そんなある日、朝登校するとやけに教室が騒がしかった。どうしたのかと教室の中を覗くと奏とクラスの男子数人が喧嘩をしていた。
「お前男のくせに男と付き合ってんの?しかもあの地味男とかよ、趣味悪いな。」
僕の心がズキりと痛んだ時、
「遥風をバカにすんな!」
そう言って奏は相手を殴った。周りの悲鳴で奏がこちらを振り向き、僕がいることに気がついた。奏の遥風と呼ぶ声を後ろに僕は走り出した。僕を悪く言われて怒ってくれたのはとても嬉しかった。それは間違いないのだが、あの時一瞬怖いと思った自分がいた。それに驚いて教室を出てきてしまったのだ。屋上に続く階段を駆け上がりへたりこんだ。次々に色々な考えが頭を巡っていく。次第に涙が込み上げてきて溢れ出した。俯いて泣いていると誰かに肩を揺すられた。期待を胸に顔を上げると、奏ではなくて担任だった。
「遥風、どうしたんだ?探したんだぞ。」
僕は再び俯いてすみませんと答えた。
「クラスで皆が騒いでいることと関係あるのか?奏もどこにいるのかわからないし。お前、知らないか?」
僕は首を振った。思い返せば僕は恋人なのに奏の趣味すら答えられない。本当に僕は正真正銘付き合っていると胸を張って言えるのだろうか。答えはノーだ。僕が思考を巡らしている最中にも先生からの猛攻は続いた。
「え、お前ら付き合っているって本当なの?」
最後にそう言われ僕が顔を上げると
「やっとこっちみた。笑うつもりは全くないけど事実を知らないと奏のことも守ってやれないからな。」
僕は全てを話すことにした。僕の家が大変なこと、それを聞いて奏が手伝いに来てくれたこと。奏に告白されて付き合っているということ。今朝学校に来たら奏たちが喧嘩をしていて僕を馬鹿にしたことで奏が怒って殴ったこと。僕は恋人なのに何も知らないということ。ありったけ今考えていることを並べ上げた。先生は静かに聞いていてくれ最後に深く頷いた。
「事情はわかった。奏が百ゼロで悪くないとは言えないけど、弁護はするよ。それでお前、このままここでべそかいて逃げる気か?」
え?と答える僕に先生はこう言った。
「何も知らないなら聞けばいいだろ?行け、遥風!」
僕は頷いて走り出した。きっと奏も僕を探して走り回っているに違いない。それなら、きっとあそこだ。僕たちが出会った場所、図書室へ僕は向かった。
「奏!」
僕が図書室に飛び込むとそこには山口先生以外誰もいなかった。勘違いだったのだろうか?他を当たろうと外に出ようとすると奏がこちらに向かってくるのが見えた。僕は走り寄って奏を抱きしめた。