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「彼らの活躍で世界大戦は終結。戦後、神人たちは世界中からいーっぱい賞賛され、感謝された。それと少し前に参戦していた米国の提言により国際連盟が発足して、旧連合国のウルトラ猛プッシュによって、神人たちの長は連盟の顧問に就いたんだよね」
背筋を伸ばしたアキナは、平静な佇まいで語った。蓮をまっすぐに見つめる顔は真剣そのものだった。
アキナは湯飲みに手を付けた。ごくごくとおいしそうに茶を飲んで、ことんと置く。
「私たちの親の記憶の始まりは、『仮想空間』に来た時からなの。みーんな名の知れた武闘家で、それぞれの専門の格闘技を基にした能力で試合をして、順位に従って貰える報酬で生活してた、って話だよ。
『仮想空間』が仮想ってことは全員が覚えてて、彼らの記憶が正しい以上は『現実』の世界が存在したはず。でも不思議なことに、一〇二四人の誰一人として、『現実』についてはまーったく思い出せないんだね」
気楽な様子のアキナに、蓮は「記憶喪失」と思わず呟いた。
「そんで、どうゆう理由でかはわかんないけど、超念武の力は初代神人たちの間に生まれた子供にも引き継がれたんだ。神人と非神人の混血もいるんだけど、らくしょーで超念武は使えちゃうんだよ。なんか最近だと、神人とはまーったく関係ない人があくまで一部だけど力を持ってたりもしてるし、何が何だかわかんないよね。この世界に来た経緯もはちゃめちゃだし、神人はみんな少なからず不安なんだよ」
アキナの気易い台詞を受けて、蓮は慎重に口を開いた。
「一昨日、あなたが蹴りを放つと、窃盗犯の手に雷が落ちた。あれも超念武の一種なの?」
蓮が言葉を切ると、企むように口角を上げたアキナは、すうっと立ち上がった。
「ふむ、確かにそいつは気になるところだ。そんじゃあ宴もたけなわ、場もホカホカに温まってきたとこだし、私の念武術、『漆黒蹴姫』についてさくっと説明しちゃいますか。蓮くん蓮くん。ちょいとこっちに来たまえよ」
芝居がかった口振りのアキナは、「来い来い」とばかりに蓮に小さく右手を振った。
(なんというか、いっつも楽しそうな子だよな)ゆっくりと起立した蓮は、アキナの右隣に立った。
するとアキナは、大きく右拳を振り被った。(うわっ!)蓮は反射的に身構える。
しかしまたしても障壁が生まれ、アキナの高速パンチは蓮の眼前で静止した。
「私の超念武のスキル、すなわち念武術は、カポエィラとムエタイとテコンドーがベースなの。蹴り系格闘技のスーパー特盛フル・コースってわけだね。ちなみに稲妻は、テコンドーの技を使った時の付加効果なんだよ。
手を使った攻撃は、格闘技の動きじゃないとさっきみたいにオートで無力化されるんだ。まっ、そこそこ大きなハンデではあるよね。そんじゃあちょいと失礼しちゃって」
愉快げに語ったアキナは、不意に蓮の首の後ろに両手を組んだ。すぐにぐっと腕を折り曲げて、蓮の額を左肩に押し付ける。
「これはムエタイの首相撲。ね、不思議でしょ。神様か仏様かはわからないけど誰かの判定で、格闘技の動きって見なされたら手も使えちゃうんだよね」
あっけらかんとした語調のアキナは、キックの真似なのか、とんとんと右腿の上下運動を始めた。密着するアキナの甘い匂いが、蓮の意識を埋め尽くす。
「ちょっ、急に何を……」
慌てた蓮は両手を振り回し、拘束を解いた。素早く下がって距離を取り、信じられないという思いでアキナを見遣る。
平気な様子のアキナは、くるんとクウガに顔を向けて声高に叫んだ。
「ついでに言っとくとさ。私の『漆黒蹴姫』みたいに、私たち神人の心には、自らのスキル、すなわち念武術の名前が刻まれてるの。わかりやすく言うとね。男と女の内、自分の性別はこっちだ! ってもし蓮くんが心の中で思ってるとしたら、それに近いかな。私も物心がついた時には自分を『漆黒蹴姫』って認識してたんだよ。だよね、『白黒自在』」
「……声高に言うと自慢染みてて鬱陶しいだろ。つくづくお前は、どうも、な」
歌うような調子で話を振ったアキナに、クウガは呆れた風に答えた。
「話が逸れた上、身内が場にそぐわない、かつ対応に困る真似を働いて本当に申し訳ない。後できっちり言っておきます。自己紹介はこの辺にしてそろそろ本題に入りましょう。こうしている間にも、凶悪な殺人犯の手掛かりは失われていく。それだけは断固回避しないと行けない」
クウガが淡々と締めた。
一方で、「辛い事件があったからって暗ーくしてたら、気分が滅入っちゃうでしょ」と、アキナは不服そうな面持ちを浮かべていた。
次にこっそりと雪枝に目を移すと、柔らかくはあるが困ったような微笑だった。
(母親としては反応に困るよな。……うん。気を取り直して、捜査を頑張ろう)
