪札同様、作った術者の霊力によって変わる。
 その後も散策を続けては祓い、見付けては祓うの繰り返しをしていると、道の隅でうずくまる女性を見付けた。
「大丈夫ですか?」
「すこし、たいちょうがわるくて」
 女性が顔を上げる。暗い道でも分かるくらいに顔が青ざめていた。
(顔色悪っ!病院に連れてった方が良いのか?)
時雨は驚いた。
「タスケテください」
「あ、人を呼んで来ましょうか?」
 時雨は頷く。邪鬼退治の途中だとはいえ、目の前の体調が悪そうな人を放っておくことなど出来ない。
「このままじゃたてないので、てをかしてください」
「分かりました」
時雨は女性に手を差し出す。その手が触れた瞬間、遠くの方で沢山の邪鬼の相手をしていた玲央が叫ぶ。
「触るな!其奴だ!!」
「は?」
時雨は女性を見つめる。先程まで体調が悪そうな女性はにんまりと口の端を上げる。
「ツカマエタ」
 目が合った瞬間、ゾクッと寒気がした。
(人間じゃない、、、!)
 握られた手がガクンと重くなる。時雨は咄嗟にその手を振り払った。反動で女性が地面に倒れる。
「タスケテクレルッテイッタノニ」
―――白いワンピースを着た、若い女性!
 その女性は目撃情報通りだった。
再び触られそうになり、時雨は後ろへ下がって距離を保つ。
 持っていた祓札を投げつけるが、女性はひらりと避ける。
最悪なことに、この祓札が今日持って来ていた最後の札だった。
(速っ!?)
 女性が飢えた狼のようなスピードで、時雨に触れようとした時、女性を水が包み込んだ。
水を操っていたのは、真央だった。
「真央さん、、、?」
『真央、、、』
 二人は驚いた。
あれだけ憑き物などを怖がっていたのに、自ら戦いに参加したのだ。
多分、一番驚いているのは玲央だと思う。
「もう、私から仲間を奪わないで!せっかく出来た居場所を壊そうとする人は、誰だって許さない!」
 真央がそう叫んだ。女性を包んだ水は玲央の能力によって凍っていく。
―――パキン!
女性を閉じ込めた氷は粉々に砕け散る。
「こんな花氷は嫌だなぁ」虚無の感情でハハハと笑う玲央。
「凄い、、、」時雨は目を見開いて驚いている。
 自分でも歯が立たなかった邪鬼を、同じ年齢で気の弱い真央が祓ってしまったのだ。
そしてそれと同時に、夏谷家と村上家の力の差に気付かされる。
「師匠だけは敵ではなくて良かった、、、」二人に聞こえないように時雨は安堵(あんど)する。
『真央、大丈夫なのか?』
「た、、、多分?」
自分でも祓ったことに驚き、夢か現実かの区別が付かなくなるが、夢でも祓えたことが嬉しかった。
 目を開けると見慣れた天井。
「眠い、、、二度寝しちゃお」
『起きろ』
枕元に置いている目覚まし時計の針は八時を指していた。
このままじゃ遅刻する。
急いで制服に着替えようとすると、兄さまに止められた。
『カレンダー見てみな』
 言われた通りにカレンダーを見ると赤色で十二と書かれていた。そしてその空白欄に『私と兄さまの誕生日!!』と大きく書かれている。
「今日、休みだったんだ〜、、、」
『全く、、、』
 私が憑き物を祓えるようになってから二ヶ月が経った。今は梅雨の真っ最中である六月。
 カーテンを開けると昨日まで雨続きだったのが嘘みたいに晴れ。
「兄さま、お誕生日おめでとう!!」
『真央もな、誕生日おめでと』
(そっか、今日で私十六歳になったんだ!)
実感が湧かなくて鏡の前で自分を見つめる。
 見つめても鏡に映るのはテレビでよく見る大人っぽい顔ではなくて、幼い顔をした自分の姿。
下手をすれば小学六年生に見えてしまいそうだ。

「今日、真央さんと師匠の誕生日なんですか!?」
「うん」
 時雨くんの家に行き、誕生日であることを伝える。最も、今日来た本来の目的は週に一回、兄さまが時雨くんに祓い方などを色々教える日なのでお邪魔しているだけなんだけど、、、。
 なんて話していると、真四角の白い箱が目に止まる。
「時雨くん、これは?」
白い箱を指差して尋ねる。時雨くんは「これですか?」と、大切そうに箱の中身を取り出す。
 見せてくれたのは紫色の宝石が嵌め込まれた指輪だった。
「丁度、この町に引っ越して来た時にある男性に貰ったんです」
 この指輪からは何となく嫌な気配がする。禍々しい、何か。
「これを付けていると自然に霊力が高まって、どんな憑き物でも祓えるようになるんです!凄くないですか!?」
「指輪を付けるだけで?」
 確かに宝石や金属類は持ち主の霊力を貯めやすく、常日頃から霊力を貯めておけば、いざって時の命綱になることもある。だけど、、、
『付けているだけで霊力が高まるなんて、、、そんな美味い話、ある訳ないだろう』
その男性が自分の霊力を貯めて、それを時雨くんが使っているとなると話は別になるが、この禍々しい気配は何?
