俺は、覚悟を決めて朝早く学校に行く。これは賭けだ。学校には陽依がいるという。
「いたッ」
 俺の声で振り返る陽依の顔は、いつもと少し違うような気がする。
 なんというか、何もかも諦めたような、そんな雰囲気だ。
「走ってきたんだね」
 陽依がクスっと面白そうに笑う。
 ほかの人が好きなのに、自分のために走ってきたというのが面白かったんだろう。
「俺はッ、」
「言わなくていいよ。じゃあ、バイバイ」
 陽依はいつもそうだ。俺の話を遮って勝手にいなくなる。それが無性にイラつく。
「俺はッ、陽依が好きだ」
 去ろうとした陽依を抱きしめる。腕の中に、陽依がいる。暖かい。
「嘘だ・・・」
「嘘じゃない」
「本当に?」
「本当に」
 陽依が俺の腕の中から、上目遣いで聞いてくる。その目には涙がたまっている。
 本当に好きだ。
 周りの空気を読んで、笑顔で笑っているところや、友達のためなら、自分を犠牲にするところが好きだ。
 だけど、人のために自分を犠牲にするのはどうかと思うけど、そんな優しくて笑顔が可愛い陽依がどうしよもなく、好きだ。
「そっか」
「付き合って」
 俺は、陽依を抱きしめている腕に力を入れる。この脆くて今にも消えてしまう陽依が消えてしまわぬように。
「うんっ」
 そうとう嬉しかったのか、今まで見たことないぐらいの笑みを見せた。その顔が今までより一番可愛くて、頬が緩む。
「なあ、サボろう」
「じゃあ、あそこ行きたい」
「了解」
まだ、誰もいない学校俺たちの声が響いた。