電車から降りてすぐに、この前来た海へ向かう。浜辺には、ポツンと座る陽依がいた。
「いた!」
「えっ」
見つけたはずの陽依は、なにもかもどうでもよさそうな顔をして、瞳には光が宿っていなかった。
「居場所、バレちゃった」
陽依は、俺たちの声で気づいたのか、波の音でかき消されてしまうのではないかと思うほど小さい声でかすかに笑みを浮かべる。
「・・・、ダサいでしょ」
「ダサくない」
陽依は、さっきの曖昧な笑みを浮かべながら言う。その笑みは、自分をあざ笑っているみたいで。
とっさに、返してしまった。だけど、ダサいなんて思わない。
「でもさ、私。本当に死ぬ気でここに来たのに、君たちのせいで死ねなくなったじゃん」
陽依は、あのクソみたいな笑みをやめない。
自分をバカにしている笑みを。
自分なんか必要ないような笑みで。
「それはッ」
稔が苦しそうに声を上げる。その目は、自分を責めているようで。
「どうゆうこと?」
意味がわからないというようにたずねる水都。助けた水都も知らない過去。
「・・・、稔、言っていいよ」
「ああ」
稔は、陽依に了承を得たから、一旦区切って話し出す。もしかして、稔は陽依の過去を知ってるのか?
「陽依の家のこと、知ってるよな?」
「・・・うん」
水都は、まだ自分にも知らないことがあったことがショックだったのか、顔に影がある。
「陽依の親・・・いや、父親が母親と陽依を殴ったり、暴言を吐いたりしてた」
「うん」
ここまでは、俺だって知っている。昨日、ここに来た時に陽依の口から直接聞いた。
「俺は、陽依を助けたかった。でも、陽依が逃げたら母親一人で父親に殴られなきゃいけないから、って逃げなかったんだよ」
逃げれなかったんじゃなくて、逃げなかった。自分より、母親を優先して。
「でも、母親はそうじゃなかった。陽依を置いて逃げていった」
陽依は、親に見捨てられた?それを知った陽依はどう思ったのだろう。
そんなの『自分はいらない子だ』って思うはずだ。
「それでも、陽依は逃げなかった。もしかしたら、助けてくれるかもしれないって言ってた」
「えっ」
これは、俺と同じく水都も知らなかったらしい。水都も知らなくて稔は知っている。
「それで、死のうとして水都が止めたわけ。俺も、なんとなくそうかもって思って、海にいたら水都と陽依がいた」
「そうだったんだ」
知らなかった、隠された陽依の過去。その過去が陽依に大きな傷を残し、死に追いやった原因。
「父親は、逮捕された。俺が通報した。陽依は親戚の家で暮らしてる」
だから、稔はいつも水都と陽依と一緒にいたのか。陽依をこれ以上傷つけないために。
「・・・わかったでしょ。もう、帰ってよ」
その声は、やっぱり波の音で消されかける。
どうして、陽依は傷つけられなきゃいけなかったのだろう。
「わかったよ」
水都と稔は、陽依をジッと見つめた後、駅の方向に歩き出す。
俺は、動けなかった。昨日まではただ鬱陶しいかっただけだったのに、今は傷ついている陽依を抱きしめてやりたいと思った。
同情かもしれない。でも、同情じゃないかもしれない。
「・・・、私はね。君のことが好きだったの。ずっと水都のことばかり見る君が」
ッ、えっ。
「水都と稔は両思いだったのに互いに片思いしているって思ったから。だから、水都じゃなくて私を好きになったらいいのにって、思ったの」
知るはずがなかった真実。知らなかった真実。
「だって、いつも任されたことは絶対にやる。そんな君は、顔も良くて人とも仲良く話せるから、モテてるんだよ。知らなかったでしょ。でも、君は水都に夢中だった」
笑えるでしょ、というように笑う陽依。だけど、俺は全然笑えなかった。だって、陽依の顔を見たら傷ついてるってわかったから。
そして、一番よく知っていたから。好きな人に好きな人がいる苦痛を。
「じゃあ、バイバイ」
俺に軽く笑いかけてから、駅の方へ走って行った。追いかけるべきだ。
教室の時もそうだ。肝心なときに速い足が動いてくれない。
俺の足は陽依が見えなくなっていったときに、ようやく動き出した。だけど、走る気力がなかったから、歩いて家に帰ることにした。
一人で乗った電車は静かだった。今日もここに来る時も静かだったけど、なぜか今の方が静かに思える。なんで、俺は彼女に惹かれているのだろう。俺が好きなのは水都のはずなのに。
なんで、頭の中は陽依でいっぱいなんだろう。
俺は、知っている。
自分の好きな人に好きな人がいるという辛さが。知っているはずなのに、陽依を傷つけてしまった。俺は最低だ。もっと早く気づいていたら陽依を傷つけずに済んだかもしれないのに。
「どうすればいいんだ・・・」
人が少ない電車に俺の声が響く。だけど、その呟きはシーンとなった空気に溶けていく。
「いた!」
「えっ」
見つけたはずの陽依は、なにもかもどうでもよさそうな顔をして、瞳には光が宿っていなかった。
「居場所、バレちゃった」
陽依は、俺たちの声で気づいたのか、波の音でかき消されてしまうのではないかと思うほど小さい声でかすかに笑みを浮かべる。
「・・・、ダサいでしょ」
「ダサくない」
陽依は、さっきの曖昧な笑みを浮かべながら言う。その笑みは、自分をあざ笑っているみたいで。
とっさに、返してしまった。だけど、ダサいなんて思わない。
「でもさ、私。本当に死ぬ気でここに来たのに、君たちのせいで死ねなくなったじゃん」
陽依は、あのクソみたいな笑みをやめない。
自分をバカにしている笑みを。
自分なんか必要ないような笑みで。
「それはッ」
稔が苦しそうに声を上げる。その目は、自分を責めているようで。
「どうゆうこと?」
意味がわからないというようにたずねる水都。助けた水都も知らない過去。
「・・・、稔、言っていいよ」
「ああ」
稔は、陽依に了承を得たから、一旦区切って話し出す。もしかして、稔は陽依の過去を知ってるのか?
