夜、公園のベンチに座って話していると奏の携帯電話が鳴った。少し揉めている様子で声を荒げて奏が必死に抵抗している。電話が終わり深いため息と共に戻ってくると奏は再び謝った。
「ごめん、今日遥風の家泊めてくれない?家帰れないや。」
僕はもちろんオーケーし、一緒に家に帰った。妹の分の食事を部屋の前にセットし僕たちは夕飯を食べ始めた。
「美味っ!遥風料理の才能あんじゃないの?」
「いや、普通だよ。でも喜んでもらえて嬉しいな。ずっと一人だったから味なんてわかんないし。」
そういうと奏は僕に美味いと連呼した。思わず笑ってしまった。妹は怒っていたがとても楽しい時間だった。
 翌日も翌々日も奏は家に泊まった。僕は構わなかったがご両親が心配しているだろうと思い家に帰ればというと強目にいや、帰らないと答えられた。僕はそういうものなのかと思いわかったといってそのまま食事の準備を進めた。電気を消して眠りについた数時間後、僕は物音で目が覚めた。
「遥風、愛してる…。いや、そんなこと言ったら気持ち悪いよな。この気持ちは俺の中でだけ生きてていいものだ。隠すんだ奏。」
そして僕の頬を彼の指がなぞったかと思えば足音が離れていった。一方僕の心臓は激しい音を立ててバクバクとしていた。奏が僕を好き?嫌ではないけどなんで?というか男同士って成立するのか?疑問がいっぱいでその日はもう眠りにつけなかった。翌日は日曜日で休日だったのでいつもの時間を過ぎてもベッドにいると奏に肩を揺すられて目を開いた。
「遥風、おはよう!外遊びに行かない?」
僕は突然の誘いに戸惑いつつも了承し着替えてリビングに降りた。簡単な食事を作り妹の部屋の前に置くと僕たちも食事を摂り外へ出た。
「今日はどこに行くの?映画でも見ちゃう?」
そう尋ねると奏はいいねと言って同意してくれた。近くの映画館に向かい医療系の映画に決定すると時間まで近くのベンチで喋って過ごした。映画はとても面白くて終わった後も熱から冷めないような感覚だった。映画について熱く語っていると奏の携帯電話が鳴った。
「もしもし?うん、うん。いや、うん。わかった。」
何を話しているのかはわからないが彼の表情からいい話ではないとわかった。電話が終わりこちらを振り向くなり奏は謝った。
「ごめん!帰らないといけなくなった。この埋め合わせは必ずするから!ごめんな。」
奏は僕の頭を撫でると早歩きで帰って行った。
 翌日も翌々日も奏は学校に来なかった。家に帰っていつものように食事を作りながら僕は呟いた。
「奏の嘘つき…。埋め合わせするって言ったのに学校すら来ないじゃんか……。」
そう呟くと外から風が吹き込んできてカーテンが揺れた。そして遠くから僕を呼ぶ声が聞こえた。窓から顔を出すと奏が大きく手を振って笑っていた。僕は急いで家を出ると奏に駆け寄った。
「奏!心配したんだぞ、なんで学校来ないんだよ!」
思わず涙が溢れ出してた。その涙を奏は指で拭い何かを呟いた。聞き返すと、ぎゅっと抱きしめられた。
「好きだ遥風!お前の真面目なところも、実は涙脆いところも、本当は静かにして欲しいのに我慢して自分が席を立つような優しいところも、口が悪いところも全部好きだ!本当は前からお前のこと知ってたんだ。」
僕はきっと顔が真っ赤になっていたと思う。何か答えなければと焦って口を開こうとすると奏に口を覆われた。
「待って。どうせフラれるってわかってる。だから俺に一週間だけ時間をくれないか?」
僕が頷くと奏は満足そうに頷くと今日は家に帰ると言って帰って行った。翌日は学校に来た奏は登校する真っ直ぐに僕の元へやってきてた。僕は急に閃いて
「今週の日曜空いてる?」
と聞いた。空いてるけどと言う奏に僕は半ば強引に遊ぶ約束を取り付け映画の埋め合わせの会を計画した。それからは学校でもあまり話す機会がなくなってしまって、日曜日まで電話でしか打ち合わせできなかった。当日、待ち合わせ場所に行くとすでに奏がいて僕を待っていた。声をかけに行くとこちらに気がついて僕の手を取り歩き出した。急いで横に並ぶと話しながらショッピングモールへ向かった。おしゃれなカフェに入り、談笑していると急に真剣な顔になって僕に言った。
「遥風、答えを聞きたいのだけど、正直言って盗み見してたなんて自分でもキモいと思っているし、男同士って抵抗あるやつもいるから。ないと思ったらはっきり言ってくれ。」
僕は深く息を吸い込んで吐き出した。
「僕は…。僕はいつもキラキラしていて弱い所を誰にも見せない君のことが心配だった。でも僕と一緒にいて笑顔を見せてくれた、話をしてくれた。そして好きになってくれた。僕は君のことが、奏のことが大好きだ!」
フラれることを想定していたのか驚いた表情で奏は固まってしまった。
「え?うそ。遥風も俺を好き?え、待って信じられない。」しばらくの間の後奏は
「え、嬉しすぎるって!やった、俺たち両思いだ。」
と現実を噛み締めたような笑顔で言った。その日から僕らは恋人になった。そして僕らは手を繋いで歩き出した。