蓮はひそかに決意を固めるのだった。
「彼らの活躍で世界大戦は終結。戦後、神人たちは世界中からいーっぱい賞賛され、感謝された。それと少し前に参戦していた米国の提言により国際連盟が発足して、旧連合国のウルトラ猛プッシュによって、神人たちの長は連盟の顧問に就いたんだよね」
背筋を伸ばしたアキナは、平静な佇まいで語った。蓮をまっすぐに見つめる顔は真剣そのものだった。
アキナは湯飲みに手を付けた。ごくごくとおいしそうに茶を飲んで、ことんと置く。
「私たちの親の記憶の始まりは、『仮想空間』に来た時からなの。みーんな名の知れた武闘家で、それぞれの専門の格闘技を基にした能力で試合をして、順位に従って貰える報酬で生活してた、って話だよ。
『仮想空間』が仮想ってことは全員が覚えてて、彼らの記憶が正しい以上は『現実』の世界が存在したはず。でも不思議なことに、一〇二四人の誰一人として、『現実』についてはまーったく思い出せないんだね」
気楽な様子のアキナに、蓮は「記憶喪失」と思わず呟いた。
「そんで、どうゆう理由でかはわかんないけど、超念武の力は初代神人たちの間に生まれた子供にも引き継がれたんだ。神人と非神人の混血もいるんだけど、らくしょーで超念武は使えちゃうんだよ。なんか最近だと、神人とはまーったく関係ない人があくまで一部だけど力を持ってたりもしてるし、何が何だかわかんないよね。この世界に来た経緯もはちゃめちゃだし、神人はみんな少なからず不安なんだよ」
アキナの気易い台詞を受けて、蓮は慎重に口を開いた。
「一昨日、あなたが蹴りを放つと、窃盗犯の手に雷が落ちた。あれも超念武の一種なの?」
蓮が言葉を切ると、企むように口角を上げたアキナは、すうっと立ち上がった。
「ふむ、確かにそいつは気になるところだ。そんじゃあ宴もたけなわ、場もホカホカに温まってきたとこだし、私の念武術、『漆黒蹴姫』についてさくっと説明しちゃいますか。蓮くん蓮くん。ちょいとこっちに来たまえよ」
芝居がかった口振りのアキナは、「来い来い」とばかりに蓮に小さく右手を振った。
(なんというか、いっつも楽しそうな子だよな)ゆっくりと起立した蓮は、アキナの右隣に立った。
するとアキナは、大きく右拳を振り被った。(うわっ!)蓮は反射的に身構える。
しかしまたしても障壁が生まれ、アキナの高速パンチは蓮の眼前で静止した。
「私の超念武のスキル、すなわち念武術は、カポエィラとムエタイとテコンドーがベースなの。蹴り系格闘技のスーパー特盛フル・コースってわけだね。ちなみに稲妻は、テコンドーの技を使った時の付加効果なんだよ。
手を使った攻撃は、格闘技の動きじゃないとさっきみたいにオートで無力化されるんだ。まっ、そこそこ大きなハンデではあるよね。そんじゃあちょいと失礼しちゃって」
愉快げに語ったアキナは、不意に蓮の首の後ろに両手を組んだ。すぐにぐっと腕を折り曲げて、蓮の額を左肩に押し付ける。
「これはムエタイの首相撲。ね、不思議でしょ。神様か仏様かはわからないけど誰かの判定で、格闘技の動きって見なされたら手も使えちゃうんだよね」
あっけらかんとした語調のアキナは、キックの真似なのか、とんとんと右腿の上下運動を始めた。密着するアキナの甘い匂いが、蓮の意識を埋め尽くす。
「ちょっ、急に何を……」
慌てた蓮は両手を振り回し、拘束を解いた。素早く下がって距離を取り、信じられないという思いでアキナを見遣る。
平気な様子のアキナは、くるんとクウガに顔を向けて声高に叫んだ。
「ついでに言っとくとさ。私の『漆黒蹴姫』みたいに、私たち神人の心には、自らのスキル、すなわち念武術の名前が刻まれてるの。わかりやすく言うとね。男と女の内、自分の性別はこっちだ! ってもし蓮くんが心の中で思ってるとしたら、それに近いかな。私も物心がついた時には自分を『漆黒蹴姫』って認識してたんだよ。だよね、『白黒自在』」
「……声高に言うと自慢染みてて鬱陶しいだろ。つくづくお前は、どうも、な」
歌うような調子で話を振ったアキナに、クウガは呆れた風に答えた。
「話が逸れた上、身内が場にそぐわない、かつ対応に困る真似を働いて本当に申し訳ない。後できっちり言っておきます。自己紹介はこの辺にしてそろそろ本題に入りましょう。こうしている間にも、凶悪な殺人犯の手掛かりは失われていく。それだけは断固回避しないと行けない」
クウガが淡々と締めた。
一方で、「辛い事件があったからって暗ーくしてたら、気分が滅入っちゃうでしょ」と、アキナは不服そうな面持ちを浮かべていた。
次にこっそりと雪枝に目を移すと、柔らかくはあるが困ったような微笑だった。
(母親としては反応に困るよな。……うん。気を取り直して、捜査を頑張ろう)
蓮はひそかに決意を固めるのだった。