 そっと触ってみるとバチッと静電気が走った。
「いっ、、、!」
「大丈夫ですか!?もしかして水を操るから電気が通りやすいんじゃ、、、」
「んな訳あるか、アホ」
 兄さまは私が触れなかった指輪に触ろうとしたが、また静電気によって阻止された。
「おい、これはお前以外が触ると静電気が走るのか?」
「そうみたいですね、、、父さんと母さんも静電気を食らっていましたから」
「それを早く言え」
(指輪が持ち主を選んでいる考えるのが妥当だが、物に干渉するとなるとそれ相当の霊力を使う。可笑しい、、、この指輪からは霊力ではなくて、底知れない憑き物の気配がする。早く此奴から離さないとな)
「その指輪をよこせ」
「流石の師匠でもこれは駄目ですよ!真央さんに指輪をプレゼントするなら他のにして下さい!」
「、、、はぁ」
 呆気に取られ、眉間を軽く摘む。
『兄さま、人の大切な物を取ったらダメだよ?』
「はいはい、分かってる」
真央に止められたら無理に取り上げる訳にはいかないな。
まぁ、何も起こらなければそれで良いだろう。
 その日、夏谷家に歌夜(かや)がやって来た。
 歌夜の家は代々神社の神主をしているので歌夜も普通の人よりは霊力が高い。
少し前、憑き物に襲われているところを兄さまに助けられて仲良くなった。
「どうしたの?もう夜の六時だよ?」
少し明るいとはいえ、現在の時刻は六時をまわっていた。
「憑き物の目撃情報があったから教えようと思って」
「ありがとう!」
 リビングに招き、プリンを出す。プリンは私の大好きな食べ物。
「数回しか来ていないけど、変わってるね〜」リビングを見渡しながら歌夜が言う。
「そう?」
 別に普通の家だと思うんだけど。
「だって、憑き物落としを専門としてる家なのに普通の家だったから驚いたよ」
へ、、、普通の家だから驚くの?
「だって私が想像していたのは、石造りの外壁、照明はロウソクだけ、あとは、、、ご飯が紫色の禍々しい何か。離れの立派な建物は占いの館って聞いた時は驚いたよ」
 偏った想像に言葉が出ない。歌夜って、憑き物落としを魔王とでも思っているのかな、、、?占いの館は主に無料で訪れた人を占うだけなんだけど、、、。
『どんな偏見だよ』兄さまも呆れていた。
そして、忘れてた!と歌夜がやっと本題に入る。
「ここ最近、かなり強力な憑き物の目撃情報があったの。でも、裏取りをしているうちに忽然と姿を消して、その後の情報が掴めなくて、、、」
 もしかすると、、、
「その憑き物は姿を隠す為に人に憑依した?」
恐る恐る呟く。人に憑依することは憑き物にとって祓われない一番の安全であり、かつ手っ取り早い。
『そうかもしれないし、違うかもしれない』
兄さまは否定も肯定もしなかった。まだ確証が掴めないからだろう。
「その憑き物を追っていて分かったことがあるんだけど、、、」歌夜は言いにくそうに口ごもる。
「どうしたの?」
「その憑き物はね、、、その、、、特定の物にのみ、自分を憑依させることが出来るの」
「、、、え?」
『、、、まさか』
 特定の物にのみ、自分を憑依させることが出来る、、、?
思い浮かぶのは時雨くんが持っていた指輪。
 「流石に、、、それはないよね、、、。時雨くんは祓い屋だし、その憑き物もわざわざ自分を祓う人をターゲットにする訳がないし」
『いや、彼奴はまだ未熟者だ。それに加え霊力が高い。霊力が高い人は狙われやすくなる、、、格好の獲物って訳だ』
 歌夜が帰って行った後、時雨くんに電話をかけた。
「もしもし、時雨くん!今日見せてもらった指輪のことなんだけど、その指輪に憑き物が憑依しているかもしれないの!だから、今すぐそれを外して!!」
 早口で聞き取れなかったのかもしれないが、一秒でも早く伝えたかった。
【ちょ、、、早すぎて聞き取れなかった。もう一度お願い、、、】
「その指輪は憑き物が憑依している可能性があるから、外してほしい!!」
【わ、、、分かった、、、。外すよ、、、】
 明日学校で渡してくれるらしいので、その日は何も心配せずに眠りについた。指輪を回収したらちゃんとお祓いしてから歌夜に渡そう、、、。