「陽依の家のこと、知ってるよな?」
「・・・うん」
水都は、まだ自分にも知らないことがあったことがショックだったのか、顔に影がある。
「陽依の親・・・いや、父親が母親と陽依を殴ったり、暴言を吐いたりしてた」
「うん」
ここまでは、俺だって知っている。昨日、ここに来た時に陽依の口から直接聞いた。
「俺は、陽依を助けたかった。でも、陽依が逃げたら母親一人で父親に殴られなきゃいけないから、って逃げなかったんだよ」
逃げれなかったんじゃなくて、逃げなかった。自分より、母親を優先して。
「でも、母親はそうじゃなかった。陽依を置いて逃げていった」
陽依は、親に見捨てられた?それを知った陽依はどう思ったのだろう。
そんなの『自分はいらない子だ』って思うはずだ。
「それでも、陽依は逃げなかった。もしかしたら、助けてくれるかもしれないって言ってた」
「えっ」
これは、俺と同じく水都も知らなかったらしい。水都も知らなくて稔は知っている。
「それで、死のうとして水都が止めたわけ。俺も、なんとなくそうかもって思って、海にいたら水都と陽依がいた」
「そうだったんだ」
知らなかった、隠された陽依の過去。その過去が陽依に大きな傷を残し、死に追いやった原因。
「父親は、逮捕された。俺が通報した。陽依は親戚の家で暮らしてる」
だから、稔はいつも水都と陽依と一緒にいたのか。陽依をこれ以上傷つけないために。
「・・・わかったでしょ。もう、帰ってよ」
その声は、やっぱり波の音で消されかける。
どうして、陽依は傷つけられなきゃいけなかったのだろう。
「わかったよ」
水都と稔は、陽依をジッと見つめた後、駅の方向に歩き出す。
俺は、動けなかった。昨日まではただ鬱陶しいかっただけだったのに、今は傷ついている陽依を抱きしめてやりたいと思った。
同情かもしれない。でも、同情じゃないかもしれない。
「・・・、私はね。君のことが好きだったの。ずっと水都のことばかり見る君が」
ッ、えっ。
「水都と稔は両思いだったのに互いに片思いしているって思ったから。だから、水都じゃなくて私を好きになったらいいのにって、思ったの」
知るはずがなかった真実。知らなかった真実。
「だって、いつも任されたことは絶対にやる。そんな君は、顔も良くて人とも仲良く話せるから、モテてるんだよ。知らなかったでしょ。でも、君は水都に夢中だった」
笑えるでしょ、というように笑う陽依。だけど、俺は全然笑えなかった。だって、陽依の顔を見たら傷ついてるってわかったから。
そして、一番よく知っていたから。好きな人に好きな人がいる苦痛を。
「じゃあ、バイバイ」
俺に軽く笑いかけてから、駅の方へ走って行った。追いかけるべきだ。
教室の時もそうだ。肝心なときに速い足が動いてくれない。
俺の足は陽依が見えなくなっていったときに、ようやく動き出した。だけど、走る気力がなかったから、歩いて家に帰ることにした。
一人で乗った電車は静かだった。今日もここに来る時も静かだったけど、なぜか今の方が静かに思える。なんで、俺は彼女に惹かれているのだろう。俺が好きなのは水都のはずなのに。
なんで、頭の中は陽依でいっぱいなんだろう。
俺は、知っている。
自分の好きな人に好きな人がいるという辛さが。知っているはずなのに、陽依を傷つけてしまった。俺は最低だ。もっと早く気づいていたら陽依を傷つけずに済んだかもしれないのに。
「どうすればいいんだ・・・」
人が少ない電車に俺の声が響く。だけど、その呟きはシーンとなった空気に溶けていく。