第三章 連戦〈restless battle〉

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 自首勧告の期限である十一月十八日になった。だが護国輔翼会からは何の通告もなかった。
 十時になり、クウガ、アキナ、蓮の三人は、蓮の家から外に出た。家ではもう一人の神人が護衛役として、雪枝とともに残っていた。
「ついにこの日が来ちゃったね。降参してくれりゃあ、だーれも傷つかずに済んだけど、もう賽は投げられた。蓮くんのお父さんの敵の悪党どもだ。遠慮はなしでぼこぼこにぶっ潰しちゃうだけだね」
 軽快な動きで屈伸をしつつ、アキナは平静な様子で呟いた。落ち着いた視線を向ける方向は、平安神宮。護国輔翼会の拠点があるあたりである。
 瞑想するかのように目を閉じていたクウガは、アキナの言を受けて瞼を開いた。迂闊には近づけないような、抜身の刀のような鋭い佇まいを見せている。
「目標は一つ。首魁、水無瀬秀雄を初めとした護国輔翼会の外道どもを倒し、安寧を取り戻す。それを妨げるものは皆即刻排除! 問題ないな! 蓮、アキナ!」
 有無を言わさぬ調子で宣言したクウガに、「もちろんだよ!」とアキナは声高に即答した。
「蓮」という初めての呼称に狼狽えるも、蓮は「了解!」と気持ちを切り替えた。
「あらあら、『即刻排除』と来はりましたか。血気盛んなことで。怖うおすなぁ」
 おっとりとした京言葉が頭上から聞こえ、蓮は声の方向に顔を向けた。
 道の少し先、十メートルはあろうかという木製の電柱の頂点に女の姿があった。朱色と白の銘仙(絹織物)と、胸の下にまで至る小豆色の女袴を纏っており、靴は黒色のブーツである。肩甲骨まで伸びた黒髪をお下げにしており、後頭部の朱色のリボンで締めていた。典型的な女学生といった出で立ちである。
 薄化粧の上にわずかに頬紅を用いているようで、眉には眉墨、唇には紅を上品に付けていた。ぱっちりとした目鼻立ちの別嬪で、歳は二十歳頃かと思われる。
「何者だ」と、剣呑な調子でクウガが応じる。
「名乗るほどのものでもあらしまへんがなぁ。まあせっかくのご縁どすし、名前ぐらい教えるのも一興やろか。水無瀬葵依(みなせあおい)。護国輔翼会の長の一人娘や。よろしゅうおたのもうします」
 場違いに緩慢な挨拶の後、葵依は雅に一礼をした。
「護国輔翼会の……。あんたが父さんを殺したのか!」蓮は強く詰問した。
「うふふ。そうとも言えるし、そうでないとも言えますなぁ。まあどちらでもそう変わらしませんやろ。肝心なのは、あんたはんの父親は既に失われてるゆうことと、あんたもすぐに同じ道を辿る運命やゆうことやさかいに」
 蓮の怒りもどこ吹く風、嫋やかな微笑の葵依は他人事のような調子だった。
「先手必勝だ!」アキナは叫んで腕を振り、その場で一回転。遠心力を付けて、上方へとびしりとシャーパジラトーリオ(回転足刀蹴り)を繰り出した。
 瞬時にアキナの頭ほどの大きさの、黒く燃え盛る火球が発生。唸るような音とともに葵依の頭部へと飛んでいく。
「あらあら、あきまへんな。嫁入り前の娘が、左様に血の気が多くてどうするん。折角の別嬪さんやのに、殿方に愛想尽かされてしまうえ」
 葵依は驚いたような顔になったかと思うと、火球の衝突の直前にふうっと消え去った。
「逃げるのか、弱虫!」
 アキナの子供っぽくも凛々しい挑発には、誰も応答する者はいなかった。