10

 蓮は再び、何十分か前に幻視した宇宙と思しき場所にいた。
(まただ。いったいここは何なんだ?)疑問を抱きつつも、蓮は周囲を確認する。
 へたり込む気の強そうな女性に、黒色の鳥形物体を纏い宙に浮く者。鈍色の謎の空間は、蓮が四条大橋に来る前に見た最後の状況のままだった。
 眼前にはやはり、蓮の姿をした「何か」がいた。蓮と目が会うと穏やかに笑んだ。直後、「何か」の身体がすうっと透けていき始める。
 やがてもう一人の蓮の身体に重なる形で別のものが現れ始めた。初めは向こうの風景が完全に見えるほど透明だったが、徐々に透明度を減じていく。十秒ほどすると完全に実体化した。蓮は目を見張る。
 蓮の眼前にいるのは龍だった。色は背も腹も、神聖で汚れなき純白。背中を覆う毛はきめ細やかで、風もないのに優雅に揺らめいている。角と髭を有する顔は猛獣に近いものがあるが、不思議と恐ろしくは感じなかった。
 体長は二メートル強と思われ、空中で身体を曲げているため目線の高さは蓮と同じだった。瞳は白縹(しろはなだ)色で、蓮の心の底を見通すかのように澄んでいる。
「お前、いやあなたは、白神龍(ホワイトドラゴン)?」
 蓮が呆然と問うが、龍は応答せずするりと空中を泳ぎ近づいてくる。
 逃げる必要を感じず、蓮は龍の接近を受け入れた。やがて龍と蓮の額がこつんと当たる。すると額を始点に、蓮の身体中に暖かいものがとろとろと広がり始める。
 温感が爪先まで至ると、龍の姿が一瞬でふっと消え、辺りが再び光に包まれ始める。